自民党税調の意向を受けた岸田総理が昨年12月半ばに防衛費増額に絡めて増税を口にするまで、岸田内閣の支持率低下の要因を大手メディアは、世論調査の政権不支持理由をもって専ら「安倍国葬」と「旧統一教会」(以下、「教団」)の2つ問題への対応と報じた。
が、安倍元総理がテロに斃されて6日目の7月14日に岸田総理が安倍氏「国葬」を発表した頃、反対の声はほとんどなかった。おかしな風が吹き始めたのは、容疑者の家庭が長らく「教団」への寄付によって困窮し、安倍氏をその広告塔とみて狙ったとの、奈良県警のリークと思しき情報が流れてからだ。
安倍批判ネタなら異様に張り切る左派メディアや各ワイドショーは、夜を日に継いでかなり昔の「教団」の悪行とその被害者2世を自称する者の涙ながらの訴えを裏取りもなく垂れ流し、「教団」抹殺に取り組んで来たジャーナリストや全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下、「全国弁連」)に主張の場を与える一方、教団側の主張や擁護論は一部を便宜的に流す手法で、教団を断罪し続けた。
今となってはこの「おかしな風」が、「教団」の関連団体「勝共連合」を主敵と見なす共産党の巧みな扇動に乗せられたか或いは自ら乗ったマスメディアの偏向報道と気付く者が、「全国弁連」の対オウム真理教とは余りに違う対応を暴露するネットメディアなどのお陰もあって、少なくない。だが岸田総理は8月10日、国葬を先に行わないまま内閣改造に踏み切り、会見で「教団」問題にこう触れた。
・・社会的に問題が指摘されている団体との関係については、国民に疑念を持たれるようなことがないよう十分に注意しなければなりません。国民の皆さんの疑念を払拭するため、今回の内閣改造に当たり、私から閣僚に対しては、政治家としての責任において、それぞれ当該団体との関係を点検し、その結果を踏まえて厳正に見直すことを言明し、それを了解した者のみを任命いたしました。
さらに総理会見であるにもかかわらず、唐突に「自民党総裁として率直におわびを申し上げます」と切り出し、茂木幹事長に以下の3点指示したとし、「自民党として説明責任を果たし、国民の皆様の信頼を回復できるよう、厳正な対応を取ってまいります」と述べた。
第1に、党として説明責任を果たすため、所属国会議員を対象に当該団体との関係性を点検した結果を取りまとめて、それを公表すること。
第2に、所属国会議員は、過去を真摯に反省し、しがらみを捨て、当該団体との関係を絶つこと。これを党の基本方針として、関係を絶つよう所属国会議員に徹底すること。
第3に、今後、社会的に問題が指摘される団体と関係を持つことがないよう、党におけるコンプライアンスチェック体制を強化すること。
この内閣改造では「教団」との接点を認めた岸防衛相ら数名を閣外に出したが、留任させた山際経済再生担当相に改造内閣発足当日の8月10日、「教団」が発覚した。結局、山際大臣は2ヶ月以上すったもんだの挙げ句、10月24日に更迭された。この間の9月半ば、筆者は本欄に「岸田のままでは自民党はおろか日本も危うい」と題して書いた。
その趣旨は、「教団」問題での自民党としての対応のお粗末さに尽きる。この事態を招いた原因は「岸田に事の軽重を整理し、先を見越して戦略を立てる能力や、法や物事の道理に即した説明能力が欠けている」からだと批判した。
文科省は12月14日に「教団」に対する2度目の「質問権」を行使した。つまり、今も「教団」は宗教法人法の下で宗教法人としての活動を認められている。それにもかかわらず岸田政権は8月以降、国や地方を問わず党議員が「教団」及びその関連団体との関係を持つことを禁止した。事の後先が弁えられていないのだ。
