医療DXの今後の見通しと予算の内容を予測する

医療DXの工程表から予算の大幅増が読み取れる

医療DXは2022年の骨太の方針で「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化」「診療報酬改定DX」を進めることが打ち出されたことがきっかけで始まりました。2022年10月に総理がトップである医療DX推進本部が設置され、6月2日に工程表の詳細が明らかにされています。

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医療DXといっても、対象は医療だけではありません。疾病の発症予防や医療介護の連携によるケア、そして研究開発など、保健や介護にも関係する領域も含みます。それら保健、医療、介護の「業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化」を図ることが医療DXです。そして以下の5点を実現することを目指すことになっています 。

① 健康増進
ここで目指すのは保健、医療、介護の情報を自分自身で一元的に把握することです。自分では記憶していな検査情報やアレルギー情報を、受診時に活用できることや、(個人の睡眠時間や心拍数などの)ライフログデータの標準化による疾病の予防なども念頭に置かれています。

② 切れ目のない医療の効率的な提供
念頭に置くのは診療情報の医療機関等での共有です。災害時やコロナ禍のような緊急時であっても、どこの医療機関でも必要な患者の情報が利用できることが目指されています。

③ 業務効率化
医療機関におけるICTやAI技術の活用による業務支援や業務改善ソフトの利用により、医療者の効率的な働き方を実現しようとするものです。またコロナ禍では、感染者情報の入力などに医療者の時間がとられ、現場の逼迫につながった反省からこれらの情報入力負担の軽減もターゲットとしています。

④ システム構築人材の有効活用
2年に1回の診療報酬改定の際には病院のシステム改修が全国で一斉に行われることから、システム改修ニーズの時間的な偏在、費用の高騰が課題とされていました。報酬改定時の作業にかかる費用は病院経営に影響し、診療報酬の費用に反映されています。診療報酬改定時の作業の効率化による、医療保険制度におけるコスト低減が狙いです。

⑤ 医療情報の2次利用
治療情報や投薬情報などは現在でも研究などに活用されていますが、そのため環境整備をさらに進めることが目指されています。

医療DXについては以下の工程表が公表されています。工程表には、DX関連政策の実現までのタイムラインが詳細に示され、それぞれの政策について、具体的に何をしていくかが明らかにされています。

この資料で示された中身と、千正組の政策知見を合わせて、今後ありうる予算の中身や政策の具体の中身を解説していきます。

オンライン資格確認関係機器・システムの導入支援の拡大

2022年の骨太の方針で、2023年4月に、原則としてすべての保険医療機関・薬局でオンライン資格確認に対応することを義務付けていましたが、今回の工程表では、「訪問診療・訪問看護等、柔道整復師・あん摩マッサージ師・はり師・きゅう師の施術所等でのオンライン資格確認の構築」にも対象が拡大しています。

これまで顔認証付きカードリーダーの医療機関及び薬局への無償配布やオンライン資格確認の導入のための費用について診療所や病院への補助といった政策がR5年予算やR4補正予算で行われてきています(※)。このことを考えると、今回の対象拡大があった医療関係者へも同様の補助がおこなわれることが想定されます。

R5厚労省予算 p23

また、医療情報を薬局側に共有できるよう、薬局におけるレセプトコンピュータ・薬歴システムにおける標準規格(HL7 FHIR)への対応や、薬局側から医療機関側に提供される、服薬状況等のフィードバック情報に関し、その内容や共有方法、必要性等についても今後検討することとされています。こちらについても、時期は明示されていませんが、システム改修予算が確保される可能性があります。

(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)
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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2023年6月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。