イギリスはコロナが落ち着き始めた2022年の夏から2023年秋まで、大規模な鉄道ストライキだらけで、動いている電車は20%程度。そのため、出勤を諦める人だらけです。
以下は私の著書である「世界のニュースを日本人は何も知らない4」の抜粋ですが、鉄道だけではなく、国立病院の看護師や公立学校の教員ですらも、ストをやると言っていたほどです。
イギリスはこういう日本の昭和40年代に盛んだったようなストライキが未だによくあって、公共交通機関やサービスセクターだけではなく、なんとIT業界でもこういったストをやることがあります。
イギリスは昔から労使対立がすごいので、待遇が悪い職場だと「出勤しない」「わざと間違える」「手抜き」「教えない」「報告しない」「休みまくる」などが当たり前です。
これはIT業界でも同じで、現場の人間を怒らせると仕事が本当に止まります。管理職やプロジェクトマネージャが無能だと、強面のベテランや血気盛んな若い人が面と向かって文句を言ってくるので、管理側には相当な能力が必要です。
管理職はご機嫌を取りながら利益率も維持しなくちゃならないので、その厳しさは日本の職場の数倍以上です。
そんなに労働者が経営者に対して反抗意識が強いのであれば、さぞや生産性が低いのではないかという印象をお持ちの方がいるかもしれませんが、 IT業界に関しては、イギリスは実はアメリカに次いで世界2位の投資先であり、ヨーロッパで最もIT投資が盛んな国であり、ユニコーンの数もヨーロッパ一になっています。
そしてイギリスに投資している国というのは、実はアメリカです。大企業だけではなくベンチャーキャピタルやエンジェルによる投資も実に盛んであります。
利益を生み出すことができるので投資されるわけです。日本のIT業界が海外からほぼスルーされているのとは大違いです。
イギリスのIT業界にこのような活気がある理由は、実は先般述べたような緊張感だらけの労使関係があるからではないかと考えています。
手を動かす人々や構想を練る人々は、経営側に対して常に一言あります。
満足する待遇でなければストライキや交渉で反抗し、経営の方向性が間違っているのではないかと思うと堂々と文句を言うことも珍しくありません。気に入らなければ、彼らは別の職場にどんどんと移動していきます。
その一方で、雇った人間が仕事に不適格だと思えば、経営側はどんどんクビにします。
ただし業界は狭いですから、理不尽な理由でクビにしたりすれば業界に噂が広まって経営側の立場が悪くなりますから、そんなにめちゃくちゃなことはできません。
さらに人が移動するので、待遇が悪い会社の噂が一気に広まり人が来なくなります。待遇は業界標準に保っておかなければなりませんし、報酬に関しても全く同じです。
このような緊張感に溢れた労使関係があるので、経営側も働く方も常に結果を出していかなければなりません。
安定性がないからこそ次々に新しいサービスを作り出したり、新しいビジネスを思いつきます。職場でも改革を熱心にやります。ガラッとやり方を変えたり、新サービスを打ち出さないと昇進できないし、実績をあげないと次の職場に移れません。
年齢や肩書だけでは生き延びて行けませんから、働く方も特技を向上させていかなければなりません。
ただしイギリスの場合は、アメリカほど労使関係がドライというわけではなく、ある程度は安定性を保ちつつ、三方良しを重視、全てが弱肉強食というわけでもありません。
この適度な緊張感と微妙なバランスが、IT業界の活性化に役に立っているのではないかなと思う次第です。
日本の最大の問題というのは、このようなある程度緊張感のある労使関係がなく、働く側のバーゲニングパワーがあまりにも弱いので、賃金が低すぎる上に待遇が悪すぎるので、働く側が生産性を高めようという動機が高まりません。
その一方で、厳しいパフォーマンスを評価されることもないので、各企業のみならず全体に活気がない業界が多いという点です。