きのうはホリエモンや中田敦彦さんなどと一緒に、いま話題の楽天について話した。8月10日に発表された今年上半期の最終損益は1400億円の赤字だったが、その最大の原因は半期で1850億円にのぼる楽天モバイルの赤字である。
楽天の使える「プラチナバンド」はわずか3MHz
これについて楽天モバイルは「今年の秋にもつながりやすいプラチナバンドが使えるようになる」と発表したが、これはミスリーディングだ。総務省が割り当てる予定の帯域は、次の図のようにNTTドコモとITSの間の3MHzだけで、ほとんど使い物にならない。
つながりやすいことは確かだが、多くのユーザーが同時につなぐとデータ転送が極端に遅くなり、動画は切れてしまう。それよりはるかに大きな帯域があいているのは、この図の左端の地上デジタルテレビ放送の占有しているプラチナバンド(470~710MHz)である。
「ホワイトスペース」は今すぐあけられる
次の図(茨城県の例)はきのうの番組でも使ったものだが、この帯域では約200MHzもホワイトスペースがあいている。免許としてはテレビ局に240MHz(テレビ40チャンネル)割り当てられているが、そのうちテレビ局は7~8チャンネルしか使っていない。
アナログの電波は同じ周波数を使うと干渉が起こるので、隣り合う中継局で同じ帯域を使わないようにに割り当てていたが、デジタル(OFDM)では干渉が起こらない。だからSFNという技術を使えば、同じ電波(たとえば教育テレビなら13チャンネル)で全県に放送できる(いま茨城県では東京スカイツリーと同じ周波数で全県に放送している)。
今のままでも周波数を動的に割り当てれば携帯端末に使えるが、テレビ局がいやがるので、電波を区画整理して13~19チャンネルに集めれば、20~52チャンネル(198MHz)は完全にあけられる。同じように関東1都6県なら、区画整理で8チャンネルにまとめられるので、192MHzあけられる。
区画整理の作業は簡単である。中継局の周波数は、親局のスイッチで切り替えられる。視聴者のリモコンの設定は、テレビを買ったときやるチャンネルスキャンをやり直すだけだ。
テレビ局は、今まで通り放送できる。厳密にいうとSFNを使うには中継局の距離を38km以内にする必要があるが、ほとんどの局はSFNを前提に置局されている。局間距離が長い場合は光ファイバーでつなぐ必要があるが、そのコストは2兆円近い電波の価値に比べればわずかなもので、落札した業者に負担させればいい。
総務省のいうプラチナバンドは「毛針」
以上は2017年の規制改革推進会議で発表し、総務省も認めた。彼らはすでにSFNで全国の中継局の89%は県内同一チャンネルになっていることを認め、「では空いた周波数は携帯端末で使えますね」と私が質問したら「技術的には使える」と答えた。
技術的には使えるので、必要なのは免許の再割り当てオークションだけである。この話は菅首相にも届き、総務省にも検討を指示したようだが、彼の辞任で白紙に戻ってしまった。
2021年の電波シンポジウムには三木谷CEOを招いたのだが、断られた。そのとき総務省が「他のキャリアの使っているプラチナバンドを楽天に割譲する」という案を出したからだが、それは他社が絶対のめない「毛針」だった。
今回のプラチナバンド3MHzは、総務省の無理難題にドコモが苦労して編み出した帯域だが、その隣に200MHzあいていることをドコモも総務省も知っている。それがあけられないのは、民放連と新聞協会という日本最強の圧力団体が、その存在を報道すらしないからだ。
電波オークションで逆転できる
三木谷氏もホワイトスペースの存在は知っているはずだが、総務省が毛針をちらつかせるので、オークションに反対している。これは大きな間違いである。
200MHzというのは既存3キャリアの合計を上回る大きな帯域なので、多くのスロットが取れる。たとえば100MHzを4スロットにわけてオークションにかければ、楽天は確実に25MHzの帯域を落札できるだろう。コストは2000億円程度で、KDDIに払っているローミング料金の1年分より安い。
その分コストが上がって料金が高くなるというのも、総務省の嘘である。OECDの中で電波オークションをやったことがないのは日本だけだが、それ以外でオークションをやった国の電話料金は、「美人投票」で割り当てた国より安い。新規参入で競争が起こるからだ。
三木谷氏は単なるEコマース業者ではなく、既得権に挑戦するというミッションをもっているらしいから、これほど彼にふさわしいチャレンジはない。楽天の経営だけでなく日本経済の活性化のためにも、ホワイトスペースの開放を要求してはどうだろうか。