世の中は減税の大合唱だが、与野党ともに圧倒的に多いのは消費税を減税しろという話だ。その中で、消費税を上げて法人税を下げろと提言しているのが財界である。
法人税率を下げると法人税収が上がる
13日に発表された経団連の「中長期視点での全世代型社会保障の議論を求める」という提言では「すでに国民負担のおよそ4割が税以外の社会保障負担になっていて現役世代が急減するなかで、負担のあり方を検討する必要がある」として、消費税の引き上げは有力な選択肢の一つだとしている。
これは正しい。社会保険料負担を削減するには(給付の削減とともに)世代間で公平に負担する消費税を増税すべきである。問題はこれを「法人税の引き下げのために消費税を上げる財界エゴだ」という人が多いことだ。これは左翼マスコミだけでなく、右翼にも多い。
財界が法人税の引き下げを要求してきたことは事実だが、次の図のように、法人税率が42%だった1990年度の法人税収(バブルの絶頂)は19兆円だったが、2023年度は税率がそのほぼ半分の23.2%になったのに、法人税収は14.6兆円。2010年以降をみると、法人税率が下がった時期に税収は上がったのだ。
これは法人税のパラドックスと呼ばれ、税率が下がると税引後利益が増えて配当が増えるので、国内投資が増えて利益(したがって税収)が増える。
1980年代以降、EU諸国では法人税率を引き下げたが、税収が上がった。その最大の原因は、法人税の高い国から低い国に生産拠点を移す資本逃避が起こったからだ。法人税の大部分は(雇用喪失として)労働者が負担しているのだ。
かつては工場を移動するにはコストがかかったが、今はGAFAMのグローバル本社機能の多くは、法人税率12.5%のアイルランドにある。
これをOECDが問題にし、法人税率の下限を15%にする国際カルテルが結ばれたが、これはおかしい。上の図でもわかるように、法人税率を下げれば税収は増えるからだ。
アジア最高の法人税率が空洞化を生む
問題は、この利益の多くが海外法人で上がっていることだ。前にも紹介したように、日本の法人税率は(地方税を含めて)アジアで最高であり、これが空洞化の大きな原因である。
たとえば先日2023年8月期の連結売上高が始めて3兆円を超えたファーストリテイリングの海外ユニクロ事業の営業利益は約2269億円。国内の2倍である。ユニクロの店舗数も国内807店に対して海外1633店。社員の8割は海外で採用されている。
ファーストリテイリングの連結決算
これは経営者としては当然である。人口が減って高齢化する日本より、税率が低く成長するアジアに投資し、アジアで生産してアジアで売る。ユニクロは輸入企業なので、柳井正社長もいうように「円安はデメリットのほうが多い」。
日銀の黒田総裁のやった円安誘導は、ユニクロのようなグローバル企業の資本逃避を進め、国内の雇用喪失をまねいた。これを巻き戻すことは容易ではないが、政府にできる政策は、法人税をOECDの下限15%まで下げることだ。
法人税は企業の配当前利益に課税する二重課税であり、このような租税回避のゆがみが大きい。本来は法人税は廃止し、キャッシュフローベースの付加価値税(消費税)に統一することが望ましい。
これによってグローバル企業が帰ってくれば、税収は増えることが期待できる。東京に法人税ゼロの特区をつくれば、アジアの金融センターにすることもできる。