米国債保有高、中国は取り崩しが鮮明もアノ国は大幅積み増し

米財務省が発表した2022年12月対米証券投資によれば、海外勢の米国債保有額は7兆3,146億ドルと、前月の7兆2,687億ドルから459億ドル増加しました。2カ月連続で増加しています。

内訳をみると、短期債が前月比441 億ドル増の9,500億ドルとけん引。米連邦公開市場委員会(FOMC)の7回目の利上げを受け、米3カ月物Tビルの利回りが22年11月に4.2%台付近から、22年12月には一時4.49%へ急伸した影響と考えられます。

米長期国債保有高は前月比18億ドルの増加にとどまり6兆3,646億ドル。米10年債利回りが22年10月につけた4.3%でピークアウト感が漂いつつ、22年12月後半に3.9%台を回復する過程で、小幅ながら増加しました。

アメリカ合衆国財務省 Kiyoshi Tanno/iStock

チャート:海外勢による米国債保有高(長期、短期含む)

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(作成:My Big Apple NY)

国別の米国債保有高(短期証券を除く)の上位20カ国は以下の通り。日本がトップを堅持する一方でベルギーやルクセンブルグのほか、インド太平洋で協力関係深まるインドが大幅に積み増ししていました。

チャート:トップ20カ国・地域のうち、米国債保有高が22年末で増加したのはわずか7ヵ国

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(作成:My Big Apple NY)

海外勢による国株保有高は前月比6,517億ドル減(5.2%減)の11兆9,722億ドルと、3カ月ぶりに減少。S&P500が終値ベースで前月比5.9%下落する過程で保有高を取り崩した格好です。

チャート:海外勢による米株保有高、3カ月ぶりに減少

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(作成:My Big Apple NY)

国別の米国株保有高の上位20カ国は以下の通り。ナスダックが33%、S&P500が19.4%も下落しただけに、全ての国・地域で取り崩しとなりました。

チャート:米国債保有高を取り崩している中国は、ランクを1つ上げて16位に

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(作成:My Big Apple NY)

対米証券投資で注目されがちな中国は、米長期国債保有高を減少し続けていました。背景に、ロシアによるウクライナ侵攻後に加速しつつあるドル離れが考えられます。

中国人民銀行は2月7日に1月末の外貨準備を発表、そのうち金保有量は前月比0.7%増の約2,025トンとなり、3カ月連続で増加していました。高インフレへの対応のほか、中国のドル離れを進めている可能性を示唆します。実際、中国の米国債保有高は22年12月に前年同月比16.8%減の8,623億ドルであったように、中国は22年1月以降、前年同月比ベースにて12カ月連続で米国債残高を取り崩す状況です。

チャート:中国の米国債保有高、前月比では1年2カ月ぶりに小幅増

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(作成:My Big Apple NY)

こうした中国による米国債取り崩しは、2018年に断行したロシアとトルコほど苛烈でなくとも、主要7カ国(G7)がロシア軍支援を背景に中国企業への制裁を検討する動きも加わり、今後さらに強まってもおかしくありません。ブルームバーグによれば、G7諸国は中国や北朝鮮、イラクなどロシアに軍事目的でテクノロジーや部品を供給している問題につき、ロシアのウクライナ侵攻開始から1年を迎える2月24日までに包括措置を調整することを目指しているといいます。

余談ながら、中国税関総署によれば、2022年の中国の対ロシア貿易額は前年比34.3%増の約1兆2,800億元(1,900億ドル)と、2年連続で過去最大でした。ウクライナ侵攻による対ロ経済制裁を受けロシア産の原油が安価となったため、原油を軸に輸入が同43%増と11年ぶりの増加幅を記録。輸出も集積回路が2.4倍増を牽引し、同13%増でした。中ロ間では“ペトロユアン”、すなわち国際原油取引の人民元への移行が進むとの観測もあり、中国のドル離れに伴う外貨準備高などを通じた金需要の高まることでしょう。

ペトロユアンが取り沙汰されるなか、サウジアラビアとインドは米長期国債保有高は逆に増加していた点は注目に値します。

サウジアラビアにとって中国は9.5%と国別で2位の輸出相手国(コムトレード、not elsewhere specifiedを除くベース)であるだけに、元建て取引を検討する余地は十分にあります。しかし、他の輸出相手国をみると、米国や日本を含め西側の上位国を合わせると13%、さらにインドだけでも3位で7.9%を占める状況。近いうちにペトロユアンに大きくシフトする可能性は低いでしょう。

インドはインド太平洋の結び付きに加え、中国との国境問題もあってペトロユアンを歓迎するとは想定しづらい。ロシアによるウクライナ侵攻と対ロ制裁で脱ドル化が進むというより、世界経済のブロック化が意識されます。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年2月21日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。