出版物にもインフレが波及し新書は続々1000円を突破

返品率の改善で価格を抑制せよ

世界インフレが日本にも波及し、2月の食料品は7.8%上昇し、1978年以来、46年ぶりの伸びとなりました。知識の食品である出版物も相当な値上がりで、1000円を超す新書が急増しています。

新聞、テレビは出版社が関連会社にあるのでしょうか、出版物のインフレにはまず触れず、食品やエネルギーなどのことばかり書いています。そんなことをしても、出版広告に載る書籍、雑誌の価格を見れば、インフレがここまで及んできたかと、気が付くはずです。

書籍のうち、内容や頁数にばらつきがある単行本や文庫より、毎月、各出版社が4、5点、定期的にだす新書の価格を調べれば、比較しやすい。徐々に値上がりしてきた新書は4月に向け、新たな段階に入ったようです。

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3月の書籍広告をみて驚きました。岩波新書は4点のうち3点が1000円(税抜き、以下同じ)を超えました。集英社新書は4点すべて、中公新書は5点中、3点、講談社新書は4点中、2点が1000円を突破しました。

手軽に買えるようにするため7、800円以下が主流だった時代から、1000円新書の時代に変わったようです。岩波新書は、「西洋書物史への扉」(1100円)、「軍と兵士のローマ帝国」(1056円)、カラー印刷でコストがかかる「占領期カラー写真を読む」(1254円)です。

集英社新書は「日本のカルトと自民党」(1276円)、「クラシックカー屋一代記」(1144円)、「江戸の芸者」(1012年)などです。中公新書の「唐-東ユーラシラアの大帝国」(1210円)、「統一教会」(1056円)、「バレエの世界史」(1034円)などです。

つい最近までは、1000円を超す場合は、「恐る恐る1000円超え」だったのが今や、「皆が1000円を超えたからもう怖くない」と、1000円の壁を意識しなくなっている。「皆で渡れば怖くない」のです。無理に1000円以下にしようとして、頁数を圧縮した薄い安っぽい新書も増えています。

「1000円新書」の背景としては、まず用紙代の値上がりです。コロナ危機やウクライナ危機が絡む原油・資源高、日銀の円安容認などで、印刷用紙代は3月に一挙に15%値上げを製紙会社が表明しています。22年は平均24%も上がったそうで、それに追い打ちをかけているのです。

インク代は4月から10%、上がる。製本費も電気代、燃料費の高騰で上がっているでしょう。筆者、作家の収入になる印税は主に定価の10%という定率制であっても、彼らの生活費の上昇に合わせ、収入を増やすようにするため、定価そのものを引き上げているのでしょう。

こうしてインフレは「一波が万波を呼ぶ」のです。黒田日銀総裁は「賃金と物価の好循環がまだ起きていない」といい、異次元緩和を継続したまま、日銀を去ります。この人が気づいた時には、相当なインフレになっているはずです。むしろ国家債務(国債)、日銀の債務を軽減するために、インフレ容認を続けたことが分かる時がくるでしょう。

紙の出版物が売れないから出版不況に陥る。一方、売れないのに値上げせざるを得ないから、さらに売れなくなり、悪循環にはまる。出版点数は年間、約7万で、毎日200点にもなります。そんなに売れないから、本を出す。本を出すからますます売れなくなる。悪循環のどろ沼です。

出版社数は2020年の統計で2900社です。2010年では3800社でした。10年で1000社減りました。売上高は20年で半分になり、22年の書籍・雑誌の売上高は1兆6300億円でした。紙製は前年比6・5%減、電子は7・5%増です。

さすがに出版社、取次、書店は流通効率化に懸命になっています。それでも書籍の返品率は32%、雑誌は40%で、これほど返品が多い業界は稀です。衣料品、ファッション品、電気製品のように、売れ残りや中古品のリサイクルに取り組み、それがビジネスとして成功するケースが増えています。

賞味期限、使用価値が長続きする出版物ならリサイクルに回せます。そうではなく、出版後、一年もしないうちに、読む価値が消滅する本が多い。出版物流通の効率化と出版内容の長寿化が必要です。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年3月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。