コロナワクチンに重症化予防効果はあるのか?

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新型コロナワクチンには感染予防効果は見られないが、重症化予防効果があることから接種する意義があると言われるようになって久しい。しかし、わが国における重症化予防効果を問われても、数字がでてこない。

京都大学の福島名誉教授が、国に対して、コロナワクチンの重症化および死亡予防効果の開示請求を行なったが、加藤厚労大臣は、データが存在しないことを理由に請求を却下した(資料1)。

資料1 コロナワクチンによる重症化予防効果の開示請求

最近、国立感染症研究所(感染研)の脇田隆字所長は、日本から発表された7つの論文を引用して、ワクチンの重症化予防効果が確認されたと発言している。しかし、7つの論文のなかで、実際に、重症化予防効果が記載されているのは、感染研からの論文のみである(引用1)。

【引用1】新型コロナワクチンの重症化予防効果を検討した症例対照研究の暫定報告: デルタ流行期〜オミクロン流行初期における有効性

重症化予防効果を示すとされる7つの論文には、ワクチンを接種しなければ、感染者数が6,330万人、死亡者数が36万人に達したとする西浦論文も含まれている。長崎大学からの論文(VERSUS第9報)は、発症および入院予防効果に関する研究で、重症化予防効果については記載されていない。

しかし、脇田所長は引用していないが、VERSUS第8報には、オミクロン株の流行期における重症化予防効果が記載されているので(引用2)、この2つの研究の結果を以下に紹介する。

【引用2】新型コロナワクチンの有効性に関する研究 〜国内多施設共同症例対照研究〜

引用1と引用2は、ともに診断陰性例コントロール試験という研究方法が用いられた。引用1の研究は、2021年8月1日〜2022年6月30日までの期間に、呼吸不全で全国の21医療機関に入院した2,244人を対象に行われた。

2021年8月1日から11月30日まではデルタ株流行期、2022年1月1日から6月30日まではBA.1・BA.2流行期であった。引用2は、2022年7月1日〜9月30日までの期間に11医療機関に入院した急性呼吸器感染症を疑う症状を持つ727人が対象である。この期間の流行株はBA.5であった。

呼吸器症状を訴えて入院した患者に、ウイルス検査を行なって検査陽性(症例)と陰性(対照)に分類し、ワクチンの接種歴に応じてオッズを計算する。有効率は、(1―ワクチン接種者と未接種者のオッズ比)⨉ 100で推定する。診断陰性例コントロール試験は、対象症例が少なくて済み費用もかからないのが利点であるが、陽性率が低ければ,オッズ比は、コホート研究で用いる相対危険度に近似するが、陽性率が高ければ相対危険度とは乖離する(引用3)。

【引用3】ワクチン有効率を示す「診断陰性例コントロール試験」とは?

ワクチン有効率を示す「診断陰性例コントロール試験」とは?
コロナワクチンの予防効果(有効率)は、コホート研究により算出されています。これは、接種群と未接種群を追跡調査して感染の有無を調べる研究方法です。信頼性の高い研究方法ですが、大きな短所があります。研究にかかる労力や費用が莫大なのです。...

表1には、デルタ株、BA.1・BA.2株流行期、BA.5株流行期におけるワクチン2回接種後の重症化予防効果を示す。デルタ株流行期には96%あった予防効果が、BA.1・B A.2株流行期には、42%、BA.5株流行期には16%と急速に減少した。しかし、3回目、4回目と追加接種を加えることで、予防効果は57%、78%と回復した。

表1 診断陰性例コントロール試験によるコロナワクチンの重症化予防効果
出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/12019-covid19-9999-2.html
http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/versus/results/20230202.html

2つの研究はともに陽性率が高いことから、他の疫学研究法で得られた結果との比較が必要と考えられた。

感染研は、2021年2月のワクチン接種開始時から、2022年4月までは、各週における重症および死亡者のワクチン接種歴を公表していた。また、デジタル庁は、日々のワクチン接種率を公開していることから、ワクチン(未)接種者の人数を推定することができる。未接種群とワクチン接種群の人数と重症患者数が得られれば、リスク比がわかり、重症化予防効果を算出することが可能である(横断研究)。

