真の国防という切り口から地域活性を考える

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1.2022年や最近の政治状況を振り返っての雑感

毎年同じ慨嘆をしている気がするが、2022年も、何も成し遂げられないまま、あっと言う間に幕を閉じようとしている。

今年は特に酷い年だった。2月に母が急逝し、プーチン・ロシアがまさかのウクライナ侵略をはじめ、7月には安倍元総理が凶弾に倒れ、コロナは続き、円安が極度に進行して物価が上がる中、北朝鮮はミサイルをひたすら撃ち続けた。会社経営上も様々な困難があった。つい先日には、飯能にある実家から徒歩1分もかからない同じ町内、閑静な住宅地で、信じられない殺人事件も起こった。

来年は良い年になるに違いない、という根拠のない願望を胸に頑張るしかない。

政治に目を向けると、相変わらず、リーダー(始動者)として、一体本音で何を実現したいのかが見えにくい岸田総理・岸田政権が生きながらえている。やや否定的な表現をしたが、サラリーマン的な観点からは、目の前の仕事を粛々とこなしてきている着実な政権ともいえる。特に今年後半は、安倍元総理銃撃からの国葬儀の是非をめぐる論争や統一教会問題で一貫して支持率が下がり続けた中、よく持ちこたえ、同時に、よく宿題をこなしているとみることも出来る。

昨日も4人目の閣僚交代として秋葉復興大臣の辞任が報道されていたところだが、政治資金パーティでの収入の過少記載が問題となった薗浦議員の辞職も含め、普通の政権であれば辞任ドミノの中、末期症状を見せてもおかしくない状態で、逆に不思議な安定感がある。サッカー・ワールドカップで言えば交代枠は5名まである、とばかりに、何となく余裕すら感じる。

支持率は確かに一時の高さと比べれば見る影もなく、30%台まで落ちてしまってはいるが、そこからあまり下がらないという意味で、低位安定の感もあり、今回の閣僚交代や議員辞職の件で更に大きなダメージが出たという感じは正直ない。

岸田さんにいつまで総理を続けて欲しいか、というアンケート調査をすると、やはり3割程度ながら、再来年の(自民党総裁の)任期満了まで、という回答が最も多いそうだが、日本国民は、何だかんだで、ビジョナリーではなくとも、目の前の仕事を粛々とこなす、こうした真面目なサラリーマン型のトップが好きなのかもしれない。

繰り返しにはなるが、相次ぐ辞職で足下が揺らいでも不思議はない中、とてもまじめに課題をこなしている。夏休みの宿題ではないが、事実上年末までという期限がある中、何とか各種宿題をやりきった、という印象だ。

過去最大規模まで膨らんでしまったものの、約114兆円もの巨額の予算案(政府原案)をまとめ、税制大綱もまとめ(NISAの枠拡大など)、GX実行会議も形を整え、新しい資本主義実現会議も一応のまとめを出し(スタートアップ育成5か年計画や資産所得倍増計画)、全世代型社会保障構築会議報告書もまとめ(出産一時金の拡充など)、来年4月発足のこども家庭庁の予算などの道筋もつけ・・・という具合だ。

なかでも特筆すべきは、いわゆる安保三文書の改訂であろう。全て足すと100ページを超える大作を年内にまとめたわけだが、一言で言えば、ようやく普通の国の普通の国防に向けたスタートラインに立てるための基礎を作った、と言える。

相手国の意図を希望的に忖度する形ではなく、冷静に軍備そのものを脅威ととらえる姿勢が顕著な文書群だ。特に、中国を重視し、もはや専守防衛では国土は守れないという現実を受け入れて反撃能力(敵基地攻撃の能力)の必要性を明確に位置付け、弾薬や抗堪性がなければ戦争は続けられない(継戦能力)という現実を受け止め、現実的なターゲット(5年後や10年後)を意識して、戦略と計画に分けて全体を組み立てている。我が国が、わが国として自ら国防をする、という姿勢もこれまでより明確だ(今までは、守ってもらう、という前提が濃厚)。

