有識者に欠ける防衛力強化会議の不思議な委員構成

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増税キャンペーンが狙いか

政府は防衛力の抜本的強化に向けて自衛隊装備、予算・財源を議論する有識者会議を設け、30日に初会合を開きます。発表されたメンバー10人の顔ぶれをみて、防衛力強化の専門家があまりにも少ないことに驚きました。

10人のうち新聞関係者が3人、金融関係者が2人、技術系の学者2人でした。防衛問題の専門家と言えるのは元防衛次官(三井住友海上火災保険顧問)、元駐米大使(日本国際問題研究所理事長)の2人くらいでしょうか。国際情勢を語れる中西寛・京大教授を加えても3人です。

政府からは岸田首相、松野官房長官、林外相、鈴木財務相、浜田防衛相が参加し、総力をあげて「防衛費をGDP比でNATO(北大西洋条約機構)基準・目標の2%」に引き上げる体制を組みました。

メンバー表を見て、10人中3人が新聞関係者と多いのはなぜだろうと思いました。首相が直接、リードするこの種の会議(有識者懇・審議会)で新聞人が入るのは、せいぜい1人ぐらいがこれまでの相場だからです。

新聞人は船橋洋一氏(元朝日新聞主筆)、喜多恒雄氏(日経顧問、元社長)、山口寿一氏(読売社長)で、朝日、読売、日経とバランスを考えたという構成です。船橋氏はシンクタンクの代表で国際情勢・防衛問題を語れる人でしょう。日経、読売は国際情勢、防衛問題とはまったく無縁の経歴です。

新聞社ならば、この分野の専門家(論説委員、解説委員)がいるはずなのに、そうでなく新聞社の経営代表が参加する。経営者でも国際情勢、安全保障を語れる人物はいることはいましたが、今回はそうではない。

次に目を引くのは金融関係の委員です。ただ一人の女性、翁百合氏(日本総研理事長)は元日銀幹部で経済・金融金融情勢に詳しくても、防衛問題は素人でしょう。国部毅氏(三井フィナンシャルグループ会長)も社会に向けて、防衛問題を語ったことはないでしょう。

学者としては、上山隆太氏(総合科学技術イノベーション会議議員・元政策大学院副学長)は科学技術政策の専門家です。橋本和仁氏(科学技術振興機構理事長)は半導体、高分子電池の専門家でしょうか。

座長は佐々江賢一郎氏(元駐米大使、元外務省)です。黒江哲郎氏(元防衛次官)ら防衛費のGDP2%目標(5年程度で達成)に向けた主張をするのでしょう。自民党と同様です。

「始めに2%ありきでなく、必要な防衛力を想定し、それに必要な予算をつけるべきだ」という議論が高まっています。それにしては「必要な防衛力」を説明できる委員が少なすぎます。

こう考えると、この有識者懇の狙いははっきりしてきます。財源問題をどう扱うかです。現在のGDP比は1.08%で、海保予算などを加えた防衛関係費は6.9兆円、同1.24%です。あと5兆円が必要となります。

財政制度審議会は26日、「防衛力強化について赤字国債に依存すれば、有事の際の経済を不安定化させるとして、安定財源の確保」を求めました。これは正論です。安倍・元首相は「国債発行で賄う」路線をリードしようとしていました。論外の主張ですし、安倍氏の死去後はまともな財政論が復活してくることを私は期待しています。

21年度の消費税収は20.3兆円(税率10%)で、税収の内訳では最大です。次いで所得税18.7兆円、法人税9兆円などです。今後5年で5兆円、防衛予算を増額しようとすれば、消費税を2%は引き上げることが必要になる。

世論調査では防衛予算の増額に60%以上の賛成が得られていますから、総論では支持されるとしても、実際に消費税を2%引き上げることは容易ではなく、支持率が急落している岸田政権では困難な作業になります。

そう考えると、新聞関係者を3人も委員にしたのは、「消費税引きあげ不可避」のキャンペーンを張ってもらいたいとの意図が見えてきます。その場合は、新聞は軽減税(現在8%)の適用を要求してはいけません。部数減覚悟しても、増税を主張すべきです。

金融関係者が2人加わったのも、「国債増額はもう難しい状況になっている」との主張をリードしてもらうつもりでしょうか。金融界はこれ以上、異次元金融緩和を続けることは日本経済にも金融市場にも、悪影響が高まるばかりだと、主張することが必要です。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年9月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。