【めいろまさんインタビュー⑥】日本人とイギリス人の仕事観の違いを聞いてみました。

めいろまさん(@May_Roma)こと谷本真由美さんが3年ぶりに日本に帰国されました。これを記念して、アゴラ編集部では独占インタビューを敢行しました。今回で最終回になります。(第五回はこちら

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——日本とイギリスの仕事・業務の仕方のちがいはどこからきていると思われますか?

めいろまさん(以下、めいろま):ほかの先進国は分業制でやっていますね。元を辿れば封建制ではないでしょうか。農民は農民。職人は職人。配膳の担当の人は配膳。このように仕事が決まっていました。他の人が別の人の仕事をするとその人の仕事がなくなっちゃうことを防ぐという意味もありますね。

最近ふと思ったのは、これは酪農主体のやり方に由来するんじゃないかということです。米作りだと労働集約的になりますが、牧畜だとある程度役割を決めて作業を行います。そこが日本とイギリスはじめ欧州との働き方の違いに繋がってくるのでは。

——日本は独自の文化を持っているということでしょうか。

めいろま:欧州でも農業主体の地域は日本と近い印象を持っています。例えばイタリアの米作地帯や小麦を作る地域の人の感じは日本人に似ています。まるで日本の東北の人と接しているのかな、と感じることがあるほどです。そば粉が主食の地域の人々は長野や山梨の人に似ています。

欧州から少し外れますが、ウクライナやトルコのような地域も日本に似ている部分があります。みんなで協力して一緒に仕事をしますし、冠婚葬祭が似ている。引っ越しもあまりせず、郷土愛が強いのです。会社の雇用もなんとなく日本企業のようで、北米やイギリスのような過酷なレイオフはやりませんね。科学的ではなく感情的で情があります。

ウクライナの人たちは日本人に似ていてとても協調的です。今回のロシアの侵攻で、ウクライナの人たちが火炎瓶を製造する姿を見ていました。地元の婦人会や町内会の人がみんなで協力して、年長者が年下の人に色々指示を出して、延々と製造をしています。まるで日本の祭りの準備のようです。彼らは前線で兵士が使用するカムフラージュ用の膜も手縫いで作りますが、まるで伝統工芸の刺繍を共同でやっているように見えました。ドイツやフランス、イギリスの人たちだと、とっさに協力するのはまず無理です。これも普段より農村地域の共同体的な意識が残っているからでしょう。日本で祭りや地域の行事をスムーズにやることができるのと似ていますね。

——ヨーロッパは契約関係がしっかりしているという印象がありますが。

めいろま:ウクライナやポーランド、ブルガリア、アルバニアなどの農業系の国の出身者はわりと柔軟に仕事してくれます。イギリス人やフランス人は、なかなか難しいです。自分の担当以外はやらず、契約書にしたがる人も多いです。ですから、この「契約主体」の地域の人々と「柔軟に対応する」地域の人々が同じチームになると、業務の工数計算やすり合わせが大変になります。考え方が違うので揉める原因になります。日本人は「柔軟に対応する」地域の人々なので、どちからというと、東欧の人々とうまくいきます。

私は両方の感覚がわりとわかる人間なので、両者の調整をすることになりますが、いつも苦労しています。例えば「柔軟に対応」する地域の人々が、「契約主体」の人々に契約外のことをちょっとやってくれと頼む理由を、文化的な違いから説明しなければなりません。お互い気心が知れ、文化的な違いを理解する段階になれば揉め事は起きませんが、時間がかかります。

日本で法律や契約がそこまでちゃんとしていないのは、長いこと農業主体の土地で、共同体が強かったからでしょうね。日本もそろそろ感覚を変えなければいけないとは思いますが、アメリカやイギリスのようなドライな感覚にするのは難しいのではないでしょうか。

——アメリカとイギリスでお仕事や生活をされて、どのような違いを感じましたか。

めいろま:日本人の抑え気味なところはイギリス人と似ていますね。もともとイギリスには謙遜する文化があります。「わたしはこれができます」とは言いません。私も最初のころは嫌味がわかりませんでした。服とかも派手なものは浮いてしまいます。侘び寂びの感覚が通じるのです。アメリカ的な派手なものはだめです。

アメリカとは真逆です。イギリスに渡った当初、私はアメリカの感覚だったので、それでいったら大失敗をしました。挨拶の仕方もまったく違います。

イギリスのほうが融通は効くし情は厚い気がします。日本の人はイギリスの方が馴染むかもしれません。無理をさせないところ。ゆったりさせるところがあります。

——日本人の若者はさらに慎重になってきている印象があります。

めいろま:今の大学生くらいの人達は、バブル崩壊後に社会人になった自分のご両親の厳しい状況を見てるのでどうしても保守的になるのではないでしょうか。

ただし、企業がいつまであるかわからないです。転職事情やスキルの足りなさは自覚しておいたほうがいいかもしれません。私も日本の方の職務経歴書の添削をしたことがありますが、文系の方は特に転職やスキルのアップを想定しておらず、専門性がなく、日々惰性で仕事をしているので、北米やイギリス式の職務経歴書に書き直すのが実に難しいです。日本で働いている方は、今後何があっても生活していけるように、ご自分の専門性を高め、職務経歴書を常にアップデートし、学び続ける必要があるでしょうね。

——日本人には日本人の仕事や生活のスタイルがあるのですね。今日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。

おわり

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谷本真由美さん @May_Roma (めいろま)

ITコンサルタント。専門:ITガバナンス、プロセス改善、サービスレベル管理、欧州IT市場および政策調査。ITベンチャー、経営コンサル、国連専門機関情報通信官、外資系金融機関等を経て日英往復。趣味HR/HM。仕事依頼 Twitter @May_Roma