統一地方選、「私見概観」:保守派が強かった、の一言

今回の統一地方選、私の印象は保守派が強かった、の一言です。日本全域で保守的思想が高まっているとすれば2つ背景が思い浮かびます。1つは景気が回復してきている実感をつかんでいること、もう1つは地政学的リスクを見ていることです。社会的に不安視するような事態が生じた場合、国家は一枚岩になりやすくなります。

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例えば911の時にブッシュ大統領(当時)の支持率がぐっと上がりました。日本でその危機感を持つようになったのは北朝鮮の不気味な威嚇もありますが、中国の出方、特に台湾をどうするのか、読みにくいこと、そして中国当局に捕まった日本人駐在員と林外務大臣の訪中による交渉でも埒があかなかったことで中国脅威論がさっと広がっていることはあるでしょう。

今年は物価上昇の負の面だけではなく、賃金上昇が伴い始めたという嬉しい傾向が見えてきたことも重要です。明らかに国内のムードはコロナの呪縛から解放されて前進し上に向かっているように感じます。そういう時は保守派は強いな、という印象を受けます。

もちろん、野党の自爆もあります。立憲民主党が明白な路線や色を出せない中、自民党がそのお株を奪うような流れになっていて、立民の存在価値が薄れていることはあるでしょう。共産党も内部紛争で選挙でまともに戦う体制になっていなかったように思えます。

維新と国民が立ち位置的に与党と野党の中間的な感じとなる中で地域色では圧倒的強みがある維新が関西地区における基盤の確立から奈良と兵庫での勝利で勢力拡大に向かっていることがはっきり見て取れます。以前、国政選挙の結果を受けた私見を書いた際に維新は台風の目で大きく成長するだろうとコメントしたことがありますが、今回の地方選でもそれを裏付けました。いずれ、関東地区に波及するのでしょう。

奈良知事選は当初から自民の分裂が招いた自爆ではなかったかとされます。高市早苗氏の元秘書が立候補するということが事の発端だったわけですが、高市氏はこのところ、ポイントゲットできないな、という気がします。仮に内閣改造がいつかあった場合、あるいは秋に噂される解散総選挙があり、組閣がある場合、高市氏のポジションの見直しはあるかもしれません。自民党には人材は多いのです。そして女性の幹部クラスも沢山いるのです。党としては将来の総理候補という重い期待をかけずに大臣クラスをもう少し増やしながら女性議員たちがもっと切磋琢磨する流れの方がナチュラルだと思います。

地方選なので地域ごとの個別案件も選挙結果に出やすくなります。札幌市長選は2030年オリンピック招致推進をする現職が三選を決めました。他の2候補が見直し/反対派だったことからある意味、ほっとしている関係者も多いのでしょう。ただ、この五輪誘致問題は日本国内世論の調整という大問題をクリアしなくてはならず、開催地だけの問題ではないとみています。いわゆる主要広告代理店が芋づる式に問題発覚となった東京五輪を受けて広告代理店が突然、クリーンな体質になりえるのか、その説明が出来なければ誘致はしにくいでしょう。実際のところ、日本に本気で一体感が生まれ、誘致を目指せば札幌の可能性は極めて高いと思います。他に有力候補がいないのですから。しかし、冬の五輪そのものが経済効果を含め、盛り上がりが限定される中で誘致で団結するまでの道のりはもう少しかかりそうです。

静岡市長戦ではもともと同県副知事でリニア推進派が勝利を収めました。今までは川勝知事とは上下関係だったが、今後は1政令指定都市の長としての判断であり「言うべきは言う」という姿勢を見せています。やみくもに推進するというのではなく、より論理的、客観的事実に基づいてやれることをやるというスタンスです。ただ、一市長が今回のリニア問題にどれだけ絡めるかは疑問です。個人的には静岡県、特に知事は静岡空港新駅誘致を含めとても政治的な動きを見せるためJRもまだしばらくは振り回されるのだろうな、という印象です。

えげつないと思ったのが週刊文春。選挙戦の最中に神奈川県知事の黒岩氏の不倫をすっぱ抜き、黒岩氏があっさり認め、謝罪した件です。古い話で今から12年前に終わっているのですが、日本人ののぞき見趣味と言うか、人の盲点を見つけて間接的にゆすったり、商売ネタにするやり方にそろそろ国民も「これでいいのか」と考えてもらいたいと思います。当の黒岩氏は当選したものの笑顔なしでした。出る杭は打たれることを当たり前のようにする社会に私は辟易としております。

概括すれば自民党がほっとした、そんな結果だったと思います。岸田総理には運がある、と私は思っています。ただ運も実力のうち、ともいいます。この追い風をうまく活用して国政でももうひと踏ん張りしてもらいたいところです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月10日の記事より転載させていただきました。