今回アゴラの編集部に、読者から「筆者が過去に発表した複数の記事に誤りがある。記事の内容は人命に関わる判断に影響を与える可能性があることから、内容の確認をするべきだ」とのメールが送られてきた。
編集部から、読者の指摘に対する回答を求められたので、誤りとされた記事に関する筆者の見解を述べる。
2023年3月11日掲載「超過死亡に関する海外からの最新情報」の内容に関する指摘
筆者は、ヨーロッパ諸国における2022年12月の超過死亡率とコロナワクチンの追加接種回数との相関を検討したところ、相関係数が0.57と両者の間に正の相関があることを報告した。ところが、I氏から、本記事中の図5と同様の解析を行ったところ、超過死亡率とコロナワクチンの追加接種回数との相関係数は0.37で両者間には相関が見られないとの指摘があった。
そこで、2023年10月の時点で、Eurostatのサイトに公表されているヨーロッパ各国の超過死亡率を確認したところ、2022年12月の超過死亡率として31カ国のデータが挙げられていた。一方、Our World in Dataで、追加接種回数を求めたところ、該当期間におけるノルウェー、スウェーデン、アイスランドの追加接種回数は記載されていなかった。この3カ国を除外した28カ国における、超過死亡率と追加接種回数との相関係数を算出したところ0.36であった(図1-1)。
先にアゴラに掲載された筆者の記事中の検討では、人口が50万人以下の国は、超過死亡率の変動が激しいので解析対象から除外した。研究ノートで確認したが、マルタ(人口;50万人)とリヒテンシュタイン(人口;4万人)が除外されていた。実際、リヒテンシュタインの超過死亡率は、2022年10月は-27.9%、11月は8.1%、12月は-16.0%、2023年1月は12.2%と変動が激しい。
小規模な国を解析対象から外すことは、このような解析ではよくやられることである。リヒテンシュタインとマルタを除外して相関係数を求めたところ0.51であった(図1-2)。
筆者が、検討したEurostatの12月のデータには、記事中の図1にあるように、イタリアの超過死亡率が含まれておらず、筆者の研究ノートにはスイスのデータも含まれていなかった。そこで、リヒテンシュタイン、マルタ、イタリア、スイスの4カ国を除外して検討したところ、相関係数は0.54であった(図1-3)。
また、今回用いた超過死亡率と研究ノートに記載されている超過死亡率とは微妙に異なっていた。例えば、ブルガリアの超過死亡率は-4.9%、-6.0%、ドイツの超過死亡率は、39.0%、37.3%であった。そこで、研究ノートに記載されていた超過死亡率を用いて、相関係数を求めたところ0.60となった(図1-4)。
なお、相関係数の評価であるが、0.2〜0.4は弱い相関があると解釈され、0.37だから相関がないというわけでもない。
次に解析対象を変えて、同時期のアジア、北米、中南米諸国を含む39ヵ国の超過死亡数と追加接種回数との相関を求めた。
対象は、Our World in Dataに超過死亡数と追加接種回数のデータが含まれていた国のうち、人口が500万人以上の国とした。用いたワクチンがmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンでないことから、中国は含めなかった。相関係数は0.54と、筆者がEurostatのデータを用いて検討した値とほぼ同等であった(図2)。
2023年2月1日掲載「ワクチンを接種するほど死亡率が下がるという神奈川県の発表は本当か」の内容に関する指摘
この記事は、神奈川県がコロナワクチンの5回接種者は未接種者と比較して死亡率が1/7に低下するという発表に対して筆者が疑問を投げかけた記事である。
神奈川県のデータは、単に死亡数を対象群の人数で割ったものであるが、このような検討には、観察期間を含めた人年法を用いるのが常道である。そこで、人年法を用いて検討したところ、5回接種者の方がかえって未接種者よりも死亡率が高いという逆の結果が得られた。
人年法による検討には対象群の観察期間が必要である。5回接種群の観察期間については、神奈川県が発表した図には「5回接種済で死亡情報ありの群においては、60%の観察期間が2週間以内であった」と記載されていたことから、観察期間の中央値を2週間と推定した。
I氏は、これを3週間にすべきであると主張しているが、その根拠は不明である。2週間とした場合の5回接種群の死亡率は0.104%、3週間とした場合でも0.069%で、未接種群における死亡率0.057%を上回っている。神奈川県が主張する5回接種すると、未接種群と比較して死亡率が1/7に減少するという主張とは大きな乖離がある。
筆者がこの記事で言おうとしたことは、ワクチン接種群間の死亡率の比較には観察期間を考慮した人年法を使うべきだということである。イギリス統計局のワクチン接種群間の死亡率の比較にも人年法が用いられている。
観察期間が2週間か3週間かという矮小な問題にこだわるのは、問題のすり替えである。
2023年3月14日掲載「昨年後半から続くわが国の超過死亡について」の内容に関する指摘
国立感染症研究所の発表に基づいて、日本の超過死亡は、2020年には見られなかったものの、2021年から出現し、2022年には激増したことが一般に受け入れられている(図3)。
筆者はアゴラの記事中で、下記の図4の結果から2020年には超過死亡は見られなかったものの、2021年から超過死亡が観察されるようになったと記載した(図4)。
超過死亡はEurostatの方法に準じて、2017年から2019年の死亡数の平均との差でもって計算した。
I氏は2020年にも超過死亡が認められたと変更すべきであると主張するが、アゴラに記載された上記の図には、2020年に日本では過小死亡が観察されたことが示されている。この図からは、2020年に超過死亡が見られたとすることはできない。重要なことは、2021年から日本の超過死亡が大きく増加に向かったことである。
2023年4月19日「超過死亡の原因をめぐる英国での論争」の内容に関する指摘
I氏は、上記の記事を誤情報に基づいていると主張している。I氏の主張が理解しやすいように、記事の内容を簡単に説明する。
BBCが英国で見られた過去最大の超過死亡にワクチンの関与はないと報道したが、その後、BBCの報道の根拠となった英国政府統計局が発表したデータの捏造が研究者によって指摘され、統計局がデータを訂正した結果、ワクチン接種群は未接種群と比較してかえって死亡率が高いことが明らかになった(図5)。
筆者の記事は、日本では知られていないこの経緯を紹介したものである。I氏は、The People’s Voiceというメデイアに掲載された誤情報に基づく筆者の記事の妥当性を検討すべきであると主張しているが、筆者の記事はThe People’s Voiceの記事に基づいたものではない。
アゴラの記事の中で、筆者は、The People’s Voiceの記事中には、BBCが報道を撤回したという記載を確認できていないが、BBCの報道が捏造データに基づく誤情報であることを他の情報源から得られた情報で説明して、The People’s Voiceがこの記事を報道した背景を解説した。重要なことは、ワクチンを接種した群の死亡率が未接種群よりも高いことである。
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以上の検討から、4つの記事の内容を変更する必要はないと判断した。