メディア専門サイト「プレス・ガゼット」の調べによると、地方日刊紙の総部数のうち大手発行元4社が占める割合は、リーチ社(32%)、ニューズクエスト社(29%)、DCトムソン社(15%)、ナショナル・ワールド社(12%)の順となった(2022年1月から6月の部数を比較)。全体の88%に上る。
2018年の同様の調査では全体の76%、13年では50%を占めていた。紙の新聞の不振が続く中、地方紙業界は4社による寡占化が進んでいる。
また、英新聞雑誌部数公査機構(ABC)に発行部数を公表する地方紙は減少している。プレスガゼットの調査によると、ABCに情報を提供した地方紙は10年に100紙を超えていたが、昨年は25紙のみだった。
収入減少、買収相次ぐ
過去20年来、地方紙は部数の下落と広告収入の激減に直面してきた。英広告協会(AA)とマーケティング会社WARCの調査によると、地方紙の広告費は2004年で31億ポンド(約4970億円)だったが、2021年には5億1000万ポンド(約822億円)に激減。広告費はウェブサイト、アプリ、配信などオンラインからの収入が半分を占める。
電子版の購読料収入は地方紙経営を維持するには不十分だ。中小の出版社を大手が買収する動きが目立つ。2021年1月、ナショナル・ワールドが英国で3番目の地方紙大手ジョンストン・プレスを買収し、約200紙を獲得した。昨年3月にはニューズクエストが日刊紙4紙と週刊誌50誌を発行するアーチャント社を買収した。アーチャント社は2年前に経営不振で破産申請をしていた。
地方ジャーナリズムの持続性についての報告書
下院のデジタル・文化・メディア・スポーツ(DCMS)委員会は1月25日、「地方ジャーナリズムの持続性」と題する報告書を公表した。新聞の発行部数が減少し、読者がニュースをオンラインで閲読する習慣が定着する中、2022年2月、委員会は「民主主義社会に欠かせない地方のジャーナリズム」を持続させるための施策の調査に着手。報告書は新聞発行社、地方放送局、グーグル、メタ、BBC、デジタル・文化・メディア・スポーツ省、学者などの意見をまとめた。
報告書によると、09年から19年までに320以上の地方紙が廃刊した。07年時点で日刊地方紙が存在しない行政区画は45%だったものの、19年には63%に増加した。地方紙が収入源としてきた「クラシファイド広告」(求人や個人間の物品売買などの短い広告)は、フェイスブックやガムツリーなど配信対象者を絞り込めるオンラインサービスの広告に対抗することが難しい。オンライン広告と有料購読制を組み合わせたビジネスモデルは利用者数の少なさが原因で苦戦している。
英国の地方自治体は建築申請など法律手続きに関わる案件を地元紙上で告知する義務がある。告知資金は事実上地方紙への財政支援として機能してきた。
こうした地方ジャーナリズムの支援策は中小規模の地方紙に届きにくい傾向がある。ニュース発行者の監督機関「IMPRESS」によると、年間5000万ポンド(約80億円)の大部分が大手発行元に投入されている。政府が新型コロナウイルスの感染拡大防止策の広報キャンペーンを新聞紙上で行った時も、広告費の大部分が大手に支払われ、大手所有ではない地方紙にはほとんど回らなかった。
議会「活性化も可能」
DCMS委員会は「適切な支援策を施すことができれば、地方紙業界の活性化と持続可能な未来を実現できる」としている。具体策として、BBCが英ニュースメディア協会との合意を基に2017年から始めた地方紙との提携事業の拡大を挙げた。
自治体など公的組織の動きを取材する「地方民主主義記者」制度は、165人の記者を地方紙の編集室に配置。記者の給料としてBBCが徴収する放送受信料から年間800万ポンド(約13億円)を拠出する。この制度も大手発行元に集中する傾向がある。記者165人のうち、21年7月時点でリーチに75人、ニューズクエストに28人、ジョンストン・プレス(現ナショナル・ワールド)に35人が配置された。
報告書は公益性の高い報道の維持を目的とした、政府による長期的なイノベーション基金の設置、大手と中小の発行元の間で公的資金が公平に分配されているかを巡る調査の実施なども提言した。
厳しい環境の中、新興の地方メディアも生まれている。その1つが14年に創刊された共同所有者形式の「ブリストル・ケーブル」紙だ。四半期毎に雑誌形式の紙の新聞を発行し、オンライン版では週に数回記事を更新する。いずれも無料で閲読可能。会員の共同所有となっており、運営費は一人当たり毎月1ポンド(約163円)以上を払う会員費で賄っている。
(2月28日発行の「新聞協会報」の筆者コラム「英国発メディア事情」に補足しました。)
編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2023年3月23日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。