財政監視の独立機関の設置が必要
政府が決めた来年度予算案は総額114.3兆円、11年連続で過去最大を更新しました。財政赤字がこれも過去最大を更新、そんなことにはおかまいなしに、財政膨張策をとり続けているのは信じ難いことです。
自民党政治は「根拠なき楽観論」に基づき、予算案にいくつもの偽装を施しています。日本を除く主要国は財政監視の独立機関を設け、財政規律が守られているかをチェックしています。日本も独立機関の設置を多くの識者が主張しているのに、その気運が盛り上がりません。
新聞社説が「将来世代に対して無責任である」(日経)、「この大きな過ちの是正は国民の代表である国会の責務である」(朝日)、「長期的な財政再建の道筋について描き直し、早期に国民に提示する必要がある」(読売)との叫びは空しく聞こえてきます。
財政膨張派が依拠しているらしいMMT(現代貨幣理論)をはやすのは日本ぐらいなものでしょう。「自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても、債務不履行に陥ることはない」、「財政が赤字でも、国はインフレが起きない範囲なら歳出を拡大できる」などなどです。
インフレが起き始めたら、歳出抑制.削減に方向転換すれば、問題は起きないとの考えですね。日本のインフレ率は3.7%(11月の消費者物価上昇率)まで高まり、魚介類、乳卵類、調理食品、菓子類は軒並み20%を超えています。電気洗濯機も18%(総務省)です。
インフレです。MMT理論によれば、歳出膨張に歯止めをかけるべき時期を迎えています。自民党政治にはそれができない。社会保障費は36.9兆円(1.7%増)、防衛費6.8兆円(26.4%増)、国債費25兆円(3.7%増)で、簡単に切るに切れない項目が並んでいます。
景気対策のための歳出増ばかりだったら、歳出を抑制できるかもしれません。社会保障は高齢化に伴う当然増、防衛費は国際情勢の波乱に絡む必要増ですし、利払い.償還を含む国債費はすぐに切るわけにはいかない。
要するに、インフレになったからといって、「はい、分かりました。それでは歳出を抑制しましょう」とはならないのです。MMT理論は単純化した机上の空論であって、現実の財政は政治的現象です。
政治は理論の都合のいいところだけをつまみ食いしており、経済、財政理論と無縁の世界です。平時に選挙対策、世論対策、野党対策で歳出を安易に膨張させてしまうと、切るべき時に切れない。MMT理論は財政が政治現象であることを無視しています。
予算案には多くの偽装が施されています。「税収は69.4兆円で過去最高になり、新規国債発行額は35.6兆円で1.3兆円、減らす」ことになっています。税収見積もりは、来年度の名目成長率2.1%との前提を置いた試算にすぎません。
成長率がこれより低い結果に終われば、税収は減り、国債の新規発行額も削減できない。当初予算で化粧直しをしたように見せかけている。これまで毎年のように、巨額の補正予算を組んで歳出を膨張させ、国債で手当てしてきました。
当初予算をみて、財政規律を忘れていないふりをしても、補正を含めた全体(決算後予算)で比較しなければなりません。
さらにインフレ抑制のために、主要国は一斉に金利引き上げに動いています。その代償が景気後退です。金利を引き上げても高めのインフレがグローバルに続く。利上げが終息しても、高めの金利水準は続く。その結果、インフレ下の物価高になる。スタグフレーションの到来です。
IMFは世界経済の成長率を21年の6.0%に対し、22年は3.2%とみています。中国経済は不動産バブルの崩壊、ゼロコロナ政策の影響により、実質成長率は年間3%まで下落するようです。
長期的トレンドとしては、経済成長にブレーキをかける要因ばかりが目白押しです。安全保障関係費、地球環境対策費、少子化の急速な進展(生産年齢2.3人口の減少)、感染症対策費などです。つまり「高負担による低成長社会」の到来です。
そうした展望に立てば、財政再建はますます難しくなる。そんな認識を持たず、「11年連続で予算規模が過去最大を続け110兆円、国債発行残高が1100兆円、GDP比が2.3倍という途方もない水準」という予算編成はあってはならない。政治はもっと危機感を持つべきです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年12月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。