イギリス社会の本質と食:『強固な階級社会』を日本人は何も知らない

谷本 真由美

イギリスと言うと日本でやたらと話題になる話が、「イギリスの食事はひどい」と言う話題である。

イギリスの食事は本当にひどいのか、それとも良いのか。

これは何十年にもわたって話されてきたような話題だと思われるが、ネットや一般的な旅行エッセイやブログでは、とにかくイギリスの食のひどさが恨みを込めて描かれる。もはやネット上のミームというかネタになっている。

Elio Ruscetta/iStock

一方で、イギリス料理ではなく中華屋カレーやギリシャ料理を絶賛する書き込みがある。だから「多様性があるイギリスは素晴らしいんだ」といった主張する人もかなりいる。

しかし、どの人も、ここがいまだに非常に強固な階級社会であり、いわゆる美味なものと言うのは98%の人々には全く手に届かないところにあり、ある意味隠されている、ということを指摘していない。

私が2021年12月に出版した「世界のニュースを日本人は何も知らない3 – 大変革期にやりたい放題の海外事情」という本にも書いたが、イギリスはドラマ「ダウントンアビー」の世界が実はいまだに残っており、社会の基本的な構造は戦前とそれほど変わってはいない。

事実イギリスの価値がある土地とは未だに少数の貴族が所有しており莫大な金額の賃料を得ている。王室はその典型例だが、王室よりも豊かな貴族と言うのもいるのである。

豊かな人々は都市部ではなく郊外や田舎の緑豊かな地域に住んでおり、祖先から継承した大邸宅を維持しながら暮らしている。

都市部にある新しい高級マンションに住むのは成り上がりの労働者階級や外国人である。

田舎に住んでいる数世代にわたって豊かな人々や貴族は、村に住んでいるが、その村はかつては祖先がすべて所有していたようなところである。

彼らは自分の領地を持っているので、ディナーパーティーやガーデンパーティーを催す際に提供するものは自分の領地でとれたジビエや牛肉や子羊なのである。

イギリスは意外に魚介類も取れるので、やはり自分の領地でとれたものをお出しする。

野菜は全て自分のところで栽培している。担当するのは専属のガーデナーや農民である。

メニューは戦前の日本の海軍の公式なディナーで出されたものに近い。というか戦前の日本の上流階級と言うのはイギリスの上流階級の食生活や花を真似ていたので当たり前なのだが。

彼らは現在でも歴史ドラマに出てくるようなメニューを好む。古典的でクラシカル、フランス料理が基調だが、欧州全体で通用するコスモポリタンなメニューで、これは戦前とあまり変わらない。最近では南米や和食の要素も取り入れている。

非常に繊細な味付けでソースから何から、すべて一から作るのである。

イギリスの都市部で見かける揚げ物だらけのメニューやバーガーは全く登場しない。

そして彼らが住んでいる田舎の村には非常に古めかしい造りのレストランが数件あり、そういったところには、貴族ではないが不労所得で暮らしている人がやってきて食事を楽しむ。

素材の味を生かした非常に健康的で、シンプルだが質の高いものを楽しむ。

海外の資産を持っていたりするために、外国料理に詳しい人も多い。また海外からのお客も多い。フランス人やイタリア人など食事にうるさい人々も唸らせるものも出てくるのである。

こういうところは車がなければいけない場所にあり、電車やバスは大変不便で、意図的にそのような仕組みにしてある。不便であれば部外者がやってこないからである。

そして当然テレビに取り上げることもなく、雑誌やガイドブックにも登場させない。彼らは観光客や外国人、異なるの階級の人々が大嫌いだからである。

このような人々は素材から厳選した健康的なものを食べているので皆スリムで、平均寿命も長い。当然医療は公的医療には頼らず、お抱え医師がいる私立の病院に私費で行くのである。19世紀の仕組みと変わらないのだ。

一方で日本人のネット民やライターが紹介する食堂や都市部にあるレストランのお客は肥満体だらけで、メニューは揚げ物や安い素材で作られた外国料理ばかりである。

彼らは部外者には公開されない田舎のレストランが存在することは知ることは無い。

そのような日本人はここが強固な階級社会であり、一旦階級が異なれば異なる世界の人々の生活を知る事はないということに気がついてないのである。