タクシーに学ぶ働き方改革の本質

タクシーに乗ると、玄人の運転手が素人の顧客に経路の指示を仰ぐ。この不合理な慣行は、その本来の主旨においては、運転手に判断が一任される前提のもとで、運転手が事前確認のために最適経路を提示し、それに顧客が同意することをもって、理想形にしているはずだが、現実は理想と大きく異なる。

実際には、多くの運転手は、顧客の行先を聞いた瞬間に、最適経路を特定できるだけの知識と経験をもっていない。経路を聞かれた顧客は、多くの場合、道を知らない。その結果、不適切な経路選択のもとで運行されれば、顧客の利便性が低下し、しかも、費用が増えるが、タクシー会社の売り上げは増え、運転手の所得も増す。これは顧客の損失のうえに業者の利益を形成することだから、明瞭な利益相反である。

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利益相反による利益は持続可能なものではなく、真に持続可能性のある利益は、最適経路からしか生まれない。ここで、最適経路とは、最短距離かつ最短時間の経路であり、同時に最小費用の経路でもある。全てのタクシーが最適性のもとで運行されれば、顧客の利益が最大化されるだけではなく、同時に、タクシーの供給と需要が均衡している条件のもとで、タクシーの稼働率は最大となり、タクシー会社の利益と運転手の所得も最大化するはずである。こういう最適性のもとでの事業運営こそ、真の利益の源泉である。

そこで、論点は、どのように制度設計をしたら、最適性の実現する方向へと、タクシー会社の経営者と運転手の行動が動機づけられるかということになる。この論点は、運転手の自己研鑽への利益誘因に帰着するはずで、ここに働き方改革の本質があるわけだ。

要点は、距離と時間で料金を算定するとしても、最適経路を基準にすれば合理性を確保できることである。つまり、最適経路においては、原価が同一区間に対して最低となるので、その原価に一定の利益率を掛けて料金を算出すればいいわけだ。

この仕組みのもとで、最適経路ではない経路が選択されたときには、原価は上昇しても料金は同じなので、タクシー会社に損失が発生するが、歩合制のもとでは、それは同時に運転手の損失となし得るので、運転手は最適経路を選択する方向へ、即ち、顧客の利益が守られる方向へ、そして結果的にタクシー会社の利益も守られる方向へ動機づけられるわけである。

こうして、働き方改革の根底にある要請として、時間に応じた報酬から、成果に応じた報酬への転換があるわけだが、何をもって成果とするか、どう成果を測定するかなどの論点は、一般的にはタクシーほど簡単ではない。故に、ここでは、簡単なタクシーを例にしたわけだ。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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