リスクテイクとリスク管理の本質的な差

事業経営において、リスクは二つの階層をもつ。第一は、事業の目的として明確な意図をもって積極的にとる本源的リスクであり、第二は、そのリスクをとったことによって、意図しないにもかかわらず受動的にとらざるを得なくなる様々な付随的リスクである。

123RF

例えば、あるものを製造販売すれば、製品に対する需要変動という本源的リスクをとるだけではなく、製造工場の火災等の付随リスクもとらざるを得ない。また、金融は、事業活動に資金供給することであり、融資、社債や株式の引き受けなどの資金供給形態の差に応じた異なる程度において、その事業のもつ本源的リスクへ参画するわけだが、同時に金融に固有に付随する諸リスクをとることでもある。例えば、投融資先の事業のリスクに加えて、融資には金利リスクが伴い、株式には大きな価格変動リスクが伴うのである。

リスクの二階層に応じて、本源的リスクをとることは、能動的な意味をこめてリスクテイクと呼ばれるべきだが、付随的リスクについては、能動的にとられるものではないので、テイクという用語は不適当であり、マネッジ、もしくはコントロールという用語が使われていて、それを日本語ではリスク管理と呼んでいる。

リスク管理の対象となるリスクは、意図しないリスクだから、当然に最小化されるべきもので、望ましくはゼロにされるべきものである。しかし、リスクを最小化する努力は必ずコストを発生させ、また、いかに努力を徹底したとしても、リスクは完全にはゼロにならないから、残余リスクは自己資本の充実によって吸収させるほかなく、そこに資本コストを発生させる。

そこで、リスク管理という機能は、リスク削減とコスト削減との相反しがちな関係について最適な状態を維持し、また残余リスクに対して適切な資本配賦を行うものとして、経営上の重要な役割を演じているのである。

しかし、ある事業のリスクテイクをすることは、その事業を営むことと同義だから、そこにリスク管理が働くはずもない。本源的リスクについては、テイクするか、テイクしないかの両極の決断しかなく、リスクテイクしない決断をするときは、そもそも起業しないか、廃業するか、事業構造を変えるかしかないのである。

いうまでもなく、リスクテイクには、そのリスクを吸収できるだけの資本の厚みが不可欠であって、逆にいえば、資本とは本源的リスクと残余の付随リスクを吸収するものとして必要額が算定されるものであり、その必要額に対して要求される期待資本利潤を達成できなくなったとき、リスクテイクは放棄されるほかないということである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本 紀行