ウクライナ避難民女性のための「メンター・ネットワーク」の提案

Oliver Boehmer/iStock

ロシアのウクライナ軍事侵攻から8ヶ月余りが経過した。ウクライナ軍の反転攻勢が伝えられるものの、先は見通せない。

国連難民高等弁務官事務所によると、侵攻が始まって以来、国外に逃れたウクライナの人びとは、14,591,581人を数える。日本も3月2日岸田首相が受け入れを表明し、4月5日に第一陣20人が到着、10月26日現在1,968人である(法務省)。

18歳から60歳までの男性の出国が禁止されたため、日本に入国した避難民の9割が女性と子どもだ。ウクライナの避難民には、日本語はおろか、日本に関する知識も知り合いもいない人も少なくなく、事態が長引く中で不安や心細さは如何ばかりであろう。

避難民の方たちが抱える問題について、日本財団が定期的に調査し、そのサマリーがNHK のニュースで紹介された(NHK NEWS WEB、2022年9月27日)。

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9月下旬に554人に行った調査では、日本語を聞き取り、理解できると答えた人は11%、少しならできる人22%、ほとんどできない人は67%であった。そのため、必要なサービス(複数回答)として、64%が日本語教育を挙げた。就職機会・職業訓練51%、医療50%、いつでも相談できる窓口と日本人の仲間づくりがともに37%であった。

慣れない土地で暮らす難民・避難民は、ジェンダーに関わりなく様ざまな困難に直面し、その苦労は想像に余りある。しかし、社会的立場の弱い女性は男性以上に厳しい環境に置かれているはずだ。ウクライナ避難民の女性たちには子ども連れも少なくないようで、困難は一層増すに違いない。

政府や自治体の体系だった制度的支援は言うまでもないが、彼女たちの身近で寄り添い、すぐに相談に乗って行政、NPO等の適切なサービスに繋げられるような個別的支援が望まれる。

というのも、古い話で恐縮であるが、2005年に実施したコペンハーゲンでの調査中に、Kivinfoと呼ばれる、日本で言えば国立女性教育会館のような施設を訪問した折に、2003年にデンマークで始まったばかりの「メンター・ネットワーク」という難民/移民女性への支援サービスについて見聞したのを思い出したからだ。

メンター・ネットワークは、デンマークに難民あるいは移民として来たのち、言葉を習得し、職業も得て、社会的地歩を確かなものにした女性がメンターになって、新たに難民/移民としてデンマークで生活を始めた女性を一対一で支援する事業である。

メンターは受け手の女性と定期的に面談をして、様ざまな相談に乗り、助言をする。なかでも、重要なのが就職に関する助言である。メンターは、就職に直結する情報を提供する一方、応募書類の書き方、面接の練習、企業社会への溶け込み方や就職後の状況確認など事細かに支援する。

メンターは、かつて自分が難民/移民であっただけに、痒い所に手の届く支援ができ、難民/移民女性の社会的包摂がより効果的に進む。メンター自身にとっても、一人の女性の人生を支えるという行為によって、自らの人生を洞察し、自信が増すというメリットが指摘されている。

発足以来、参加女性は約5000人、2000組のペア(メンターと受け手、それぞれ1000人)が作られ、受け手の半数以上が就職に成功した。また、35%がメンターの助言で大学進学を志した一方、70%がメンターとの会話によってデンマーク語が上達したと考えていた(European Commission)。

この事業の鍵はマッチングで、Kivinfが取り仕切る。メンターと受け手はともに登録制が採用され、登録後担当者からのインタビューを受けて、それぞれの詳細なデーターベースが作成される。そのデータベースをもとに、双方のバックグランド、受け手側のニーズ、メンターの経験や経歴など多岐にわたる検討を経て、マッチングが行われる。

ペアが決まると、担当者の立ち会いの下、二人が実際に会い、相性を確認する。ペアが無事動き出した後も、担当者は定期的に双方の状況を確認し、問題を見つけ解決を図る。デンマークの成功は、このKivinf職員の手間暇かけた作業によってもたらされている。

もし日本で同様の制度を導入するとしたら、誰がメンターの責を担うことになろうか。私は中高年女性の活用を提案したい。

子育や仕事で手一杯の女性にこれ以上の負担をかけるのは申し訳ない。子どもが独立したり、定年を迎えたりした女性たちの中には、海外で生活していた、語学が堪能といった女性も少なくないはずである。また、何よりも社会のために役に立ちたい、意義深い活動に参加したい女性たちが必ずいるはずだ。実は他ならぬ私自身が参加してみたいのである。

政府、自治体で検討してみては如何であろう。