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龍谷大学や長野県立大学、キャンパスも「再エネ100%」安定調達へ産官との連携カギ
という日経の記事を見ました。
龍谷大学や長野県立大学が、大学がキャンパスで使う電力をすべて再生可能エネルギー由来に切り替える「再生エネ電力100%」の取り組みを進めているらしいです。
実は僕が勤務しているオーストラリアのクイーンズランド大学は、すでにキャンパスで使う電力量をすべて再生可能エネルギー由来に切り替えています。
その再エネは主に、ワーウィック(Warwick)というブリスベンから200kmぐらい内陸にある小さな町の近くの64メガワットのメガソーラーシステムからのもので、今年の3月からの本格的な運営で実現しているのです。
このソーラーファームと、農学部がある郊外のキャンパス、ガッタンにあるメガソーラーシステムとセントルシアキャンパスにあるソーラーシステムを合わせて、大学で使用する電力量の100%を自然エネルギーでまかなう大学は、世界で唯一、ここクイーンズランド大学のみということで、オーストラリアだけではなく、世界中のニュースになったようです。
これで、(1)「電力料金が無料」、(2)「学生の教育施設」、という二大目的に加えて、「無料の大学の宣伝」ができたということで、大学ランキングに頼った留学生への広告よりもよっぽど宣伝効果があるように思っていました。
(2)「学生の教育施設」として、そこで得られるデーターは全て公開されていて、誰もがこの「社会実験」のデータを使用して研究、そして教育ができます。
僕の授業の一環として5月20日(土)、そして九州大学の工学部の学生さんたちを引率して8月26日(土)に晴天の中、バスツアーでUQ Warwick Solar Farmまで見学に行ってきました。
その様子は動画にしています。
【海外大学生活-93】大学所有世界最大のソーラーファームを見学してきた!
ところで、(1)「電力料金が無料」は、実はイメージが先行していて、多くの人が勘違いしていることなのです。
「再エネ電力100%」なのだから、「大学で使用する電気代はタダになる!」と思い込んだ学生から、「電気代がタダなら、授業料を安くして欲しい」という至極真っ当な質問というか、要望がきました。
ところが、驚いたことに、グリット(電力網)に売電は日本のようなFIT(固定買取)ではなく、5分毎に取引価格が変動するのです。そして日中の晴れた時間は、電力需要が発電量を下回る(要するに不必要な電力)ので、取引価格が下落するだけではなく、なんとマイナスになるのです。つまり、発電をすると損をするということです。
5月20日の11時はなんとマイナス$42.26/MWh。8月26日の11時50分の時点ではマイナス$23.81/MWhでした。つまりグリッドに戻すのにお金を取られます。
昼に火力発電所が故障して電力需要が逼迫すると$100/MWh以上で売れるらしいのですが、まるで株式市場のような電力料金の乱気流なわけです。
キャンパスで電力を使用する時は、必ず電気料金を支払うわけなので、年間を通じたトータルの再エネの発電量は電力使用量よりも多くなっているのは事実ですが、電力料金はむしろ再エネなしの時よりも多くなっているようです。
これは、「電力は生鮮品で、使用する時と同時に発電しないといけない」ということが原因で起こる事象です。再エネが発電しない時に需要がある分は、バックアップ電源の火力発電が必要です。そのバックアップ電源を維持するためのコストを再エネが負担して、電力系統全体での安定供給をはかるということなのです。
なので、需要のない時に発電する分は、何らかの形でその電力を蓄電することが必須です。それは揚水発電、バッテリーや水素として蓄電することが有望視されていますが、それらの効率や製造コストを劇的に下げる研究が必須だということです。
日本は、再エネ発電を電力網に戻す時にお金を支払う制度ではなく、FIT(固定買取)ですが、電力需要がないときは受け入れ拒否をする制度です。その点はオーストラリアとは大きく異なりますが、その負のコスト(バックアップコスト)は誰かが支払っているということを頭の隅に入れておく必要があると思います。
龍谷大学や長野県立大学の学生さんたちは、「電力の安定供給は電力システム全体で考えなければいけない」ということを学ぶ良い機会だと思います。
詳しくは、アゴラでも紹介していただいた、以下の記事にも載せています。