地方議会と入札不正

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小学校・幼稚園の改築をめぐる競争入札において最低制限価格と参加業者を漏えいした疑いで、千代田区議員と同区の担当部長が先日逮捕された。この区議は議員歴20年、議長も務めた「大物」である。

「区議で大物」という表現に違和感を抱く読者もいるかもしれないが、「その区においては大物」なのである。少し前に筆者は、宮崎県串間市の副市長のケースを題材に論考を掲載した(「公共入札では「悪」も「仏」も処罰される」)が、そこで登場する副市長も同市の議員を6期務めた「大物」だった。要するに「地元では最強」というキャラクターなのである。

逮捕された元部長は、逮捕前の新聞社のインタビューで、この議員について「逆らえる存在ではなかった」とも話したという(朝日新聞2024年1月25日記事より)。

地方公共団体の入札不正に地方議会議員が絡むことが少なくない。2017年には埼玉・上尾市のごみ処理業務を巡る入札不正で市長と議長がダブルで立件されている。

地方議会議員が入札不正に絡むことが多いのは、政官財の距離が近いからだ。条例や予算はもちろんのこと、契約審議、その他諸々の監視等を通じて、議会は行政を規律する。規律される側の行政はする側の議会の「顔色を伺いやすい」構造になっている。この顔色を伺う構造の下、有力議員による本来認められないはずの要望がまかり通ってしまうことになる。

国会も似たような構造だが、決定的に違うのが「距離感」だ。地方の場合、議会の規模も行政の規模も大きくなく、関係者は顔の見える距離にいる。2、3期で国政等に転身する議員もいるが、5期、6期ともなると「主(ぬし)」化してくる。となると、その意向に逆らうと「通るものも通らなくなる」。行政の遂行のために「見返り」が必要になる。その見返りが入札の情報なのである。そして地域要件等で地元業者が守られることの多い地方自治体の発注においては、自然と議員と業者の関係も近くなる。

洋上風力発電をめぐる口利き疑惑のようなケースもあるので、案件によっては国政でも問題になり得るが、さすがに個別の入札の予定価格を教えろといった国会議員から入札担当職員へのダイレクトなアプローチは考えにくい。

業者との距離の近さは、利益誘導型の政治家を生み出しやすい。調べると千代田区は有権者5万人ほどで500から600票の得票で当選できるようだ。固い支持者グループをある程度確保しておけば落選しない。そうした構造が癒着や不正、歪んだ要望の背景になっていないか。

千代田区のケースでは興味深い点がもう一点ある。このケースは小学校・幼稚園の改築工事の2件の一般競争入札をめぐって、最低制限価格に関する情報や入札参加業者数を漏洩したというのであるが、漏洩先は一件が他県の業者、一件が区内の業者だった。

前者のJVが空調工事を約6億8000万円で落札した。落札率は79.9%だった。後者のJVが給排水工事を一者応札で落札した。落札額は約6億6000万円、落札率は99.8%だった(東京新聞2024年1月24日記事より)。

ここから県外の業者は最低制限価格を知り下限ピッタリに合わせたのだろうが、区内の業者は1者であることを知り上限に合わせたのだと推測することができる。一方が競争的で一方がそうでない状況はどうして発生したのか。前者については参加者数も漏洩したが複数だったので下限に合わせたように見える。こうしたケースはその後の契約変更の状況もチェックが必要だ。また他県の業者が登場する背景事情は何だろうか。JV構成における地元業者の義務付け等の事実も不正の背景に関連しているかもしれない。