一晩で4兆円上乗せされる「補正予算」のカラクリとその活用方法

補正予算を活用して政策を実現する

10月28日、政府は総合経済対策を発表しました。今後この経済対策を実現するための補正予算を政府内で編成し、国会での成立を目指すことになります。

当初予算において、大規模な新規予算事業を作成するには厳しい制約があります。

各省庁が来年度の予算を財務省に提案する前に、財務省からは、概算要求基準が示されます。各省庁が要求する次年度の予算について一定の基準(予算の枠)を示し、各省庁が概算要求をする段階で、予算の内容が一定の基準に収まるように工夫するものです。したがって、基本的には新しい予算事業をつくるのであれば、どこか別の予算を減らすなどの工夫が各省庁も必要になってきます。

また、概算要求を各省庁が作ったあとも、9月~12月まで、3か月以上にわたって財務省の厳しい査定を受け、そうして政府案として閣議決定されるのが次年度4月からの当初予算です(その後、1月からの通常国会で予算案の審議があります)。

このように当初予算は一定の時間をかけて使途や査定を厳しく行っている現状があります。

一方の補正予算は決定までのスパンもプロセスもそしてその中身の性質も違ってきます。

今回の補正予算につながる経済対策策定の指示が総理からあったのは、9月30日の閣議でのことでした。その後10月28日に経済対策の取りまとめがされたことが伝えられているので、1か月足らずの間に、一般会計にして29.1兆円の予算の中身を作りこんだことになります。当初予算の概算要求から政府の閣議決定までの期間と比較しても、3分の1以下の期間です。

詳しくは後ほど説明しますが、補正予算には当初予算では採用されないような政策も採用されることがあります。補正予算は基本的には1回だけの予算ですが、その実施状況が望ましいものであれば、次年度の当初予算に格上げされて、継続的に支出されることもあります。

補正予算は、新たな政策が実現するチャンスでもあるので、政策に関わる人にとっては補正予算があることも念頭に置いた提案活動が必要になってくるのです。

補正予算とは

そもそも補正予算とは何かというと、当初予算を策定した後に、緊急に必要になった経費を支出するために組まれる予算をいいます。今回のケースでいうと、円安によるエネルギー・食料価格の高騰などが補正予算編成のおもな理由として挙げられています。

参考:https://www.kantei.go.jp/jp/content/040930gijiroku.pdf

円相場の推移をみると、2022年3月1日には1ドル115円程度だったものが、その後急速に円安が進み、10月20日には1ドル150円にまで円が値下がりしました。一般的に円安になると輸入品が高くなるので、外国に依存している原材料を使った製品や、外国製品の購入にかかる費用がかさむことになります。

小麦や動物の飼料などは海外生産に大きく依存していますから、国内で販売されるパンや麺、牛肉や豚肉、牛乳などの日用品も値上がりします。日経新聞によれば、店頭価格は前年同時期に比べ、4.5%上昇しているとのデータもあり、多くの人にとっては生活を圧迫する要因になります。資源を外国に依存しているエネルギーも同様の構図です。

当初予算の内容は前年の12月には政府案が固まるので、3月頃からの円安については、当初予算策定の際には考慮されていませんでした。

円安に対応する新たな政策の必要性が高まったことが、今回の補正予算策定につながったのです。

一晩で4兆円積み増す、そのカラクリ

今回の総合経済対策をめぐっては、当初補正予算の額が25.1兆円であったものが、自民党の反発があったことにより、一夜にして、4兆円増額された29.1兆円に増額されたことが、朝日新聞などにより報道されています。

普通に考えると、一晩で4兆円の使い道を決めることは難しそうです。どんなことに予算を使うのか気になりますが、日本テレビによると、予備費を中心に4兆円が積み増しされたとされています。

予備費とは、予算の不足が予想できなかった場合に活用するためのものです。憲法第87条で「予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる」と定められています(事後に国会の承諾は必要)。

与党での反発があったあとに閣議決定された経済対策では、その3日前に日経新聞で報道されていた文書にはなかった以下の予備費の記載が追加されていました。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大や物価 高騰のための「新型コロナウイルス感染症及び原油 価格・物価高騰対策予備費」を増額
ウクライナ情勢その他の国際情勢の変化や大寒波の到来その他の災害に伴い発生しうる経済危機のための「ウクライナ情勢経済緊急対応予備費」(仮称)の創設

これらの予備費については、国会での予算成立時に確定させておく必要がない、つまり使い道は後で考えて、(国会の議決ではなく)閣議で決めることができることになっています。そのような性質がある予備費だからこそ、一晩で急遽4兆円増額を決めることができたのです。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

第1委員会室 参議院HPより

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年11月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。