1月11日号のNature誌のコメント欄に「Boosting microbiome science worldwide could save millions of children’s lives」という記事が掲載されている。
われわれの体表や体内には多くの細菌が存在している。環境や食事内容によって腸内細菌叢(細菌の種類や数)が変化して、細菌が作り出す代謝産物が変わってくる。もちろん、われわれの体内環境も変化して、病気に関係するし、全身の免疫環境に影響を与える。
最近、多くの細菌叢の研究が行われているが、世界人口の15%が住んでいるに過ぎないヨーロッパと北米からの論文が、全論文の85%を占めているそうだ。当然ながら、欧米で得られた知見が、アフリカではそのまま通用しないので、国際的な協力が必要だというのが論文の主旨だった。
遺伝子多型解析研究、全ゲノム解析・がんゲノム解析の時も国際的協力が叫ばれたし、遺伝子の違いによる病気のリスクスコア(病気の成りやすさを推定する危険度の点数)も白人のデータを基にしたリスクスコアが、アジア人やアフリカ人では通用しないこともよく知られている。コメントには住んでいるところが違えば、細菌叢が異なるので、「Location matters」と書かれているが、もともと人種間の遺伝子多型差があるし、食事内容が違うのだから、住んでいる地域によって腸内細菌叢が違っていて当たり前だ。
ロタウイルスワクチンの有効性が先進国では90%有効なのに、アフリカや南アジア諸国では50-60%と低いのは、子供たちの腸内細菌叢が違い免疫環境が悪いためと述べているが、かなりこじつけだと思う。腸内細菌叢が違うのは間違いないと思うが、そもそも低栄養だし、低栄養だと下痢によって大きな影響を受ける。
細菌叢研究も重要だし、私は世界的に腸内細菌叢や免疫ゲノム研究が必要だと思っているが、まずは、食糧支援が優先されると考える。それだけで数百万人の子供が救えるのではないのか?米国に住んでいた時、あまりにも多くの食料が廃棄されているのを目の当たりにしたし、日本でももったいないと思うことがある。ビュッフェ形式で、お皿にたくさんの料理を残していく客を見ることも少なくない。みんなが少しずつ寄付をすれば多くの子供の命が救えるはずだ。
研究者の私が、あまりにも我田引水的に国際的細菌叢研究を支援するこのコメント欄に批判するのもおかしな話だが、その前にもっと私たちが考えていくことがあるのではと自省しつつ考え込んでしまった。
PS:能登半島の被害状況把握にどうしてこんなに時間がかかるのか、日本と言う国に悲しさを感じてしまう。しかし、若い人達が「高齢者を残して、自分たちだけが被災地を離れることができない」と言っていた言葉に救いを覚えた。高校生の時、友人たちと能登半島を一周旅行したことがある。千枚田、時国家、見附島、恋路海岸がなつかしい。がんばれ、能登半島!
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。