日本にとって中台関係は「平和共存」が望ましい

ペロシ米国下院議長の訪台

米国民主党ペロシ下院議長は8月2日台湾を訪問し、翌3日には台湾の蔡英文総統と会談した。ペロシ氏は会談で「台湾と世界の民主主義を守るための米国の決意は揺るがない」と述べ、蔡氏は「軍事威嚇に対して台湾は退くことなく、民主主義の防衛線を固く守り抜く」と応じた。

ペロシ氏の訪台に対して、中国の王毅外相は談話を発表し、「中国の主権を侵害し、政治的挑発を公然と行った。米国は台湾海峡の平和と地域安定の最大の破壊者になっている」と強く非難した。そして、対抗策として、中国軍は8月4日から台湾を取り囲む6か所の海域で大規模な軍事演習を行った。

ペロシ氏の訪台は米国下院議長としては1997年以来25年ぶりであり、明らかに今年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を念頭に置いたものである。

すなわち、ロシアによるウクライナ侵攻は、米国民主党バイデン大統領の「軍事介入をしない」というロシアに対する「弱腰」の対応がもたらしたものとの批判が、共和党トランプ前大統領をはじめ米国内に根強くあり、民主党ペロシ氏としては、米国が台湾を守る意思を明確にして、ウクライナの二の舞を回避する狙いがあるものと考えられる。その意味で理解できる行動ではある。

Andrew Linscott/iStock

「台湾有事」の危険性

しかし、ペロシ氏の訪台に強く反発した中国による台湾周辺海域での大規模な軍事演習により「台湾有事」の危険性が高まったとみられる。なぜなら、今回の中国軍による大規模な軍事演習は、台湾を東西南北から完全に包囲する形で行われており、実際の台湾進攻の「予行演習」の意味合いを持つからである。

中国軍による実際の台湾進攻では、中国軍は台湾を包囲する6か所以上の海域から一斉に上陸作戦を含めミサイル攻撃や艦砲射撃等の攻撃を同時に全面的な電撃作戦として敢行する公算が強い。のみならず、中国大陸沿岸部からのミサイル攻撃及び戦闘爆撃機による台湾本島の軍事基地や重要インフラ等に対する空からの攻撃や大規模なサイバー攻撃などもありうる。そうなれば、台湾側の反撃防御態勢が6か所以上に分散される危険性がある。この点が台湾側の最大の弱点であり懸念材料である。

可能性が高い中国軍による6か所以上の海域からの同時全面的電撃作戦は、ロシアによるウクライナ侵攻作戦の長期化という「失敗」を教訓にしたものであり、米軍の本格的軍事介入を阻止し、米国による大規模な武器援助の前に決着をつける「短期決戦」を狙ったものである。この作戦は同じ中華民族である台湾住民に「敗戦気分」や「厭戦気分」をもたらす可能性がある。

私見では、「台湾有事」に対する米軍の本格的軍事介入はないとみられる。なぜなら、台湾は米国の同盟国ではないこと、米軍の本格的軍事介入は核を含む米中の全面戦争に発展する危険性があること、中台戦争は中華民族同士の一種の「内紛」「内戦」とも見うること、などによる。そのため、米国議会は軍事介入を承認せず、ウクライナに対するのと同様な台湾への武器援助にとどめるであろう。

軍事専門家の中には、中国軍にとってはロシアと地続きのウクライナとは異なり、両岸百数十キロの台湾海峡という自然の障碍があるから、中国軍による台湾上陸作戦は容易ではないとの見解がある。しかし、台湾はウクライナに比べると面積が極めて狭く、人口も密集し、中国軍による海から空から陸からの大量のミサイル攻撃や航空機による爆撃などには脆弱性がある。したがって、これらによる同時短期全面攻撃後の上陸作戦は必ずしも困難とは言えないであろう。

日本にとって中台関係は「平和共存」が望ましい

以上の通り、もし「台湾有事」になれば、明らかに戦力的には中国軍が有利である。台湾としては、中国軍と互角に戦うためには米国や日本による軍事介入が不可欠である。ウクライナ侵攻を見ても武器援助のみでは反撃は不十分だからである。

しかし、米国および日本による「台湾有事」への軍事介入は中国との戦争をもたらす危険性が高い。まさに「台湾有事」は「日本有事」になりかねない。したがって、日本としては台湾の防衛のために米軍と協力して「重要影響事態」または「存立危機事態」として自衛隊が出動すること、すなわち、他国間の戦争に巻き込まれることを日本国民の多数が容認できるのかどうか、まさに、日本国民の覚悟が問われるのである。

このように考えると、日本にとっては、中台関係は「平和共存」が望ましいことが明らかである。日本はそのためのあらゆる方策をとるべきである。第一は、日本としての対米・対中・対台湾への「台湾有事」を抑止する平和外交努力である。第二は、日本としての米国・台湾と連携した中国による「台湾進攻」を抑止するに十分な「抑止力」の強化である。

日本としては、とりわけ、「反撃能力」としての北京を射程に収める長射程極超音速弾道・巡航ミサイルの開発・配備は不可欠である。これは中国に対する日本・米国・台湾三国の連携した抑止力の強化をもたらすからである。もとより、平時における台湾自身の自主防衛力の強化と、そのための「台湾関係法」に基づく米国の武器供与が最も重要であることは言うまでもない。

この連携した三国において中国をはるかに凌駕する米国の核を含む強力な「抑止力」を構築すれば、中国の軍事力による「台湾進攻」は不可能になり、中国の好むと好まざるとにかかわらず、中台関係は「平和共存」の関係が持続可能になる。なぜなら、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、ウクライナの核を含む対ロシア抑止力が不十分であったために起ったことが明白だからである(2022年3月15日掲載「ウクライナ侵略の教訓:抑止力なき国は侵略される」参照)。