東大卒議員と世襲制が日本政治と日本を滅ぼす

新しい新本主義より新しい政治を

葉梨康弘法相が「死刑のハンコ」発言、「法相は票とお金に縁がない」発言で、辞任に追い込まれました。失言ではなく、本音、暴言でしょう。山際経済再生相に次ぐ2人目の辞任です。「閣僚辞任ドミノ」で岸田政権の前途には暗雲が漂ってきました。

岸田政権の看板である「新しい資本主義」どころではありません。それより「新しい政治」を目指してほしい。劣化した日本の政治家を中枢に据える政権が経済政策の旗を振り続けるようでは、「新しい資本主義」が成功するはずはない。

国会議事堂 参議院HPより

政治メディアも「次に誰が辞任するかしないか」、「岸田政権の閣僚人事でまた後手」、「首相迷走、求心力低下」など、政局情報ばかり報道しないでほしい。どこに本質的、構造的な問題があるのか分析すべきです。

辞任した葉梨氏は東大法卒、警察官僚出身、元自治相の娘と結婚、養子縁組もした世襲議員です。法をわきまえたエリート中のエリートのはずです。それが軽口をたたくにも程があると酷評される発言です。

苦労して閣僚の座にたどり着いた末のうっかり発言ならともかく、最高学府で法律を学び、法律違反を取り締まる警察官僚となった男の真の姿がここにある。日本の政治家はどうなってしまったのか。

日本のエリートであるはずの東大卒(特に法卒)の議員の劣化がひどすぎる。岸田内閣では、閣僚20人中、東大卒が葉梨、寺田総務相、林外相、加藤厚労相、西村経産相、岡田地方創生相ら8人もおり、ほとんどが法学部卒です。辞任した山際経済再生相は山口大→東大院(獣医学)でした。

官邸を仕切る木原官房副長官は、東大法→財務省出身です。自民党の茂木幹事長は東大経→ハーバード大卒というキャリアです。特に岸田政権では東大卒、東大法卒を日本政治の中枢に据えています。

それが次々に、旧統一教会とのかかわり、政治資金処理のでたらめさ、程がある舌禍事件、セクハラまがいの行為で辞任したり、辞任を求められたりてしています。どうなってしまったのか。

東京大学のホームページをみると、法学部について「幅広い視野を持ち、法的思考、政治的識見の基礎を身に着けた人材を送り出すための教育と研究の場」と書いてあります。「司法、行政、立法、経済、言論、学界にそうした卒業生を送っている」とも。

法学部でしっかり法的思考政治的識見を学んでいれば、東大法卒の国会議員がこのような惨状をさらけ出すこともなかったはずです。東大の法学教育で政治倫理、法道徳を学ばなかった人物が多いようです。

「閣僚ドミノ」の次の標的は寺田総務相でしょうか。政治資金収支報告書に貸付金の不記載があった、領収証偽造の可能性がある、統一教会問題でも関わり合いがあるなどから、3人目となるかもしれません。

寺田氏は東大法卒→財務省出身です。夫人の義理の叔父が池田行彦・元外相(財務官僚)です。行彦氏の夫人は池田勇人・元首相に娘です。政界の名門実力者と姻戚関係を結び、政界に転じる道を拓く。その典型が葉梨氏であり、寺田氏です。

国会議員のうち東大卒は衆参合わせて140人で、衆院は90人で3人に1人が東大卒となり、多くが法学部卒です。その相当数が世襲そのもの、姻戚関係で世襲になった議員です。

女性記者に対するセクハラ疑惑、統一教会との接点を問われている細田衆院議長は直系の世襲、東大法卒で通産官僚を経て、父親の跡を継ぎました。疑惑に対して、釈明のペーパー(紙)を出しただけで、会見はせず、「紙対応」と批判されています。

その世襲議員は衆院では自民が30%(99人)です。公明、維新、国民はわずか1人です。小選挙区制(1996年)が導入されて以来、世襲で地盤、知名度、政治資金を受け継げるため、世襲で立候補すると、勝率はなんと80%に上ります。

世襲で当選回数を増やし、閣僚になり、閣僚を経て首相になる。小選挙区制以来、首相は12人誕生し、非世襲は菅義偉(自)、菅直人、野田佳彦(民)の3人です。自民では世襲でもない限りまず首相になれない。麻生、岸田首相は直系の世襲、次の首相候補の1人、河野太郎氏も同じくです。

世襲制は政界への参入障壁となっています。跡継ぎがいない場合は、官僚出身者(主に東大卒)などが目を付けられ、姻戚関係を結ぶ。こうした構造が日本の政界に閉塞状況をもたらしているのです。

政界からダイナミックなうねりは生まれようがない。財政金融の規律の重要さも理解せず、22年度補正予算案は人気とりから29兆円の規模に達し、財政危機に向ってまっしぐらです。政治ジャーナリズムはスキャンダルばかり追うのではなく、そうした政界構造を掘り下げる努力がほしい。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年11月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。