私的使用のための複製は権利者の許諾なしに可能だが、デジタル方式の録音録画については、利用者が補償金を支払わなければならない。
この補償金は私的録音録画補償金とよばれ、指定された機器および記録媒体の価格に上乗せする形で徴収されている。具体的な機器等は政令で定めることになっていて、文化庁は今回、ブルーレイディスクレコーダーおよびブルーレイディスクを指定する政令案を発表し、パブリックコメントを募集している。
JEITAは強く反対
JEITA(電子情報技術産業協会)は下図のとおり、「有料放送や有料動画配信に加え、テレビ番組の無料リアルタイム配信や見逃し配信等、地デジ放送以外のコンテンツ流通・視聴が普及といった環境変化の中、BDレコーダ市場は急激な縮小傾向、最盛期の1/4に」と指摘。
「社会環境の変化を無視し、20年以上前の古い制度を用いた機器課金という形で消費者に二重負担を強いる政令案」を不透明なプロセスで決めたとして強く反対している。
最近、動画配信だけが視聴できる受信料不要のテレビがヒット商品になっている。
NHK受信料不要の“ドンキテレビ”が再販、加速する地上波離れに打開策はあるか
補償金課金により地上波テレビも映らず録画機能もないこうしたチューナーレステレビが売れると、若者のテレビ離れが加速し、課金を主張している権利者はかえって自分達の首を絞める結果を招きかねない。
不透明な決定プロセス
JEITAの指摘する不透明な決定プロセスについては、8月29日付、IT Media NEWSの記事、「『ブルーレイに補償金』の筋が悪い理由 “中の人”が解説」が参考になる。“中の人”はインターネットユーザー協会の代表理事として、2015年から2019年まで、補償金のあり方を検討する文化庁文化審議会著作権分科会の小委員会の専門委員を務めた。以下、記事のまとめから抜粋する。
話をまとめると、今回のブルーレイ政令指定は、文化審議会で合意も得ておらず、省庁間での合意もなく、文化庁単独の判断で政令指定するという格好になっている。仮にこれが通るならば、今後も補償金対象機器は文化庁だけの単独で決められるという前例を作る事になる。
(中略)
おそらくこの件はSNS でも大きな騒ぎとなるだろうが、そこで騒いでも政策には反映されない。行政は SNS の意見を配慮する必要などないからである。どんな意見であっても、重複しても構わないので、全てパブリックコメントへぶつけてほしい。
「SNSで騒いでも、行政は SNS の意見を配慮する必要などないから、政策には反映されない」との指摘で思い出すのが、海賊版対策として違法ダウンロードの範囲を拡大した2020年の著作権法改正。2019年2月に文化庁がまとめた改正案は、スマホのスクショまで違法にしかねない内容だったため、SNSで炎上した(拙稿「『違法DL範囲拡大』反対の声を国会議員に届けよう(追記あり)」参照)。
このため、自民党の了承が得られず廃案となり、改正は翌年回しとなった(拙稿「違法DLの範囲拡大:自民党が文化庁案を見直し」参照)。この事例に見られるようにSNSに配慮するのは票に敏感な政治家である。国会の議決が必要な法改正であれば当然、政治家のチェックが入るが、今回のような政令指定であればその必要はない。
“中の人”は、「仮にこれが通るならば、今後も補償金対象機器は文化庁だけの単独で決められるという前例を作る事になる」とも指摘する。今後の対象機器追加の突破口にもなる悪しき前例を作らせないためにも、パブリックコメントを提出しよう。