少子高齢化する世界、日本は高齢者活躍社会の範を示せ

衛藤 幹子

少子高齢化は、年金や医療、介護の重い負担に加え、経済を停滞させ、社会の活力を奪う。現実もさることながら、こうしたネガティブな事柄が高齢社会を暗く、希望のないイメージで映し出す。そのため、75歳以上の高齢者が自ら死を選ぶデストピアを描いた早川千絵監督の「プラン75」(2022年6月公開)、若手経済学者の「高齢者集団自決の勧め」のように、高齢者は社会のお荷物、邪魔者扱いの憂き目に遭う。

高齢者の一人としては、心穏やかではない。けれども、少子高齢化は決して日本に限られることではなく、地球規模で進行する問題であり、日本は言わばその先頭を走っているにすぎないのである。

映画『PLAN 75』公式サイト
〈プラン75〉に翻弄される人々が、最後に見出した答えとは―― 倍賞千恵子 磯村勇斗 たかお鷹 河合優実 ステファニー・アリアン 大方斐紗子 串田和美/脚本・監督 早川千絵

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国連の「2022年版世界の人口予測(World Population Prospects 2022: Summary of Results)によると、図1のように、2050年には世界の合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に生む子供の数、以下出生率)は人口置換水準(人口が増減なく、均衡を保つ出生率)の2.1をかろうじて維持するところまで低下し、水準を上回るのはサハラ以南のアフリカ、オーストラリアとニュージーランドを除くオセアニア、そして北アフリカ及び西アジアの3地域のみである。

図1 世界の地域別合計特殊出所率の推移と予測(中位水準)(国連前掲書14頁より引用)

少子化に加え、寿命の伸びによって高齢化率は上昇の一途をたどる。表1は、世界と地域別の高齢化率の予測を示す。WHOの定義では、全人口に占める65歳以上人口の割合が7%を超えると高齢化社会、14%以上は高齢社会である。

世界全体はすでに高齢化社会に突入しており、2050年には高齢社会となる。2022年の日本の高齢化率は28.9%(内閣府令和4年版高齢社会白書)、2050年にはヨーロッパ及び北米、東及び東南アジア、さらにオーストラリア/ニュージーランドがこのレベルに近づいてくる。なお、2050年の日本の高齢化率は37.7%と予測されている(内閣府前掲書)。

表1世界と地域別高齢化率の予測(中位水準)(国連前掲書8頁より引用)

少子高齢化は、近代化と経済成長、それらにともなう生活の都市化によって引き起こされる。言わば社会発展の帰着の一つなのである。したがって、低下する出生率を上昇に転じさせるのはその発展に逆行することなので、容易ではない。また、こうした現象が最も早く生じた西欧の少子化が緩やかであったのに対し、後発国のそれは急激に進む傾向にある。

図2は、日本、韓国、フランス、スウェーデン、インドの出生率の推移を表したものである。フランスとスウェーデンの少子化が19世紀に始まり、以後なだらかな下降線をたどっているのに対し、日本、韓国、インドは前者よりも数十年遅れで始まり、しかも落ち込みが急激である。

周知のように、韓国はすでに著しい出生率の低下(2022年:0.78)に直面している。インドも2022年の2.16から2050年1.78、 2100年には1.69に低下すると予測され(中位推計)、少子化社会が目前に迫る(国連前掲書)。

韓国の現在の高齢率は17.5%とまだ深刻化していないが、2035年に30.1%、2050年には40%になるとの予測である(Korea JoongAng Daily, Sept. 29, 2022)。一方、インドは、少子化が遅く始まり、低下の度合いもさほど大きくないため、高齢化率は現在が7%、予測では2063年でも20%以下、2100年に29.8%である(Pew Research Center, Feb. 9, 2023)。

図2 日本、韓国、フランス、スウェーデン、インドの出生率の推移 出典:World Bank, Fertility RateStatista, Fertility RateMacrotrends

いずれにしろ、30年近く後には、地球上の多くの国が日本と同じ悩みを抱えるようになる。しかも、これから高齢化が本格化する国ではそれが凄まじい勢いで進むことが予想される。したがって、日本がこの問題に巧みに対処し、豊かさと安定の維持に成功するならば、それは世界の模範となることができるはずである。

出生率を上げるための有りと有らゆる努力を長期にわたって行ってきたフランスとスウェーデンは出生率の回復に最も成功した国と言われている。それでも、図2に示したように、2を上回れないし、おそらく今後もできないであろう。

日本も、たとえ最大限の努力をしても、出生率の劇的な改善は期待できないと思う。これ以上の低下を防ぎ、わずかずつでも引き上げていく忍耐強い政策努力を継続すべきことは言うまでもない。が、他方で高齢者の能力を最大限に活用して国民負担増、経済や社会の停滞といった負の側面を極力低減させ、高齢者を社会のお荷物ではなく、経済や社会の積極的な担い手にすることが不可欠である。

ポジティブな高齢社会のあり方、すなわち「高齢者活躍社会」モデルの構築が求められる。高齢者に自死を迫るような社会では世界の軽蔑を誘うだけである。