筆者はこれを憲法第20条第1項「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する」に違反する行為と考える。仮にこの先「教団」に解散命令が請求される事態になったとしても、それらが法の保護下にある期間に、岸田総理総裁が「教団」やその関連団体との関係を絶つことを自党議員に禁じた事実は消えない。
そもそも党や政権の方針自体が憲法違反なのだから、山際大臣は辞める必要はなかった。それは葉梨、寺田、秋葉各議員の問題とは性格が異なる。その伝でゆけば杉田水脈議員の政務官更迭も、「岸田に事の軽重を整理し、先を見越して戦略を立てる能力や、法や物事の道理に即した説明能力が欠けている」ことの現れであり、この先、この顰に倣って更迭者を出さざるを得なくなることを懸念する。
杉田議員の政務官更迭は、就任はるか前の私人としての発言や記述が問題視されてのものだ。が、強固な保守の彼女の活動を安倍元総理が高く評価して山口から立候補させた経緯も含め、岸田総理はそれらを承知の上で抜擢したはずで、政務官としての治績にも瑕疵はない。ならば総理はあくまで杉田氏を守らねばならないし、更迭するなら総理自身も任命責任をとって辞任するのが道理というもの。
こういう総理について行く自民党議員も危ういし、このままでは日本も危うくなる。何故なら「小は家族」から「大は国家」まで、主(あるじ)と構成員との信頼関係ほど重要なものはない。終戦間もない9月27日、GHQを訪れた昭和天皇の次の言葉にマッカーサーの心は激しく揺すぶられた。
敗戦に至った戦争の、いろいろの責任が追及されているが、責任はすべて私にある。文武百官は、私の任命するところだから、彼らに責任はない。私の一身は、どうなろうと構わない。私はあなたにお委せする。この上は、どうか国民が生活に困らぬよう、連合国の援助をお願いしたい。(藤田尚徳「侍従長の回顧録」)
国民に全幅の信頼を置く陛下、その陛下を心から信頼する国民であるからこそ、昨日まで熾烈な戦いをしていた300万将兵が命令一下武装を解除し、1億国民が戦後復興に向けて一丸となれたのだ。一国の宰相が「道理」、すなわち「物事の正しい筋道。また、人として行うべき正しい道」を弁えなければその国は危うい。
最後に岸田総理の判断を狂わせたと筆者が考えている、「教団」に関する世論調査について述べたい。
冒頭にリンクを張ったNHKの世論調査は昨年9月9日から3日間、全国の18歳以上を対象にコンピューターで無作為に発生させた2392人の固定電話と携帯電話の番号に電話をかける「RDD」という方法で世論調査を行い、1255人(53%)から回答を得たそうだ。
固定と携帯の割合は書いていないが、今どき固定電話に出るのは日がな一日ワイドショーに現を抜かす高齢者と思われる上、そもそも「教団」に関する以下のような質問の仕方がなっていない。これでは安倍国葬に反対するノイジーマイノリティーの跋扈とそれに影響される人々の増加も止むを得ない。
自民党は、今後、旧統一教会や関連団体と一切関係を持たないことを基本方針とし、党所属の国会議員との関係を点検して公表しましたが、自民党の対応は十分だと思うか尋ねたところ、「十分だ」が22%、「不十分だ」が65%でした。
設問は「自民党の対応は十分だと思うか」ではなく、「自民党の対応は適切だと思うか」であるべきではないか。「不十分だ」と思う者は「自民党」が「今後、旧統一教会や関連団体と一切関係を持たない」のみならず、それらを「潰すべきだ」というのだろうか。筆者なら、自民党の対応を「憲法に違反する不適切なこと」と回答する。
斯くて一事が万事、日本社会でも国民を分断する「魔女狩り」が進行する。米国でもトランプが「カンガルー裁判」と揶揄する「J6委員会報告」や彼の納税申告書公開が民主党主導で12月に駆け込みで行われた。この3日からは多数派となった共和党が全委員会を掌握する下院議会が開かれるからだ。が、日本の政権交代は起こりそうもない。政治家よ、真面目にやれ!