マレーシア半導体産業の謎をニューコロンボ計画の豪州学生が解く!?

アメリカでベストセラーになった半導体産業の歴史を詳細に描いた本、 クリス・ミラー(著)『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防

日本の半導体産業の行く末を案じる本、 湯之上隆 (著)『半導体有事

日本の半導体技術に夢を託す本、 黒田忠広 (著)『半導体超進化論 世界を制する技術の未来

上記の三冊の本の書評を一気に一つの動画記事にまとめ、アゴラでも取り上げていただいています。

半導体を巡る新刊本三本一挙読み比べ!
僕はこの10年間、修士学生の授業、Advanced Manufacturingの一部で、Electronic Packagingを担当しています。そこでは、今世の中で話題のナノメータレベルの半導体の製造ではなく、それら半導体をはんだ付けなど...

そんなホットな話題の半導体産業ですが、それらの本には、アメリカ、中国、韓国、台湾、そして日本の半導体産業のことしか触れられていません。そして日々のニュースでも台湾を中心とした半導体産業のことしか取り上げられていないということに気がつきました。

そこに欠けているもの・・・それは、「The Silicon Valley of the East」と呼ばれるマレーシアの半導体産業の成長なのです。もしかしたら、マレーシアは半導体産業におけるダークホース的な位置を占めているのかもしれません。 Malaysia Semiconductor Industry Association (MSIA)のHPを見ると、ペナン周辺に驚くほど多くの半導体・電子実装関係の企業が集まっています。

MSIA - Malaysia Semiconductor Industry Association
MSIA - Malaysia Semiconductor Industry Association

SEMIという半導体産業が3,000社加盟してる団体によると、マレーシアのペナンは2019年に世界の半導体輸出の5%を占めたそうです。そして、その成長はますます加速されていて、2020年には半導体輸出はマレーシアの輸出全体の32%にも及ぶということです。

Just a moment...

その急激な成長をこの目で確認するため、現在僕はマレーシアに滞在しています。というのは大袈裟ですが、実は豪州政府のニューコロンボ計画で、豪州の工学部の学生8名を引率して、僕の研究所とMoUを締結しているマレーシア・ペルリス大学に滞在しています。二週間のマレーシア滞在中、ペルリス大学で半導体工学の講義やクリーンルームでのシリコンウェファーからICチップ製造までの工程の実習をします。そしてペナンやイポーにある半導体・電子実装関係の企業を訪問するといったプロジェクトなのです。

訪問した企業のリストは、

  1. 総合電機メーカーのSIEMENS(シーメンス)
  2. ファブレスのOppstar Technology(オップスターテクノロジー)
  3. ファウンドリのInari Technology(イナリテクノロジー)
  4. コネクターなどの電子部品製造のMolex Malaysia(モーレックスマレーシア)
  5. 我々との共同研究企業で鉛フリーはんだ合金製造のNihon Superior Malaysia(日本スペリアマレーシア)
  6. 19世紀から20世紀の約100年間世界一の錫(はんだの材料)の生産量を誇っていたイポーの錫鉱山跡の産業遺産と錫博物館

など、半導体・電子実装関係の企業や鉱山を網羅しています。

今回は訪問しませんでしたが、ペナンにはIntel(インテル)やwestern digital(ウエスタンデジタル)、Bosch(ボッシュ)など大企業の多くの工場があります。

それら工場群を支える電力供給は、マレーシアには原子力発電がないため、電源構成は化石燃料に大きく依存していて、NEDOの「ASEAN地域のエネルギー関連政策と 日系企業のビジネスチャンス」によれば、2021年時点で石炭火力が42%、天然ガス火力が39%と電源構成全体の約8割を占めるそうです。そして、水力は偏在していて、ペナン島は元々水力発電が盛んだそうです。

最先端の2nmの半導体のみならず、汎用の枯れた技術での半導体製造も、現代の人々の生活に欠かせません。つまり、半導体の製造が未来の人類の繁栄に大きく影響を及ぼすと思います。

ペリルス大学での半導体・電子実装技術者の育成、そしてペナンを中心としたマレーシアの半導体産業の急速な発展は、決して見逃して置くことができないものだと確信しているところです。

動画のノギタ教授は、豪州クイーンズランド大学・機械鉱山工学部内の日本スペリア電子材料製造研究センター(NS CMEM)で教授・センター長を務めています。