コロナワクチン接種と超過死亡の因果関係を示す科学的根拠

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2021年以降に観察されている超過死亡の原因について、政府の見解では、ワクチン接種との因果関係はないとされている。最近も、国立感染症研究所(感染研)の脇田隆字所長は、ワクチン接種が原因で超過死亡が発生したと考えられる科学的根拠は、現時点では確認されていないと述べている。

疫学研究において、原因と疾病の発症との因果関係を判定する際は、何をもって、科学的根拠とするのであろうか。喫煙が肺がんの原因であることは広く認められているが、1960年代に、Braford Hillが、以下の9項目の基準を用いて、喫煙と肺がんとの因果関係を証明したことによる。

この9項目には、関連の強固性、関連の時間性、関連の一貫性、生物学的説得性、現時点の知識との整合性、量反応関係、類似性、実験的証拠、関連の特異性が含まれる。以来、この基準は、Braford Hillの因果判定基準として、疫学研究における因果関係の評価に用いられてきた。

2022年2月に開催された第76回厚生科学審議会において、感染研の鈴木基感染症疫学センター長は、ワクチンの接種回数と超過死亡発生の時系列が、Braford Hillの判定基準のうち、関連の時間性を満たさないことを理由に、超過死亡とワクチン接種には因果関係がないと報告している。

政府も、鈴木センター長の報告に基づいて、超過死亡とワクチン接種には因果関係がないと見解を示している。一回目のワクチン接種は、死亡リスクの高い高齢者施設の入居者を優先して接種しており、ワクチン接種回数のピークを迎える前に超過死亡の増加がみられても、なんら不思議ではない。

2016年に、Ioannidis はBraford Hillの判定基準を見直し、因果関係の証明には、実験的証拠、関連の時間性、関連の一貫性の3項目を満たせば十分であることを提唱した。

Exposure-wide epidemiology: revisiting Bradford Hill

最近、Rancourtらは、Our World in Dataに公開されたデータを用いて、Ioannidisの判定基準に基づいて、コロナワクチン接種と超過死亡との因果関係を、科学的に証明することを試みた。

COVID-19 vaccine-associated mortality in the Southern Hemisphere

論文は、総ページ数が180ページにも及び、膨大な数の図表が掲載されている。Rancourtらが注目したのは、コロナのパンデミックが始まった2020年には超過死亡は見られなかったが、ワクチンの追加接種が始まったことを契機に、2022年の1月から2月にかけて、多くの国で超過死亡が観察されたことである。同様の事象は、わが国でも観察され、ワクチン接種と超過死亡の因果関係を示す傍証とされてきた。

Rancourtらの研究で対象となったのは、南半球や東南アジアの17カ国であるが、1月から2月にかけては、南半球は夏に当たり、季節性の超過死亡のピークが見られないことが、これらの国を選んだ理由である。東南アジアの4か国が選ばれたのも、赤道直下の国では、季節性の超過死亡が見られないことによる。

図1には東南アジアの4カ国、図2にはアフリカ・オセアニアの3カ国、図3、図4、図5には中南米の10カ国における超過死亡と1、2回目のワクチン接種回数および追加接種回数との関係を示す。図の黒い線が超過死亡、青が1、2回目の接種回数、オレンジが追加接種回数である。黒い縦線は、WHOがパンデミック宣言を出した時期、2つのオレンジの破線に挟まれた期間を、追加接種後の超過死亡を算定する期間とした。

図1 東南アジア諸国における超過死亡とワクチンの接種回数
Rancourt DG,et al;CORRELATION Research in the Public Interest, Report, 17September 2023.

図2 アフリカ・オセアニア諸国における超過死亡とワクチンの接種回数
Rancourt DG,et al;CORRELATION Research in the Public Interest, Report, 17September 2023.

図3 中南米諸国における超過死亡とワクチンの接種回数(Ⅰ)
Rancourt DG,et al;CORRELATION Research in the Public Interest, Report, 17September 2023.

図4 中南米諸国における超過死亡とワクチンの接種回数(Ⅱ)
Rancourt DG,et al;CORRELATION Research in the Public Interest, Report, 17September 2023.

図5 中南米諸国における超過死亡とワクチンの接種回数(Ⅲ)
Rancourt DG,et al;CORRELATION Research in the Public Interest, Report, 17September 2023.

