岸田のままでは自民党はおろか日本も危うい

一国の指導者を肩書なしで「岸田」としたのには訳がある。現下の日本国内を揺るがせている二つのこと、すなわち旧統一教会問題と安倍元総理の国葬問題は、前者は政権与党自民党のトップとしての岸田総裁の、後者は行政府の長としての岸田総理の、それぞれの対応の拙さが引き起こしているからだ。

岸田首相 同首相HPより GoranQ/iStock

今月半ばに報道各社が実施した世論調査で、岸田内閣の支持率は軒並み急落した。特にいつも低めの時事通信調査の支持率は前月比12ポイント(p)減の32.3%にまで落ち込み、不支持率40.0%が逆転する事態になった。NHK調査でも8p落ちた支持率と12p上がった不支持率が共に40%で拮抗した。

「何もしないこと」が高支持率の源泉といわれた岸田内閣発足以来のこの不人気は、なまじ何かをやり始めたからか。一方で、自民党の支持率が1.9p減の22.4%(時事)に留まったのは、先祖返り人事や「次の内閣」で酷さに磨きをかけた野党第一党のお陰もあるが、「岸田の次」への期待もあるのではなかろうか。

国葬儀での落ち度

岸田は「7月14日の記者会見で、内閣府設置法において、内閣府の所掌事務として定められている『国の儀式』として閣議決定をすれば実施可能との見解を示した」(「Yahooニュース」)。国葬実施の決断自体は評価に値するが、この時の説明は法的根拠で重要な補足を欠き、その後の費用の説明にも落ち度があった。

岸田が説明し落した重要な法的根拠を9月12日の「産経」が報じている。記事に拠れば、平成13年の内閣設置法施行の前年に、政府の中央省庁等改革推進本部事務局内閣班が作成した「内閣府設置法コンメンタール(逐条解説)」には「国葬を国の儀式として執り行えるという解釈」が書かれており、それを記事はこう説明している。

内閣設置法4条では、内閣府の所掌事務として「国の儀式、内閣の行う儀式および行事の事務に関すること」と定めているが、逐条解説には、「国の儀式」には①天皇の国事行為として行う儀式②閣議決定で国の儀式に位置付けられた儀式-の2種類があるとしており、②の具体例として「『故吉田茂元首相の国葬儀』が含まれる」と明記している。

ここを岸田がしっかりと説明し、さらに費用の説明も「ガダルカナル式の逐次投入」でなく、「増し分費用」が多額になろうと、閣議決定した以上はやるとして、初めから正直に全てを公表していれば、「国葬」を行うことを「評価する」32%、「評価しない」57%、「国葬」についての政府の説明は「十分だ」15%、「不十分だ」72%(NHK調査)とはならなかったろう。

なぜなら、法的根拠と費用以外の、国葬とする理由(憲政史上最も長く政権を担ったことや、突然の逝去に海外から多くの弔意が寄せられていることなど)や、「弔意の強制」(政府が国民に喪に服すことを求めないことは憲法19条「思想及び良心の自由」に照らし妥当)などを理由に反対する者は、何にでも反対する「noisy minority」に過ぎないことは、左派野党の政党支持率に現れているからだ。

この事態は、岸田に事の軽重を整理し、先を見越して戦略を立てる能力や、法や物事の道理に即した説明能力が欠けていることを露呈している。それが最もよく表れているのが旧統一教会問題での自民党としての対応のお粗末さだ。

旧統一問題での対応ミス

岸田は8月10日、内閣改造後の記者会見で「以上、閣僚人事の考え方について申し上げましたが、あわせて、いわゆる旧統一教会に関連する問題について申し上げます」として、まず、私個人は、知り得る限り、当該団体とは関係がないということを申し上げます」と述べ、こう続けた。

・・社会的に問題が指摘されている団体との関係については、国民に疑念を持たれるようなことがないよう十分に注意しなければなりません。国民の皆さんの疑念を払拭するため、今回の内閣改造に当たり、私から閣僚に対しては、政治家としての責任において、それぞれ当該団体との関係を点検し、その結果を踏まえて厳正に見直すことを言明し、それを了解した者のみを任命いたしました。

