音楽の都ウィーンに今年もクリスマスシーズンが訪れた。観光地の1区のケルンテン通りやショッピングストリートのマリアヒルファー通りでは既に華やかなイルミネーションが灯され、欧州最大のクリスマス市場といわれるウィーン庁舎前広場では樹齢115年、高さ28メートルのツリーにも10日、2000個のLEDのイルミネーションが点灯された。
ツリーへの点灯式にはウィーン市長のミヒャエル・ルートヴィヒ氏(SPO)と南チロル州知事のアルノ・コンパッチャー氏(SVP)が立ち会った。今年のツリーは南チロル州から贈られたものだ。
ルートヴィヒ市長は、「今日私たちが美しい南チロルの木に灯す灯りは、私たちの社会の団結の徴となるはずです。テロの恐怖、憎しみが私たちを分断するのではなく、団結に焦点を当てるべきです」と語り、コンパチャー州知事は、「この木はイタリアの南チロル州のウィーンとオーストリアとのつながりの徴です」と述べている(ちなみに、南チロルからのクリスマスツリーについては、「1カ月余りのクリスマス市場のために樹齢115年の木を切るとはなにごとか」といった声がソーシャルネットワークサービス(SNS)からは聞こえてくる)。
ウィーンにはクリスマス市場は14カ所あるが、市庁舎前広場のクリスマス市場は最大で12月26日まで開催される。市場にはクリスマスの飾りやお菓子などの店の屋台が出て、訪れる市民や観光客を誘う。
油で揚げたランゴシュ、そしてクリスマス市場では欠かせないプンシュ(ワインやラム酒に砂糖やシナモンを混ぜて温めた飲み物)のスタンドからはシナモンの香りが漂う。人々は友人や家族とプンシュを飲みながらクリスマス前の雰囲気を楽しむ。市場のスタンドでは1杯のプンシュは7ユーロ50セント(約1200円相当)という。ウクライナ戦争前だったら、昼食のメニューが楽しめる値段だ。
ウクライナではロシア軍の侵略後、激しい戦争が続いている。戦争は2年目に突入し、停戦の見通しはまだない。そして10月7日にはパレスチナのガザ地区を実効支配しているイスラム過激派テロ組織「ハマス」がイスラエルに侵入し、1400人余りを殺害し、200人以上を人質にするというテロ事件が発生。イスラエル軍のガザ地区での報復攻撃が続く中、欧州各地で反ユダヤ主義的犯罪や蛮行が発生している。
それだけではない。イスラエルとパレスチナでの戦闘の影響もあって、人が集まるクリスマス市場を狙ったイスラム過激派テロ事件が懸念されている。
クリスマス市場襲撃テロ事件といえば、2016年12月のベルリンのクリスマス市場襲撃事件を思い出す。ドイツの首都ベルリンで同年12月19日午後8時過ぎ、テロリストが乗る大型トラックが市中央部のクリスマス市場に突入し、12人が死亡、48人が重軽傷を負った。また、フランス北東部ストラスブール中心部のクリスマス市場周辺でも2018年12月11日午後8時ごろ、29歳の男が市場に来ていた買い物客などに向け、発砲する一方、刃物を振り回し、少なくとも3人が死亡、12人が負傷するテロ事件が起きている(「欧州のクリスマス市場はテロ注意を」2018年12月15日参考)。
ちなみに、フランスのニースのトラック突入テロ事件後は、イスラム過激派には「トラックをテロの武器に利用し、可能な限り多くの人間を殺害せよ」という檄が発せられたという情報が流れたこともあって、それ以後、公共建物やクリスマス市場に大型トラックの侵入を防止する「アンチ・テロ壁」の設置が進められてきた。
例えば、ウィーン市庁舎前広場のクリスマス市場では路上から市場に大型トラックが侵入できないようにコンクリート製のポラードが設置されている(「大型トラックが無差別テロの武器」2016年12月21日参考)。
ウィーンから数百キロしか離れていないウクライナで戦争勃発後2回目の冬が訪れている。ウクライナの冬は厳しい。ロシア軍の攻撃で多くのエネルギー・インフラが破壊されたため、ウクライナ各地で大規模な停電が発生し、暖房もない部屋で休まなければならない国民が多い。
一方、イエス・キリストの生誕地の中東ではイスラエル軍とパレスチナのイスラム過激テロ組織「ハマス」との戦闘が続いている。女性、子供たちが犠牲となっている。ユダヤ教もイスラム教もアブラハムから派生した兄弟だ。そのイスラエル人とパレスチナ人の間で新たな憎悪が拡散されている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。