米7月雇用統計は、こちらで紹介しましたように、非農業部門就業者数が2カ月連続で20万人を割り込みつつ、失業率が5カ月連続で横ばいで失業率は3カ月ぶりに低下し、ゆるやかな労働市場の減速を確認しました。その一方で、労働参加率が横ばいを続けることもあって平均時給の鈍化にブレーキが掛かるなど、あらためて労働市場のひっ迫を感じさせます。
NFPに視点を戻し業種別の動向をみると、3月までNFPに占める割合が20%超えだった娯楽・宿泊が4~6月に続き1桁で7.2%だった。しかし、食品サービスは前月の横ばいから1.3万人増に転じるなか、NFPの増加の9.1%を担っていました。
チャート:娯楽・宿泊の割合は低下も、食品・サービスは再び上昇
そのほか、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は黒人を筆頭に、非白人の失業率が上昇するなど、明暗が分かれる内容となりました。詳細は、以下の通りです。
〇業種別の平均時給
平均時給は6月に続き前月比0.4%上昇の33.74ド ル(約4,790円)と、市場予想の0.3%を上回った。17カ月連続で上昇している。前年同月比も6月に続き4.4%上昇、市場予想の4.3%を超えた。
業種別を前月比でみると、平均時給の伸び0.4%以上だったのは13業種中で9業種で。前月の速報値ベースでの3業種を上回った。今回の1位は金融(1.8%上昇)で、2位は情報(1.5%上昇)、3位は鉱業・伐採(1.6%上昇)、以下は卸売(1.0%上昇)、小売と建設(0.9%上昇)、公益と製造業、専門サービス(0.5%上昇)が並んだ。一方で、1業種は前月比マイナスとなり、前月の4業種を下回った。今回はその他サービス(0.1%下落)のみマイナスで、6月まで2カ月連続で下落していた鉱業・伐採を始め、情報、小売、公益は回復した。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート:内の数字は平均時給額
チャート:平均時給は、労働参加率が5ヵ月連続で横ばいに合わせ、伸びも2カ月連続で4.4%
〇労働参加率
労働参加率は62.6%と5ヵ月連続で横ばいで、2020年3月の水準に並んだ。働き盛りの男性(25~54歳)をみると、25~34歳の白人を始めそろって上昇した。特に25~54歳の全人種の男性は2012年10月以来の90%台に乗せた。また25~54歳の全人種も2020年1月以来、25~34歳の白人も2020年2月以来の高水準とそれぞれ一致した。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 89.4%と2020年1月の水準と一致、前月は89.2%
・25~54歳(白人) 90.1%4月と5月に続き2020年3月(90.3%)以来の高水準、前月は90.1%、20年2月は90.6%
・25~34歳 90.0%と2012年10月以来の高水準、前月は89.2%
・25~34歳(白人) 90.7%と2020年2月の水準に並ぶ、前月は90.4%
チャート:働き盛りの男性はそろって上昇、25~54歳は2020年1月以来、25~34歳は2012年10月以来の高水準
働き盛りの女性は、25~54歳で過去最高の更新を3カ月でストップさせた一方で、25~34歳は2022年8月以来の高水準だった。
・25~54歳 77.5%と3カ月ぶりの水準へ低下、前月は77.8%と統計開始以来で最高
・25~34歳 78.3%と2022年8月以来の高水準、22年8月は78.6%と20年1月に並び過去最高、前月は77.9%と5カ月ぶりの低水準、
65歳以上の高齢者の労働参加率は、男性が横ばいだった一方で、女性が大幅に上昇し2020年2月以来の高水準だった。
・男性 23.0%と前月と変わらず、5月は22.9%と2021年3月以来の低水準、22年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 16.2%と2020年2月以来の高水準、前月は15.5%
チャート:65歳以上の高齢者の労働参加率、女性が2020年2月以来の水準へ急伸
