投資運用業における利益相反のおそれを一掃することは、運用能力による競争環境を整備することであり、競争環境の整備は運用能力向上の前提になる。利益相反のおそれを一掃するための最も有効な方法は、利益相反の事実の証明責任の転換である。
企業年金において、母体企業の親密先金融グループに属する投資運用業者が選定されている事態において、その事態により直ちに利益相反の存在が推定され、その推定を覆す証明責任は関係当事者たる企業年金、母体企業、投資運用業者に課せられる、そのような法律上の手当てを行えば、利益相反の不存在証明は極めて困難だから、誰も利益相反を推定される事態に身を置こうとはしなくなる。
投資信託においても、販売会社と投資運用業者が同一金融グループに属する事態において、そのことから直ちに利益相反の存在が推定され、その不存在証明が関係当事者たる販売会社と投資運用業者に課されるように法律上の手当てをすれば、販売会社の商品選択の方法は劇的に変貌せざるを得ない。
しかし、理想は、法律の手当てではなく、企業や金融機関の自主自律によって、利益相反のおそれが根絶されることである。この点、ミニマムスタンダードの徹底を求める法令による強制を極力回避し、金融機関の自主自律によるベストプラクティスの追求に賭けてきた金融庁は、ほとんどロマンティックといっていいほどに理想主義者である。
実は、金融庁の取り組みは、一定の効果をあげている。例えば、野村證券は、投資信託の取扱商品を決定する際には、グループ会社の商品に捉われることなく、幅広い候補のなかから優れたものを選定するとしている。しかし、これだと、兄弟会社の野村アセットマネジメントの投資信託が採用されたとしても、兄弟会社だから採用されたのではなく、投資信託の質によって採用されたのだという説明も可能なのである。
やはり、理想には反しても、利益相反の事実の証明責任の転換について法律上の手当てを行い、厳格な証明方法を定めることが必須だと思われる。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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