「偉い政治家が動けばOK」の大誤解
政策提案をしたいという色々な方とお話する機会がありますが、「もうちょっと慎重に行動したほうが良い結果が出るのに」と思うこともあります。極端な例では、偉い政治家が動いてくれれば政策は実現すると思い込んでいるケースもあります。
政策実現のために政治家の後押しがあることは間違いなくプラスです。政治家があなたの政策に共感してくれ、さらにその政策を実現するために一緒に働いてくれる場合などは、力強い援軍になってくれることでしょう。
ただ、政治家にお願いするにしても、それまでに政策づくりの本丸である役所やステークホルダーとのコミュニケーションの中で、どこまでは理解が得られているのか、そしてなにがハードルになっているのかを分析することが大切です。
そうやって、論点を明らかにしてあげないと、具体的に何をすればよいか、お願いされた政治家側もよく分からないからです。政治家側も自身が万能でないことはよく理解していますので、お願いされたことを聞いて、自分に何かできそうかということを考えます。また、お願いしてきた相手のことだけ考えるわけでもありません。国民の中のどういう人たちが喜ぶかということも、政治家にとっては大切な要素です。
また、政治家にお願いに行く場合には、誰にお願いに行くかも重要なポイントとなります。政治家と接触する前には下調べが必要です。政治家について理解すべきはその政治家が野党議員か与党議員かといった属性だけではありません。議員のスタンス、関心事、影響力がある分野、他の議員やあなた自身との関係性もその政治家を巻き込むべきかの重要な判断材料です。
人の口には戸が立てられません。ひとたび行動してしまえば、あなたが誰にどんな提案をしたかなんて話は、あっという間に広まります。政策立案者などとのコミュニケーションはできる限り、多くの人から理解されるようなメッセージをつくり、適切な相手を見つけて、成功確率を上げてから行うべきものなのです。
「とりあえず手当たり次第に政治家にアプローチして、関心を持ってくれそうな方を探しています!」なんてお話を聞くと「行動する前に、事前に相談してくれればよかったのに…」と歯がゆい思いになることもあります。
政策提案を行う前に必要なのは「計画」です。行き当たりばったりではなく、しっかりと練られた戦略をもっておけば、政策実現の確率を上げることができます。
もちろん、良い計画をたてたからといって、すべてその通りには行きません。急に世論が盛り上がった結果、急にアクションをおこさなければいけないこともありえますし、うまく進んでいたのに、突発的な事故や事件で政府が最優先で対応しなければいけない事項が発生し、自分たちの政策が後回しになることもありえます。様々なステークホルダーとコミュニケーションを取る中で、当初想定していなかった応援者が出てくることもあります。
新型コロナ禍、ウクライナとロシア、イスラエルとハマスの争いなど日々世界では何かが起こっています。計画を立てた後も、常に柔軟な対応が求められますが、少なくとも事前に最低限抑えておくべき事項を把握し、質の高い政策提案計画を考えておくことが重要です。
今回は、政策提案を実現したい、と考える皆さんが計画を立てるにあたって、必ず考慮すべき事項について、お示ししていきます。
今の政策を正確に把握する
計画づくり、最初の一歩は「現状把握」です。政府や自治体が取り組んでいる政策の全容がわからないのに、その政策を改善することはできません。関心のある政策の構造を理解して初めて、打つべき政策が見えてきます。
あなたが、「たばこ施策」に関して提言をしたいと考えていたとします。いま、たばこに関する政策にはどんなものがあるでしょうか?。
まず、法律です。たばこに関しては、税金や喫煙場所に関する規制、広告などについて法律でいろいろな決まりが定められています。
税金については、「たばこ税法」という法律があり、税金がかかるタバコの種類等が定められています。
そして、公共施設や飲食店での喫煙に関しては、「健康増進法」による規制があります。
さらには、箱の注意書きや広告について、「たばこ事業法」という法律に基づく指針が定められています。
「助成金制度」も政策のひとつです。
例えば喫煙専用室を設置する際には、厚生労働省が「受動喫煙防止対策助成金」を出しています。
さらには「教育」。文部科学省では、喫煙の健康影響について小学校から教育を行うよう教材の作成・配布などを行っています。
このように少し調べただけで、税、規制、助成金、教育などタバコに関わるさまざまな「政策」がすでにあることが分かります。担当する省庁も、厚生労働省や財務省、文部科学省などの複数にまたがっていることもわかりました。
あなたが提案したい政策は、どんな領域に関するものなのか、どの省庁が担当するものかによって、おのずととるべきアクションも変わってきます。提案しようとした政策が、すでに行われていた、なんてことも少なくありません。「政策を提言しよう」と思ったときに大事なのは、まず、現状について網羅的に把握することです。
(この続きはこちらのnoteから)
(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)
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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2023年10月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。