ハイブリッド型勤務、広がる英国:流行った言葉は「ゴブリンモード」

昨年秋、筆者はポーランドの新聞社を訪問したが、取材日を決めるために連絡を取り合う中で、「その日はリモートワークなので、会社にはいない」と言われた。

新型コロナを機に始まった、会社での勤務と自宅での勤務を組み合わせる「ハイブリッド型」勤務がポーランドでも広がっていた。

筆者が住む英国ではハイブリッド型勤務が事務職を中心に採用されている。コロナ下の一時的措置であったはずだが、時が過ぎるうちに定着していきそうだ。

英国家統計局がコロナのロックダウンで自宅勤務となった人々に今後の予定を聞いたところ、8割がハイブリッド型勤務を望んでいた(昨年5月23日発表の調査)。昨年2月時点でハイブリッド型勤務者の割合は13%だったが、5月には24%に増加した。現在までに、もっと進んでいるかもしれない。

「2022年の流行語」として、オックスフォード大学出版局の辞書部門「オックスフォード・ランゲージズ」が発表した言葉がリモート勤務から生み出されたものであったのも納得できた。

2022年の流行語とは

毎年年末、オックスフォード・ランゲージズはその年の価値観やムードを代表し、今後も文化的な重要性が長く続きそうな言葉や表現を選ぶ。しかし、昨年までは、辞書編集者たちが数十億にも上る言葉を保存したデータベースから選び取っていたが、今回初めて、候補の言葉をあらかじめ絞り込んだ後、読者の投票で決めた。

34万2079人から回答があり、その93%に選ばれたのが、「ゴブリンモード」(Goblin mode)。

筆者はこの言葉を聞いたことがなく、周囲に聞いても「知らない」という人がほとんどだった。しかし、筆者は会社勤務ではないので、聞いたことがなくても不思議ではないかもしれない。

「ゴブリン(Goblin)」とは、オックスフォード辞書によると、欧州の「民間伝承に登場する、いたずら好きで、醜く、小人の姿をした生き物」だ。12~14世紀発祥の言葉で、古代フランス語「gobelin」に由来する。関連語に伝承の精霊を意味するドイツ語の「kobold」、ギリシャ語で「kobalos」がある。中世ラテン語の「Gobelinus」も同義語。

id-work/iStock

「ゴブリン・モード」とは、俗語で「誰はばかることなく気ままで、怠惰でいい加減、欲張りな態度」を指す。「社会規範や期待を度外視する」の意味で使われることが多く、「ゴブリン・モードになる」「ゴブリン・モードでやる」といった表現で使われる。

この言葉がツイッター上に現れたのは、2009年。でも、ソーシャル・メディアで大きく拡散していったのは2022年2月頃から。2020年春以降、新型コロナの感染拡大を防ぐためのロックダウン体制が敷かれた後、次第に行動規制が解除され、多くの人が外に出かけるようになった時期と重なる。

コロナ前のようにきちんとした格好で出かけるような「通常の生活」には戻りたくないという人の思いが、「ゴブリンモード」を使ってソーシャルメディア上で発信された。

「ガーディアン」紙(2022年3月14日付)がこの言葉を広めた人物による説明を紹介している。

ゴブリンモードとは「午前2時、長いTシャツ以外は何も着ない姿でのろのろと台所に向かい、変わったスナックを作る」。つまり「自分がどう見えるかについては全く無視する。他人がどう見るかなんて、気にも留めていない」状態だそうだ。

米言語学者ベン・ジマー氏は「まさに今を凝縮する言葉だ」と評価している。「社会的慣習を棄てて新しいものを受け入れてもいいのだと思わせる」言葉だからだ。確かにコロナの前と後では、働き方を含めて私たちのものの見方が変わったと思う。

次に、全体の4%にあたる1万4484票を集め、2番目に人気が高かったのが、コンピューターが作り出す3次元の仮想空間を表す「メタバース」。

「高次の」「超~」の意味を持つ「メタ」と「宇宙」「世界」などを示す「ユニバース」を組み合わせた言葉だが、最初に記録されたのは1992年。その後は主として空想科学小説の中で使われた。

2021年10月、フェイスブック社がメタバースの構築に力を入れるため社名を「メタ」に変更したことで、その意味や、どのように利用するべきか、将来どうなっていくのかなどが話題に上るようになり、2022年10月までにこの単語の使用頻度が以前の4倍に増えた。

今後、仮想空間内の倫理について、あるいは社会が完全にオンライン化する未来がやってくるのかなどの議論のなかで、メタバースという言葉がさらに使われるのではないかとオックスフォード・ランゲージズは予想している。

第3位は全体の3%にあたる8639票を集めた、「私は~とともに立つ、~を支持する」という意味の「#IStandWith」。

「Stand with」という英語表現は14世紀から存在していたが、ハッシュタグ付きでソーシャル・メディア上で拡散されるようになったのは、2009年。特定の理由、グループ、人物などとの連帯感を示し、オンライン上の運動や自分の信念を表明する言葉となった。

特に使用頻度が増したのは2022年3月以降。2月末のロシアによるウクライナ侵攻を受けたもので、「#IStandWithUkraine」「#StandWithUkraine」がソーシャル・メディアを駆け巡った。

ちなみに、2022年の流行語は読者の投票で決められたが、今年はかつてのように言語学者が選んでくれないかなと筆者は思っている。ソーシャルメディア上で何が流行しているかも含め、専門家としての判断を見たい。「ChatGPT」が上位に入るのは必須だ(と思う)。

(在英日本人向け雑誌「英国ニュースダイジェスト」に掲載された筆者コラム「英国メディアを読み解く」に補足しました)


編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2023年2月17日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。