労働参加率を16~24歳、20~24歳、55歳以上で分けてみると、16~19歳と20~24歳が前月に続き低下した一方で、55歳以上は2021年3月以来の高水準だった。働き盛り世代では25~34歳で上昇が目立ったが、24歳以下は逆に足元で労働参加率は低下傾向にある。
・16~19歳 35.7%と2021年6月以来の低水準、前月は36.3%
・20~24歳 70.6%と2022年11月以来の低水準、前月は71.0%
・55歳以上 38.6%と4ヵ月ぶりの水準へ上昇、前月は38.3%と21年3月以来の低水準
チャート:20~24歳、前月の0.6pt改善の71.5%
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率が5ヵ月連続で横ばいのなか、前月比2.6%減の524.7万人と2カ月連続で増加した。男性が同6.3%減の251.4万人と2カ月連続で減少した半面、逆に女性は同1.0%増の273.3万人と2カ月連続で増加した。男女差は2カ月連続で女性が男性を上回った。
チャート:職を望む非労働力人口、20年1月以来の500万人割れとコロナ前の水準を回復
〇男女別の労働参加率と失業率
男女別の労働参加率は、6月まで横ばいを経て今回は明暗が分かれた。男性は68.0%と過去3カ月間の68.1%を下回り、20年3月(68.5%)以来の高水準だった3月の68.4%からまた一歩遠ざかった。女性は前月まで3カ月連続で57.3%だったが、今回は57.4%と20年2月(57.9%)以来の水準へ切り上げた。
チャート:男女別、労働参加率、3月は男性が改善を主導
男女の失業率は、まちまち。男性は労働参加率の低下に合わせ、3.6%と2022年11月以来の高水準だった5~6月の3.7%から低下した。逆に女性は労働参加率が上昇した陰で3.4%と前月と変わらず。なお、4月は3.3%と1952年9月以来の低水準を記録していた。
チャート:男性の失業率は22年11月以来の高水準を維持、女性は低下
〇人種・男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、引き続き黒人とヒスパニック系の男性、黒人とヒスパニック系の女性がプラスだったほか、3カ月連続で白人男性がプラス圏を確保した。マイナスは白人女性のみとなる。しかし、今回はヒスパニック系の男性就業者の伸び2020年2月比で最大だった前月の8.7%→8.6%へ低下、ヒスパニック系女性就業者数は同8.0%増と、前月と変わらず、増加ペースにブレーキが掛かった。6月まで3カ月連続で鈍化した黒人の男性就業者数は前月の8.9%増→9.7%増と再び伸びを広げつつ、ピークをつけた3月の13.2%増を4カ月連続で下回った。黒人女性の就業者数も前月の0.3%増→0.7%増と2022年12月以来のマイナス圏を回避。一方で、白人男性は前月の0.5%増→0.7%増と伸びを拡大、唯一マイナスの白人女性は前月の2.5%減→2.4%減と下げ幅を小幅に縮小した。
チャート:男女・人種別の就業者数の20年2月との比較、ヒスパニック系は増加トレンドにブレーキ
人種別の週当たり賃金は以下の通りで、ヒスパニック系が762.8ドルと最低、次いで黒人が791.02ドル、白人は1,046.52ドルとなる。アジア系が最も高く1,169ドル。
チャート:実質ベースのフルタイム従業員の週当たり賃金、ヒスパニック系が最も低い
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。なお、正確にヒスパニック系は中米・中南米系出身者を指し、人種にカテゴリーにあてはまらないが、便宜上、人種別とする。
人種別の労働参加率は、白人を除き全て上昇(データは季節調整済み)。黒人は62.7%と年初来で最低だった前月の62.6%を小幅に上回ったが、2008年8月以来の高水準だった3月の64.1%を大幅に下回った水準を保つ。ヒスパニック系は67.4%と2020年2月以来の水準へ上昇。アジア系も65.7%と2010年4月以来の高水準だった。一方で、白人の労働参加率は4カ月連続で2020年3月以来の水準に並んだ水準を維持した。