多くのヨーロッパや北米諸国では、コロナの流行が始まった2020年に最大の超過死亡が観察されたが、今回検討した17カ国のうち9カ国は、コロナの流行が始まっても1年間は超過死亡が見られず、ワクチン接種開始後に初めて超過死亡が観察されている。

また、十分にデータが揃っていない2カ国を除いて、15カ国の全てで、追加接種の直後に、超過死亡のピークが観察された。季節変動が見られない東南アジアや夏にあたる南半球で、超過死亡のピークが同時に観察されたことは、前例がない。15カ国で観察された事象は、Ioannidisの提唱する関連の時間性、関連の一貫性の項目を満たす。

図6には、ワクチンの追加接種回数と超過死亡との関係を示す。図の塗りつぶした丸は2022年1月から2月に観察された追加接種直後の超過死亡を、オープンの四角はワクチンを接種した全期間における超過死亡を示す。青は週毎の、オレンジは月毎の超過死亡である。追加接種回数と超過死亡は、相関係数が+0.94と強い相関を示した。

図6 ワクチンの追加接種回数と超過死亡(Ⅰ)
Rancourt DG,et al;CORRELATION Research in the Public Interest, Report, 17September 2023.

筆者も、以前、Our World in Dataを用いて超過死亡とワクチンの追加接種回数との関係を検討したことがある(図7)。対象とした国は北半球の諸国が主であるが、Rancourtらの検討と同様に両者に正の相関が見られた。北半球と南半球の諸国において、超過死亡と追加接種回数が正の相関を示したことは、関連の一貫性ばかりでなく、量反応関係の項目も満たすことになる。

図7 ワクチンの追加接種回数と超過死亡(Ⅱ)
筆者作成

図7のブルガリアの超過死亡がマイナスであることを、ワクチンの追加接種回数が少ないことによるのでなく、ブルガリアは接種が始まる前に多数のコロナ感染による死亡があったことから、ハイリスクの集団がすでに死亡しており、そのことが超過死亡に影響したのではないかと主張する意見も見られる。

図1〜図5に示したように、ワクチン接種が始まる前に、ブルガリアと同様に多数の死亡者が見られた国においても、追加接種直後に超過死亡のピークが見られており、このような批判は的を射たものではない。

筆者は、重回帰分析を用いて、超過死亡に影響する要因を検討したことがあるが、説明変数には、ワクチンの追加接種回数や検討期間のコロナ死亡数とコロナ感染者数に加えて、コロナの流行が始まってから検討期間直前までのコロナ死者数を加えた。

結果は、4つの説明変数のうち追加接種回数のみが統計学的に有意で、超過死亡と関連することが示された。ハイリスクの集団がワクチンの接種前に死亡して、超過死亡に影響する可能性を考えて変数を加えたが、検討期間以前の死亡数は、超過死亡へ影響を与えなかった。

ビッグデータが示す昨年後半から続く超過死亡の要因

ビッグデータが示す昨年後半から続く超過死亡の要因
図1に示すように、日本で2021年以降に観察された超過死亡は、ワクチン接種の開始時期やコロナの流行に同期しているが、コロナ感染による直接死亡(コロナ死)よりも、コロナ死以外の原因で死亡する割合が多い。 日本でコロナ死が最も多か...

Rancourtらは、ワクチン接種が超過死亡に与える影響を定量的に分析する指標として、ワクチン致死率(vaccine-dose fatality rate)を提唱している。今回の結果に基づいて算出されたコロナワクチン致死率は、0.126 ± 0.004%であった。全世界では、2023年8月末までに135億回のコロナワクチンが接種されていることから、ワクチンによる死者は1,700万人と計算される。日本でも、4億700万回のワクチンが接種されているので、同様に計算をすれば51万人に達する。

感染研の発表するワクチン接種を開始した2022年2月から2023年8月末までの超過死亡は最大20万人で、51万人とは大きな隔たりがある。感染研の発表では、2021年は5万人、2022年は12万人の超過死亡があったが、2023年8月末までは3万人と大きく減少したが、2023年の超過死亡数が減少したのは予測死亡数の嵩上げによると考えられる。

欧州連合統計局(Eurostat)の計算法に準じて、2015年から2019年の平均死亡数をもとに超過死亡を計算すると、2021年2月から2022年8月末までの超過死亡は50万7千人で、51万人に極めて近い値を示した。

Rancourtらは、今回の検討結果は、ワクチン接種と超過死亡の因果関係を示す十分な科学的根拠となりうると主張している。ワクチンの産生するスパイクタンパクの毒性を示す実験結果も多数報告されており、今回の検討結果を加えると、Ioannidisの提唱する3項目は十分満たしていると考えられる。

科学的根拠がないとして超過死亡とワクチン接種との因果関係を否定するわが国の専門家は、Rancourtらの主張に対してどのように反証するのだろうか。