戦略と計画をより明確に区別して位置づけていることも分かりやすい。そもそも、文書の表現も、国家安全保障戦略と国家防衛戦略という二つのレベルでの戦略と、防衛力整備計画という表現にしてすっきりとした。「大綱」みたいな表現は、あいまいで分かりにくい部分があったと思う。

当たり前と言えば当たり前なのだが、ようやくその「当たり前」を明示して、諸外国と同じスタートラインに立てた、という意味では評価に値するであろう。戦後日本を覆う妙な希望的観測に基づく空気(周囲の国々の善意を信頼し、自らはあまり武装しない)を振り払い、現実を踏まえてゼロから文章を組み上げた関係者には敬意を表したい。

2.真の国防とは ~各地の力と経済力~

ただ、当然の事ながら、こうした“文章(戦略や計画)”を書けば安心の国防が担保されるわけではない。これらは、一般に公表しているものであって、諸外国の関係者も当然に見られるものである。そもそも、日本の手の内を、公表文書で全て晒すわけにはいかないし、さらに身も蓋もないことを書けば、実はここには国防の本質は宿っていないとも言える。

そういう意味では繰り返しの表現にはなるが、安保三文書は、あくまでスタートラインだ。ゼロ地点に立てた、ということに過ぎない。本質的に大事なことは、こうした戦略や計画をベースとしつつ、短期的な防衛力、中長期的に重要な国力をどのように涵養していくか、ということである。

私見では、このことを最も良く理解していた政治家は、故安倍元総理であったと思う。要すれば、国防力の源泉は国力であり、それは、すなわち社会の力(各種社会指標)であり、特に経済力(各種経済指標)は、死活的に大事になってくるということだ。安倍政権を、国防という観点から見ると、一億総活躍とか、全世代型の社会保障といった表現で、「社会の強化」を図り、アベノミクス(経済政策)で経済力を向上させて、国力を強化させようとした、とまとめることも出来る。

岸田政権は、誕生時には、安倍政権(および、基本的にはそれを踏襲した菅政権)へのアンチテーゼから、分配重視のはずだった「新しい資本主義」などを提示したわけだが、今や、大きくは安倍政権の路線と変わらない。

そんな中、今後国力増強のため、大きく伸ばして欲しいのは、①スタートアップ(特に世界に冠たるメガベンチャーの育成)と、②デジタル田園都市国家構想の名前で現在は語られることの多い地域(日本の各地)だ。詳細は、以下の各論考等で記しているので、こちらを参照して頂きたいが、この点に関しては、詳細は記述できないが、日本の国防及び活性化のため、岸田政権の政策方向性に、弊社青山社中も一定の寄与をしたと自負しているところである。

※参考:関連論考

目標は人口増加ではない、テレワーク2.0で地方創生の再定義を 「新しい資本主義」の答えもきっとここにある | JBpress (ジェイビープレス)
日本で地方創生の議論が沸騰したのは、安倍政権時代の2014年に、民間の政策提言機関「日本創生会議」が提起した「消滅可能性都市」の議論がきっかけです。この問題提起で、多くの日本人は「人(1/8)
なぜ役所が旗振っても日本に「メガベンチャー」は生まれないのか 経産省に必要なのは意中の相手を徹底的に「えこひいき」する胆力 | JBpress (ジェイビープレス)
日本の経済力が米国や中国と比べて相対的に低下していることの大きな原因は、有力なベンチャー企業がなかなか育たないという点にあります。日本にも、「ベンチャーを育てよう」という問題意識はず(1/8)
停滞する日本の突破口はこれだ!「シン日本列島改造論」
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今後は、特に、メガベンチャー育成と地域の活性を有機的に連携させていくことが重要であり、各地の食い扶持づくり、就中、代表的企業群の育成ということが国防上も重要となる。

既に、淡路島のパソナ、前橋のJINS、水戸のグロービス、長崎のジャパネット、鳴門の大塚製薬、豊田市のトヨタなどなど、新旧様々な動きがあり、枚挙に暇がないが、各地での各企業の地域との一体化を更に進めることが肝要だ。

