岸田総理は3日、7月の参院選と8月の内閣改造後初の臨時国会で所信を表明した。8400語余りの演説は、「一 はじめに」で、現下の我が国を取り巻く諸課題を概括した後、「二 政治姿勢」として、まず安倍元総理の国葬儀に触れ、続けて「旧統一教会との関係について」こう述べた。
旧統一教会との関係については、国民の皆さまの声を正面から受け止め、説明責任を果たしながら、信頼回復のために、各般の取り組みを進めてまいります。政府としては、寄せられた相談内容を踏まえ、総合的な相談窓口を設け、法律の専門家による支援体制を充実・強化するなど、悪質商法や悪質な寄付による被害者の救済に万全を尽くすとともに、消費者契約に関する法令等について、見直しの検討をいたします。
が、この内容で「信頼回復」が図れるとは、筆者にはとても思われない。この「国民の皆さまの声」に関連して、2日に『朝日新聞』が公表した世論調査(1-2日実施)は、内閣不支持率50%(前月47%)、支持率40%(同41%)を示し、2ヵ月連続で不支持率が支持率を上回った。
同調査の安倍国葬の評価では、「評価しない」59%vs「評価する」35%、同じく「政治家と旧統一教会を巡る問題への岸田首相の対応」では、「評価しない」67%で、8月調査の65%、9月調査の66%との変化はほぼない。朝日は「依然として岸田首相の対応に厳しい目が注がれている」と書いている。
3日の共同通信は、野党が旧統一教会問題などに関して臨時国会で追及する意向を強調したと報じた。
記事に拠れば、立憲泉代表は旧統一教会問題や経済政策を「重要な課題だ」と指摘、共産党志位委員長も「政府、自民党と教団側の癒着の徹底究明は、今国会の大きな焦点だ」と述べ、維新馬場代表も自民による教団側との接点調査に関し「ぼろぼろと(追加公表が)出てきている」と批判した。
内閣支持率は、7月の朝日調査では支持57%vs不支持25%だったから、急落は「政治家と旧統一教会を巡る問題への岸田首相の対応」の拙さが原因と知れ、それが野党の姿勢に現れている。安倍国葬の不評は、国葬それ自体というより、筆者が拙稿「岸田のままでは自民党はおろか日本も危うい」で指摘した「出来ない約束をする」という岸田総裁の旧統一教会問題の対応ミスが主因と思う。
そのことは、岸田総理が国葬儀の実施を発表した7月14日の記者会見の様子から窺い知ることができる。即ち、記者との質疑応答では、幹事会社の東京・中日新聞以下、NHK、読売、西日本、時事、NYT、ジャパンタイムズ、なぜか大川興業、朝日、毎日の10紙が質問したが、国葬については朝日池尻記者の次の質問だけだった。
国葬についてなのですけれども、国葬となれば国費でやられるということになると思うのですけれども、予算措置のためにこれは閣議決定になると思いますが、国会審議というのは必要ではないのでしょうかという、そこのお考えを教えていただければと思います。
これに対し総理は、費用は国の儀式として実施するので全額国費によること、国会審議等の要否は、平成13年1月6日施行の内閣府設置法で、国の儀式を行うことが内閣府の所掌事務として明記されていること、をそれぞれ説明して終わっている。
つまりこの時点では各野党も安倍元総理への弔意を表し、国葬儀には共産党以外反対しなかった。反対の炎が燃え盛り始めたのは、警察当局のリークでしかあり得ない狙撃犯の話、即ち、母親が統一教会への寄付で破産し云々という、真偽不明の情報が垂れ流され、旧統一教会と安倍元総理や政治家との関りを、メディアが挙って取り上げ始めてからのことだ。
それにつけても岸田自民党の、「旧統一教会及びその関連団体」について「当該団体との関係を断つ」との基本方針は、信教や思想信条の自由を侵す可能性をも孕む、深刻な対応ミスだ。実現し難いこの誤った対応を撤回のうえ退陣し、次に政権を委ねない限り、野党やメディアの追及は今後も止むことなく続く。それは捏造起因のモリカケどころでなかろう。
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筆者は国葬儀に反対する人々に疑問がある。それは7月8日にテロで斃された安倍元総理が、3日後の11日に「政府の持ち回り閣議」で従一位に叙され、大勲位、即ち菊花章頸飾と菊花大綬章が追贈されたことに対して、絶えて反対の声を耳にしないこと。国葬発表の翌15日に志位委員長が国葬反対を表明した記事でも、この叙位・叙勲には全く触れていない。
位階は701年の大宝律令で30まで増え、正一位が最高位だ。これが現在の原型で、従一位、正二位、従二位、正三位、従三位と続く。有名な人物では豊臣秀吉と徳川家康が従一位、死後に正一位に叙された。明治の三条実美や岩倉具視は正一位、徳川慶喜と伊藤博文は従一位だった(9月9日時事通信)。
位階制度を整理した1926年公布の勅令「位階令」の第2条は、対象者を「国家に勲功あり又表彰すべき効績ある者」(現代仮名遣いに改めている)と明記した。それは正一位を最高位に、以下従一位、正二位から従八位まで16段階とし、戦後、叙位は死亡後、と閣議で改めて現在に至っている。
戦後の首相経験者では、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、安倍晋三が従一位に叙された。松野長官が7月11日、安倍氏の叙位・叙勲についての背景を「首相としての功績をはじめ、多年にわたる経歴、功績に鑑みた」とした根拠はこの「第2条」だ。「多年にわたる」とは4氏の在任期間が須らく5年以上だったことを指す。
他方、大勲位は勲一等の上に位する最高勲等で、大勲位菊花章頸飾は03年11月の栄典制度改革の内閣府令で、各種勲章と共にその制式と形状が改められた。戦後の首相経験者に大勲位菊花大綬章受章者は少なくないが、前記4氏の他には同頸飾の追贈者はおらず、位階はみな正二位だ。なお、岸信介と海部俊樹は生前それぞれ、勲一等旭日桐花大綬章と桐花大綬章を受章した。
天皇そのものを否定する共産党は、安倍元総理の従一位や大勲位にも、聞くまでもなく反対するだろう。が、他の野党や左派メディアが安倍氏の叙位・叙勲に反対しない意味が、筆者には理解できない。おそらくは、反対を思い付く間を与えず電光石火で叙位・叙勲を決めたからに相違ない。
日本維新の会は3日、国葬対象者を、多年にわたり国政で重要な地位を占め「国難を乗り越えて発展の基礎を築いた特別な功労者」に限定するなどとする「国葬儀法案」を衆院に提出した。「位階令第2条」の定義と余り変わらないようだが、それはそれで大いに議論してもらいたい。
が、筆者は、「従一位と大勲位を叙された者を国葬儀とすることがある」と定めておき、逝去後速やかに「持ち回り閣議で」決めるのが良策と思う。