賢い消費によって節約された資金が資産形成されるとき

夢は、消費を刺激するものとして、経済成長の動因である。ただし、夢と無駄は異なる。経済は、夢の実現によっても、無駄使いによっても、成長するが、無駄使いによる成長は持続可能ではない。実際、無駄使いを刺激する消費者ローンの膨張は持続可能ではない。

金融庁が最重点施策に掲げる資産形成は、豊かな老後生活のための消費を目的にした計画的な積立である。超高齢化社会において、年金生活者の消費は決定的に重要である。消費は夢の実現であり、夢は温めているうちに膨らんでいく。資産形成とは、資産と夢が並行して大きくなっていく過程なのであって、資産が膨らめば、夢も膨らむ、これが真の資産効果である。そして、こうした真の資産効果による夢の実現は、十分に持続可能なのである。

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しかし、現実には、資産形成の背後にあるのは、夢ではなく、不安である。政府による社会保障改革は、国民の老後生活の最低保障を放棄するものではなく、逆に、それを確実なものにするために必要なのだが、政府の意図に反して、老後生活不安をばらまく結果になっていて、金融界は、その不安を利用して、資産形成の普及を図ろうとしているわけだ。

不安のばらまきに対しては、賢く防衛するという合理的反応があり得る。しかし、賢く無駄使いしないことは、消費に抑制的に働く。実際、消費者が賢くなったことで、かつての大衆消費の構図が崩れてしまったのだし、今後も、消費者は賢くなり続け、シェアリングの賢い利用が普及し、物の生産と販売は更に縮小してしまうのかもしれない。

一方で、賢くも節約された無駄は、他方で、より賢く、より大きな夢の実現のために投資されるべきである。 不安に対して賢く防衛することは、節約するだけのことではなく、節約した余剰を預金しておくことでもなく、それを未来の夢に投資することではないか。これが金融庁のいう貯蓄から資産形成へということの真の意味である。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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