・白人 62.3%と4カ月連続で20年3月(62.6%)以来の水準を維持、2020年2月は63.2%
・黒人 62.7%、前月は62.6%と年初来で最低、3月は64.1%と2008年8月以来の高水準
・ヒスパニック系 67.3%と22年2月以来の高水準、前月の66.9%、2020年2月は67.9%
・アジア系 65.7%と2010年4月以来の高水準、前月は65.4%、2020年2月は64.5%
・全米 62.6%で5カ月連続で横ばいで20年3月の水準に並ぶ、2020年2月は63.3%
チャート:人種別の労働参加率、黒人のみ低下
人種・男性別では白人とヒスパニック系が上昇も、黒人のみ低下。黒人は10カ月ぶりの水準に低下した。
・白人 70.2%、前月は70.3%と22年10月以来の高水準、2020年3月は71.0%
・黒人 68.3%、前月は68.0%、3月は70.5%と2009年1月以来の高水準
・ヒスパニック系 79.9%と2020年6月以来の高水準(80.1%)、前月は79.8%、20年2月は80.3%
チャート:人種・男性別では白人が低下も、黒人とヒスパニック系は上昇
人種・女性別では、白人と黒人が上昇した半面、ヒスパニック系のみ低下した。
・白人 57.7%と2020年2月以来の高水準(58.2%)、前月は57.6%
・黒人 63.0%、前月は62.9%と6ヵ月ぶりの低水準、3~4月は63.9%と20年2月(63.9%)の水準に並ぶ
・ヒスパニック系 61.1%、前月は61.3%と4ヵ月ぶりの水準へ上昇、2月は61.5%と20年2月以来(62.2%)の高水準
チャート:人種・女性別は白人と黒人が著しく改善
人種別の失業率は、まちまち。労働参加率が上昇したアジア系はが前月の3.2%→2.3%と2019年6月以来の低水準となったほか、同じく労働参加率が小幅上昇した黒人も前月の6.0%→5.8%へ低下。一方で、労働参加率が上昇したものの、ヒスパニック系は前月の4.3%→4.4%へ上昇、労働参加率が4ヵ月連続で横ばいだった白人は失業率も2カ月連続で変わらずだった。
・白人 3.1%と前月と変わらず、22年12月は3.0%と20年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 5.8%、前月は6.0%と22年8月以来の6%乗せ、4月は4.7%と過去最低を更新
・ヒスパニック系 4.4%と3カ月ぶりの水準へ上昇、前月は4.3%、なお22年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・アジア系 2.3%と2019年6月以来の低水準、前月は3.2%、22年12月は2.4%と19年6月以来の低水準に並ぶ
・全米 3.5%、前月は3.6%、4月は3.4%と1月に続き1969年5月以来の低水準
チャート:人種別の失業率はヒスパニック系を除き全て上昇、特に黒人は過去最低から大幅に上昇
人種・男女別では以下の通り。労働参加率が上昇した白人女性と黒人女性、そしてヒスパニック系男性で失業率が上昇した。ヒスパニック系女性は、労働参加率の低下を一因に前月と変わらずだった。白人男性は労働参加率の低下もあって、前月と横ばい。黒人男性のみ、労働参加率の改善に合わせ、失業率も低下した。
・白人男性 3.0%、前月と変わらず
・白人女性 2.7%、前月は2.6%で過去最低
・黒人男性 5.3%、前月は5.9%と2022年8月以来の高水準
・黒人女性 5.9%と2022年8月以来の高水準、前月は5.7%
・ヒスパニック系男性 3.5%、前月は3.3%と2022年9月以来の低水準
・ヒスパニック系女性 4.3%と前月で変わらず、4月は3.1%と過去最低
チャート:人種、男女別の失業率
白人と黒人の失業率格差は前月まで2カ月連続で大幅に拡大した後、今回は小幅に縮小。白人の失業率が横ばいだった一方で黒人が低下したためで、失業率格差は2022年8月以来で最大だった前月の2.9ポイント→2.7ポイントとなった。ただし、過去最低を更新した4月の1.6%ポイントから大きく上昇した水準を保つ。
チャート:白人と黒人の失業率格差、2022年8月以来で最大
