先日、カナダにスキーに行って、現地のスーパーで食材を買って調理した話をアゴラに投稿した。
その時に気になったのが、「日本産米とカリフォルニア米のどちらが安いのか?」ということだ。
日本の農産物貿易に関しては、現実とはかけ離れたイメージだけで語られることが多い。たとえば「日本の米は国際的な価格競争力がない」「日本の国境措置がないと、日本の米はすべてカリフォルニア米に国内市場を奪われてしまう」などというものである。
ところが現実は全く違う。カリフォルニア米は高すぎて、日本では売れないのだ。
ミニマム・アクセス米の落札価格 国産米の1.5倍 輸入中止を 農民連が指摘
日本は米の関税化(関税を払えばいくらでも米を輸入できる)を回避するために、一定の非課税輸入枠(ミニマムアクセス)を設定するかわりに、枠を超えた分には法外な関税をかける、という方法を取った。
ところが関税ゼロでもカリフォルニア米は高くて売れない。売れないけど国際協定でミニマムアクセス分は絶対に輸入しないといけないので、結果的に輸入自由化をするより現行制度の方が米の輸入が増えるということになっている。アメリカの立場から見てもこれは都合がいい。高くて売れないカリフォルニア米を、規定数量は必ず日本が買ってくれるという取り決めだからだ。
少し考えればわかるのだが、カリフォルニアは降水量が少ないので、日本国内の市場を全て奪うような大量の米生産ができないのだ。そうでなくともアメリカでは「カリフォルニアロール」を中心とした寿司文化が定着し、カリフォルニア米の需要は大きい。そこに水不足などで生産量が減るなどさまざまな要因で、今カリフォルニア米は価格が高騰しているのだ。
TPPが導入されれば日本の農業が崩壊する、などという農水省のキャンペーンが行われたが、実際に導入された現在になっても、全く日本の食卓に輸入農産物があふれて国産農産物が市場から淘汰される気配が見えない。2017年にアゴラに記事を書いたが、もともと日本の農産物は国際競争力があるのだ。
TPPに関していえば、日本産農産物に対する輸入規制が強い加盟国に対し、規制を弱めることを主張して日本産農産物の輸出拡大を図るチャンスになる。こうした現実について、農水省は国民に対してほとんどアピールをしていない。
具体的にいえば、メキシコはこれまで日本産米を輸入していなかったが、2023年から輸入ができるようになった。それを受けて、日本の米はメキシコで競争力があるのかに関してJETROなどが調査している。
この記事によると、現在でも日本の富山県産コシヒカリはカリフォルニア米より安く売られているのだ。そして現状、アメリカ産米はメキシコに無関税で輸入されているが、日本産米は2023年には8%の関税がかかっている。これがTPP11の取り決めにより毎年2%ずつ削減され、2027年以降は無関税になる。
こういう状況を私は知っていたので、カナダではどうなのかと、実際にバンクーバーのスーパーで値段を見た。確かにカリフォルニア産米より新潟県産コシヒカリの方が安く売られていた。新潟県産コシヒカリはパッケージが怪しげで、品質がどうなのかについて多少疑問があったが、本当にカリフォルニア米の方が日本産米より安く店頭に並んでいる現状を実際に目にしたのだ。
メキシコやカナダでは、カリフォルニア米も日本米もどちらも輸入品で、ある意味同じ条件だ。ところが日本産だけが輸入品になるカリフォルニアでも、2023年10月に日本産米の方がカリフォルニア米より3割ほど安くなっているというレポートも見かけた。
福島県産米を世界で売るための「ブランド戦略」【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.26】
これが日本産米とカリフォルニア米を取り巻く環境の現実なのである。もう少し日本産農産物に関して現実の話が目にふれる場が増えて欲しいと思う。
■