【めいろまさんインタビュー②】イギリスも物価高騰!日本人はまだ恵まれている?

アゴラ編集部

めいろまさん(@May_Roma)こと谷本真由美さんが3年ぶりに日本に帰国されました。これを記念して、アゴラ編集部では独占インタビューを敢行しました。今回は第二回目になります。(第一回はこちら

欧州の電力事情は日本より厳しい @OfficialTEPCOより

——イギリスの物価やエネルギー事情はどのようになっているのでしょうか。

めいろまさん(以下、めいろま):イギリスのエネルギー価格は日本よりもさらに厳しい状況です。さらに熱波がきていて、この夏はロンドンでも40℃を超えています。もちろん、電気の使用量は増えています。電力の卸売価格も高騰しており、日本より状況が深刻です。火力発電、原発で補っていますが、かなり厳しい状況です。

ですからヨーロッパではもう「グリーンなんちゃら」のたぐいのものは止めようという話になりつつあり、原発ありきで電力を調達するのが当たり前になりつつあります。

さらにイギリスの消費者物価指数(CPI)は2022年の6月は、前年比で8.2%と、ここ40年以来最高です。

参考 https://www.ons.gov.uk/economy/inflationandpriceindices

やはり大きいのは光熱費の高騰です。年金や給与が上がっていないので、光熱費の負担が重くのしかかっています。イギリスの光熱費は今年の秋までに70%上昇するといわれており、家庭あたりの以下月5万円近くになるとの予測です。

参考 https://www.themoneyedit.com/household-bills/energy/when-is-the-energy-price-cap-announced

イギリスの国民年金は週に141.85ポンド(1ポンド162円換算で22979円)なので、日本円にすると月92000円程度なので、日本より物価が遥かに高いイギリスでは決して多くはありません。

参考:イギリス政府 https://www.gov.uk/state-pension

日本のような厚生年金がなく、国民全員が国民年金ですから、多くの人が国民年金の他に個人年金をかけています。

——イギリスの年金事情は日本より厳しいのですね。個人年金はどのようなものなのでしょうか。

めいろま:企業勤務の場合は個人年金に会社側が給料の10−30%ほどに当たる掛け金を給料とは別に福利厚生として支払ってくれます。それを個人年金運用会社が株式や債券、現物で運用して引退後に追加の年金を受け取ります。

そのため年金は株式市場などの運用成績によりますので、国民年金と個人年金を合わせた総額は個人個人で大きな差があります。掛け金が大きく報酬の高い人は年金が高くなります。

また個人年金以外に不動産、コレクター向けのグッズ、森林、スタートアップへの投資などで老後資金への投資を行っている人も多く、日本よりも運用方法が遥かに多様で柔軟です。

ただし大半の人は大企業に勤務しているわけでも公務員でもないので、個人年金も微々たるものだったり、全く無かったりしますので、国民年金のみ、という人も多いのです。

従って、月に9万円少々の国民年金の人が、現在は電気代を月に3−5万円払わなければならないという例が出てきています。

ロシアが戦争をか始めてからガソリン価格が急騰し、1Lで300円です。イギリスはサッチャー改革で赤字の鉄道路線やバス路線を大幅に整理したため、日本に比べ遥かに車社会です。少々郊外に行くと車以外足がないので、現在の燃料危機は実に深刻です。

日本は光熱費に対する政府補助が大きく、また政府は赤字路線の整理を行っていませんのでまだまだ公共交通機関のルートが多く、日常生活において、交通手段への価格高騰からロシアの戦争の影響を感じない人が多いでしょう。

また政府もどれだけ支援しているか、細かく発表しないので、日本の人は政府にどれだけ助けられているかを実感していないのです。単に広報がうまくないだけかと思うのですが、日本政府はそのあたりをもっと伝えるべきでしょうね。日本政府は欧州に比べ、燃料の多様化でもよくやっています。

——ウクライナ侵攻の影響は、国によって違いはあるのでしょうか。

めいろま:欧州はドイツや東欧諸国を筆頭に、ロシアへのエネルギー依存度が高いので、ロシアの戦争による資源高の影響は日本以上です。欧州で使用される天然ガスの35%がロシア由来です。

ドイツは1970年代からアメリカに対抗する独自外交を展開し、ソ連に対して不用意に接近してきました。おそらくドイツ内部に親ソ連、新ロシア派がかなりいるのでしょう。ドイツの普段からの左翼路線もそれが原因です。

さらにドイツはエネルギー価格が安いこともあって、ロシアにはありえないレベルで依存してきました。例えばドイツの2021年の天然ガスの輸入の55%はロシアに依存しています。原油は3割がロシアからの輸入です。ドイツ全体ではエネルギーの27%が天然ガスですが、ロシアの意向でその半分の供給がストップしてしまう状態なわけです。

参考 https://www.businessinsider.com/germany-europe-russia-gas-renewables-oil-energy-security-ukraine-war-2022-4

参考 https://www.businessinsider.com/germany-europe-russia-gas-renewables-oil-energy-security-ukraine-war-2022-4

このため今年の冬に、ドイツの都市の中には公共施設でのお湯の仕様を制限、暖房の温度を下げざるを得ない状況にまで追い詰められています。ロシア依存し、中長期でのリスクを考えなかったリスクに直面しているわけです。

ある意味自業自得で、欧州ではそのようなドイツに対して実に冷ややかに対応する国だらけです。ドイツはウクライナに対する軍事支援にも積極的ではありません。日本はこんなばかげたエネルギー政策を展開してきたドイツを見習ってはなりません。

イギリスは流石に諜報の国で、ドイツに比べてロシアへの依存度が低いので、ロシアに対する警戒心が非常に高かったのがよくわかります。

イギリスが使用する天然ガスのうちロシアから輸入は3%にすぎず、その他は30%ほどが北海で、ノルウェー、中東、アメリカなど多様化しています。ただし、イギリスのエネルギー市場は欧州だけではなく世界市場の影響を受けますので、ロシアの戦争による価格高騰から逃げることはできません。

参考 https://inews.co.uk/news/where-uk-gas-how-much-energy-supply-russia-1779418

燃料費の高騰は消費者の消費マインドにも大きな影響を及ぼしています。イギリスの場合、今年の夏は休暇に行かない人だらけです。コロナの規制は全て解除されていますが、コロナの最中に解雇された人も多い上に、光熱費を払えないのでお金を節約する人だらけです。小売では在庫が叩き売られる状況になっています。経済全体が縮小しており、政府の対策が不十分だという声が高くなっています。

——政府の援助がないという点でも、イギリスの人びとは日本人以上に深刻な影響を受けているのですね。

その3につづく

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谷本真由美さん @May_Roma (めいろま)

ITコンサルタント。専門:ITガバナンス、プロセス改善、サービスレベル管理、欧州IT市場および政策調査。ITベンチャー、経営コンサル、国連専門機関情報通信官、外資系金融機関等を経て日英往復。趣味HR/HM。仕事依頼 Twitter @May_Roma