3.台頭する中国にどう向き合うか

上記2. では、主に国防に関して、中長期的にどのようなスタンスで臨むべきか、国力をどう向上させるか、ということについて述べてきたが、現実的には、より差し迫った危機がある。一つは暴発する北朝鮮への対処であり、更に大事になってくるのは、台湾危機という形でもっとも切迫した形で顕在化しそうな、中国の膨張政策である。

10月の中国共産党大会後の習一強体制については、以下(※)で詳述したところだが、私見では、現在明らかなのは、主に以下の諸点である。

① 中央軍事委の人事(何上将等の抜擢)などから、習新体制として、台湾(侵攻)を意識・重視していること。

② 日本の安保三文書の動きなどからも明らかなように、今後、日米を中心に東アジアにおける軍事バランスの是正(要すれば、中国への対抗)への動きがより顕在化していく中で、追いつかれる前に早めに台湾侵攻を、という気持ちになりがちであること。

③ 中国の少子高齢化が進展し、また、習近平氏(現在69歳)の老い先を考えると、社会もトップも元気なうちに、台湾侵攻を、という気持ちになりがちであること。

④ 国家主席の任期を撤廃した中で、5年後(2027年)に総書記等への再任を習近平氏が図るとすると、そのための5年間の成果として、台湾の中国への完全なる一体化を達成したいと思いがちになること。

⑤ 台湾国内での世論の変化(中国と一体というよりは、独立を志向する世代が徐々にメジャーに)を踏まえると、早めに台湾侵攻を、という気持ちになりがちであること。そして、そもそも習近平氏自身が、福建勤務経験が長く、もっとも台湾を知悉している共産党幹部であることも無視できない。

(※)「中国共産党大会を踏まえて、わが国の今後を考える

こうした中、①そうは言っても、習一強体制が確立した直後に、いわゆる「白紙革命」が起こって(各地における市民運動)、看板政策でもあった「ゼロコロナ政策」(ロックダウン等による封じ込めを撤廃せざるを得なくなったではないか、とか、②現在、中国はコロナの爆発的な感染拡大に苦しんでおり、それどころではない(当局の発表の数字を遥かに上回り、1日当たりの全土での感染者は3000~4000万人/日ともいわれる)という声もある。

2022年の世界十大リスク(約1年前に発表された、ユーラシアグループが毎年発表するリスク)の筆頭に、中国のゼロコロナ政策の失敗が挙げられており、その意味では、現在の中国のコロナの猛威を見ると、1年経って、同グループの分析が慧眼であったことが証明された感があるが、ただ、私が現地から色々と聞いているところでは、既に、感染して仕事等に復帰している人も凄い勢いで増え始めており、早晩、欧米や日本と同じように、経済活動が普通に戻るものと思われる。仮に、経済運営がうまくいかないとなると(※の朝比奈論考参照)、外に不満の目を向ける誘惑にかられるのが国家運営の常であり、そうした意味でも台湾侵攻等のリスクは大きい。

こうした中国への対処の姿勢として個人的に参考になると考えているのが、月刊日本における斎藤法務大臣の論考(「冒険主義」のリスクがこれまで以上に高まった)と、日本国際問題研究所のページに発表されている五百旗頭薫東大教授の論考(米ロ中核冷戦の歴史的考察)である。

乱暴にまとめれば、米ソ冷戦を参考にするのが大事な姿勢ということであり、つまり、しっかりとした軍事的・経済的対応をしつつ(ケナン流に言えば、封じ込め)、同時に、対話のチャンネルなど、ダイレクトコミュニケーションのルートをしっかりと確保しつつ、話合いによる解決・対応が出来る体制を取っておくという、containment (封じ込め)とcommitment(関与)を同時に成し遂げるという姿勢だ。

日本の活性化を標榜する青山社中としても、関与している日中若手のリーダー会議のネットワークなども大事にしつつ、地域の活性化等に益々積極的に取り組みたいと考えている。読者諸賢には、今年も大変お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。