感染研の発表によると、デルタ株による感染者数が最も多かった2021年8月23日〜29日におけるワクチン2回接種、未接種、接種歴不明群における重症患者の人数は、12人、97人、30人、死亡者の人数は60人、256人、64人であった。

8月23日の全人口におけるワクチン未接種率は、49.09%、2回接種率は40.59%であったことから、日本の総人口を1億2,540万人として計算すると、未接種人口は6,156万人、2回接種人口は、5,090万人であった。この結果から、デルタ株の流行期における重症化予防効果は85%、死亡予防効果は72%と算出された。

同様に、BA.1・BA.2株による感染者数が最も多かった2022年2月14日〜20日における重症患者数、死亡者数、ワクチン接種人口から計算すると、2回接種群の重症化予防効果と死亡予防効果は、21%、-16%であったが、3回目の追加接種をすることで50%、22%に上昇した(表2)。

表2 横断研究によるコロナワクチンの重症化および死亡予防効果
筆者作成

横断研究による結果は、診断陰性例コントロール試験の結果と比較して、デルタ株流行期、BA.1・BA.2株流行期ともに、重症化予防効果は10〜20%低く、両者に乖離が見られた。とりわけ、2回接種群の死亡予防効果はマイナスで、未接種群と比較してかえって死亡率が高いという結果が得られた。

表2から気づくことは、デルタ株流行期、BA.1・BA.2流行期ともに、死亡者数が重症患者数と比較してずっと多いことである。

重症患者数と死亡者数は、デルタ株流行期には、139人と380人、BA.1・BA.2流行期には203人と504人であった。どんな疾病でも、死亡するのは重症患者の一部であるので、通常、死亡患者数が重症者数を上回ることは見られない。交通事故死でも、PCR検査が陽性ならコロナ死にカウントされると揶揄されるように、コロナ死の数え方に問題があることを、筆者は指摘論したことがあるが(引用4)、感染研の発表する死亡者数には、他の原因で死亡した患者も含まれている可能性が考えられる。

【引用4】「コロナによる死亡数」の本当のところ

「コロナによる死亡数」の本当のところ
第8波の流行は、コロナによる死亡数の激増をもたらし、わが国の累計死亡数は1月末には6万7千人を超えている。従来のコロナ肺炎による死亡は激減し、多くは高齢者の基礎疾患の悪化によると考えられている。 コロナ感染が基礎疾患を悪化させ...

図1は、ワクチンの接種開始日とコロナ感染による死亡者数の推移を示す。ワクチンを接種することで少なくとも3ヶ月間は予防効果が持続すると言われているが、3回目、4回目、5回目のワクチン接種をする毎に、接種3ヶ月以内に死亡者数のピークが見られ、しかも、そのピークは増大した。

図1 ワクチンの接種開始日とコロナ感染による死亡者数の推移
Worldometerの図を改変

脇田所長は、デルタ株やBA1.・BA2株に対する診断陰性コントロール試験の結果に基づいて、ワクチンの重症化予防効果が確認されたと発言しているが、診断陰性コントロールの結果は、陽性率が高い場合には、コホート研究などの標準的な研究結果とは一致しないという欠点があり、他の研究方法で得られた結果と比較することが必要である。その意味でも、厚労省が所有しているコロナワクチンの効果に関するデータを開示すべきである。

今回の検討で、ワクチンの変異株によって重症化予防効果が異なることが示されたが、感染研の発表するBA.1・BA.2株以降も、わが国では主な変異株だけでも、BA.5、XBB系統、EG.5系統が出現しており、各変異株に対する重症化予防効果も知りたいところである。

わが国のコロナ対策を検証するにあたっては、ワクチンによる重症化予防効果の確認は最も必要とする事項である。何よりも、ワクチンに重症化予防効果があるのなら、図1に見られるワクチンの追加接種をするたびに、コロナによる死亡者数のピークが増大する現実をどのように説明できるのだろうか。