昨日の厚生労働省「がん有識者会議」で、「日本のバイオバンクは東北大学以外のものは小さい」という発言があった。2003年に東京大学医科学研究所でバイオバンクジャパンを立ち上げ、27万人弱の患者さん(疾患数の延べで44万症例)の協力を得た創始者としては聞き逃すわけにはいかない。
バイオバンクジャパンの試料を利用した研究成果として、Nature、Nature Genetics、Nature Medicine、Lancet、New England Journal of Medicine誌だけでも100編以上の論文を報告しており、総数は600を超えている。また、昨年、9月のNature Medicine誌の総説「Multimodal biomedical AI」の中で、世界のバイオバンクとして日本で唯一取り上げられている。疾患バイオバンクとしては依然として世界的 にも最大級のものである。
YouTubeで公開されている場で、冒頭のような無責任な発言をされるのは腹が立つというよりも悲しい。発言は科学的ではない。バイオバンクジャパンは国際的な評価に比して、国内の評価は高くない。政治的な意図があるのかどうかわからないが、日本では公平・公正な評価ができないという象徴的な事例である。私がいくら嘆いても、この国は変わらいというあきらめの気持ちが最近は強くなってきたが、自分でできる範囲で頑張る以外に道はない。国益よりも省益、国益よりも個人益だ。
ついでに愚痴を言うと、バイオバンクジャパンを立ち上げる際に、ゲノムコーディネーターという職種をスタートし、多くの方がその教育に携わった。今では、東北大学がこれを始めたという人もいるが、われわれが2003年に始めたものだ。どこからこのような誤解が生まれたのかよくわからないが、科学には先人の功績をちゃんと称えることが不可欠だと思う。
この国では、いろいろなことがおかしくなっている。
私は「謙譲の美徳」を学んで育ってきた世代なので、自分のことを言うのはは恥ずかしい行為だと思うのだが、1しか成果を挙げていない人でも、10倍のホラを吹くとそれを信じる人たちが多くなってきたので(ホラを吹く人も、それを信じる人も多くなってきた)、あえて、下記をお伝えしたい。
最近、Best Medicine Scientists(World’s Best Medicine Scientists: H-Index Medicine Science Ranking 2023 | Research.com)が公開された。日本人でトップ100に入っているのは2名だ。論文がどれだけ引用されたのかが評価軸なので、当然文句が出てくるだろうが、大学ランキングと同じで、評価軸にいちゃもんをつけても詮無いことだ。
また、Best Genetics Scientistsで見ていただくと、私は日本で1位、世界で11位となっている。これがファクトなのだ。私は人徳がないので、日本国内では言ってくれそうな人もなく、自分で言うしかない。それも悲しく、米国に住んでいたころが懐かしい。
日本人で、国際的なゲノム研究の歴史の証人は、私しかいない。若い人たちに、ゲノム研究の歴史を伝えたい。日本と欧米のリーダーたちの科学リテラシーの差が、ゲノム医療での彼我の差を生んだのかを考えて欲しいものだ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年6月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。