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は、中卒のみ上昇した。高卒は低下、大卒以上は前月と変わらなかった。
・中卒以下 47.7%、前月は46.6%と4ヵ月ぶりの水準を回復、2月は48.3%と2008年3月(48.2%)を超え過去最高を更新
・高卒 56.5%、前月は57.0%と2022年1月以来の水準を回復、2020年3月は57.1%、20年2月は58.3%
・大卒以上 73.4%と前月と変わらず2020年1月以来の高水準を維持、2020年1月は73.7%
・全米 62.6%と5ヵ月連続で横ばいで20年3月(62.7%)以来の高水準、20年2月は63.3%
学歴別の失業率はまちまち。労働参加率が改善した中卒で失業率も低下、高卒は労働参加率に従って低下した。一方で、大卒以上は横ばい、大学院卒は逆に2.5%と2022年7月以来の高水準だった。バイデン政権の肝煎りの学生ローン返済免除が米連邦最高裁判所で無効との判断を下されるなか、高額な学生ローン支払い負担を余儀なくされる大卒以上、特に大学院卒の失業率の悪化は懸念材料だ。
・中卒以下 5.2%と6ヵ月ぶりの低水準、前月は6.0%と2022年8月以来の水準へ上昇、2022年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 3.4%と2019年4月以来の低水準、前月は3.9%
・大卒 2.0%と前月と変わらず、2022年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒以上 2.5%と2022年7月以来の高水準、前月は2.3%、2021年12月は1.3%と2000年4月以来の低水準
・全米 3.6%、前月は3.7%と22年10月以来の水準へ上昇、4月は3.4%と1月に続き1969年5月以来で最低
チャート:失業率は大卒のみ低下、中卒と大学院卒は上昇、高卒は横ばい
チャート:米景気減速が一因なのか、高賃金とされる大学院卒の失業率は労働参加率が高止まりするなかで上昇
--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。
①平均時給の上昇ペースは改善、前月比マイナスの業種もその他サービスのみ。
②働き盛りとされる25~54歳の男性(25~54歳)をみると、全体的に上昇。ただし、年齢別では24歳以下が低下した一方で、25歳以上の上昇が目立っており、経験のある労働者が選好されている事情を反映か。
③男女別では、男性で労働参加率が低下しつつも失業率は低下、女性は労働参加率が上昇しつつ失業率は前月と変わらず、特に男女差が激しいのは労働参加率で、65歳以上をみると、男性の労働参加率が低下した半面、女性は2020年2月以来の水準へ急伸。
④人種別では労働参加率が改善した白人、黒人の間で失業率が上昇していた。ヒスパニック系男性も、労働参加率につれ失業率は上昇。逆に白人男性は、労働参加率が低下しつつ失業率は横ばい。黒人男性のみ、労働参加率につれて失業率も改善。
⑤学歴別では、大卒以上の労働参加率が高止まりするなか、大学院卒の失業率は2022年7月以来の水準へ上昇。逆に中卒のみ。労働参加率が上昇したものの失業率は低下。
米7月雇用統計の家計調査では、パートタイムと複数の職を持つ者が増加した一方で、フルタイムが減少していました。フルタイムの減少は、大学院卒の失業率上昇につながったと考えられます。同時に、パートタイムが増加したにもかかわらず、男性より労働市場の減速局面で脆弱な白人と黒人など女性で失業率が弱含んでいました。黒人男性の失業率が改善した一方でこれまで堅調だったヒスパニック系男性が上昇するなど、労働市場に歪みがみられます。ジュリー・スー労働長官代行は米7月雇用統計後に「ゆるやかで安定的な成長の一例」と評価したものの、労働市場は着実に減速しつつあると言えそうです。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年8月6日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。