当該団体」の語が2度出てくる。1度目は「いわゆる旧統一教会に関連する問題について申し上げます」に続くので、旧統一教会のことを述べていよう。2度目は「社会的に問題が指摘されている団体」を受けているので、これも旧統一教会のことを指している。

とすると岸田は、「社会的に問題が指摘されている団体」=「当該団体」=「旧統一教会」と述べていることになる。が、目下の旧統一教会と関連団体は、「世界平和統一家庭連合」のほか「国際勝共連合」などの政治団体29、社会団体15、文化団体8、教育・学術団体21、メディアの「UPI」、「世界日報」、「Washington times」など23団体、宗教団体9、医療団体4、30以上の企業など、総勢140余りに上る。

岸田はこれら140団体を十把一絡げに「当該団体」としていることになり、である以上、これらが「社会的問題が指摘されている団体」であることを、証拠を示して説明せねばなるまい。が、岸田はそれを蔑ろにしたまま、8月31日の記者会見でも「私の政権における大臣、副大臣、政務官については、自ら当該団体との関係の点検を行うとともに、関係を絶つことの確約を得たところです」と述べた。

さらに総理大臣の会見であるにもかかわらず、唐突に「自民党総裁として率直におわびを申し上げます」と述べて、茂木幹事長に以下の3点指示したとし、「自民党として説明責任を果たし、国民の皆様の信頼を回復できるよう、厳正な対応を取ってまいります」と述べた。

  • 第1に、党として説明責任を果たすため、所属国会議員を対象に当該団体との関係性を点検した結果を取りまとめて、それを公表すること。
  • 第2に、所属国会議員は、過去を真摯に反省し、しがらみを捨て、当該団体との関係を絶つこと。これを党の基本方針として、関係を絶つよう所属国会議員に徹底すること。
  • 第3に、今後、社会的に問題が指摘される団体と関係を持つことがないよう、党におけるコンプライアンスチェック体制を強化すること。

これを受けて茂木自民党幹事長は9月8日、「旧統一教会及び関連団体との関係について、・・わが党所属衆参国会議員379名全員から確認」したとし、8つの質問項目の「1つでも該当するとの回答があった議員は179名」だと述べた。

質疑応答で産経新聞から、岸田総理の「社会的に問題が指摘される団体と関係を持つことがないよう、チェック体制を強化する」との発言に関し、「その『社会的問題の基準』というのは、どのようなことを考えられているのでしょうか」と核心に触れる質問をされた茂木はこう述べた。

これはどうしても、一般論になる部分はあるのですが、社会的問題であるかどうかについては、被害の実態等に照らして判断をされるものだと、そのように思っております。その上で、悪質な寄付の勧誘などで被害に遭われた方がいらっしゃる。こういう事実関係も踏まえて、社会的な問題が指摘されている団体については関係を持たないというふうに説明をされていると理解しております。

「頭が良い」とされる茂木をして、まるで答えになっていない。が、140余りの団体が「社会的に問題が指摘される団体」であるとの証拠を示せない以上、こう答えるしかなかったのだろう。

そうなのだ。ここに前述した岸田の二つに能力の欠如が現れている。法治国家である以上、政治家が、法的に問題のある証拠のない「団体と関係を断つ」ことなど出来るはずがない。もし問題があるなら、安倍政権下の「18年改正消費者契約法」の様に必要な立法をして対処することが政治家本来の仕事だ。

出来ない約束をすることの重さを思わず、すればどうなるかを見越せない政治家は救い難い。8月10日にそれをした岸田の浅慮が32.3%の支持率を招いた。この初動の対応ミスは、足掻けば足搔くほど激しい左派野党やメディアの攻撃を生む。ミスへの攻撃は「森友」や「加計」の様な捏造由来とは違って、保守派も擁護のしようがない。

自民党唯一の打開策は岸田が身を引く以外になかろう。NHK調査の支持しない理由では、「政策に期待が持てないから」が36%、「実行力がないから」が29%だった。安倍政権では「人柄が信用できない」が常にトップだった。政策や実行力で一定の評価があったからこその長期政権といえる。

そこで「岸田の次」だが、今般の一連の騒動であまり話題に上っていない菅義偉前総理しかいない。この激動する国際情勢下、早く手を打たないと自民党はおろか日本が危うくなる。世論を気にする岸田は、今こそ「聞く力」の発揮しどころだ。