制度・規制改革学会が「子育て支援金制度」の撤回を求める緊急声明を発表し、私も賛同者として署名したので、同じ趣旨の今年2月6日の記事を再掲します。
少子化対策への拠出は健康保険法違反
政府はこども家庭庁の「少子化対策」の予算総額3.6兆円のうち1兆円を健康保険料からの支援金でまかなう方針だ。
少子化対策の財源を確保するため公的医療保険を通じて集める「支援金制度」をめぐり、岸田総理大臣は、加入者1人当たりの拠出額は月平均で500円弱を見込んでいることを明らかにしましたhttps://t.co/3CIX04KnJz#nhk_video pic.twitter.com/SOkzh9k2Z3
— NHKニュース (@nhk_news) February 6, 2024
この「月額500円弱」という数字はおかしい。健康保険(国保を含む)の被保険者数8000万人を分母にすると、1人あたりの負担は年額1万2000円(事業主負担を含む)である。
少子化対策の財源として導入される「支援金制度」ですが、負担が国民1人当たり500円弱という総理の説明は誤解を与えます。少なくとも保険料を直接負担する被保険者1人当たりの負担額を説明すべきで、協会けんぽで月1,025円、組合健保で月1,472円という試算もあります。年額で言うと2万円近い負担になる… https://t.co/7nTEYuvmIY
— 玉木雄一郎(国民民主党代表) (@tamakiyuichiro) February 6, 2024
このような拠出金は、これが初めてではない。安倍政権の決めた子ども・子育て拠出金は事業主負担のみで料率も0.36%と小さかったが、今回の支援金は約4%。消費税の0.5%分である。
健康保険の目的は「労働者又はその被扶養者の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与すること」(健康保険法1条)だが、少子化は疾病でも負傷でもない。健康保険料から「支援金」を支出するのは、違法な目的外使用にあたる疑いが強い。
後期高齢者に「贈与」した支援金は返ってこない
もっと巨額の支援金もある。後期高齢者への給付費15.3兆円の赤字のうち6.3兆円をサラリーマンの健康保険料で埋めているのだ。サラリーマンの払う健康保険料の半分は、自分の親でもない後期高齢者に仕送りされているのだ。
この支援金の法的根拠は「保険業務に要する費用に充てるため」となっているが、その性格は曖昧だ。この財源は税ではなく、かといって高齢者が払う保険料でもない。現役世代も年をとったら保険のお世話になる「世代間の支え合い」だというのが厚労省の説明である。
しかし現役世代が後期高齢者になったとき、この支援金は戻ってこない。そのときは現役世代の人口が大幅に減るので、支援する余裕はないだろう。今年の支援金は後期高齢者に全部使われてしまう贈与なのだ。
消費増税をいやがる政治家がサラリーマンから取る「隠れた増税」
同じようなトリックは年金制度にもあり、基礎年金24.5兆円のうち10.5兆円を厚生年金の被保険者が負担している。
なぜこのような世界にも類のない無責任な拠出金や支援金で赤字を埋めるのだろうか。それは医療や年金の赤字を税金で埋めるには、消費税でいうと8%以上の増税が必要になるからだ。
消費税は歴代の内閣を倒してきた「魔の税」だが、社会保険料は厚労省令と閣議決定だけで改定でき、国会を通す必要もない。これが少子化対策の財源を税ではなく保険料で徴収する理由だが、負担は現役世代のサラリーマンに集中する。
これを許すと蟻の一穴になり、今後はこども家庭庁の予算が健康保険料からどんどん徴収され、国会を通さない隠れた増税が拡大するだろう。支援金は税ではないので財務省は査定できず、保険金でもないので健保組合もチェックできない。
サラリーマンは支援金の不払い運動を起こせ
しかし健保組合が支援金の拠出を拒否することはできる。1999年には事実上無料だった老人医療への拠出金が組合健保の保険料の4割を超えたため、サンリオの健保組合が老人保健法の拠出金の支払い猶予を求める不服審査請求を厚生省に出した。
これをきっかけにして健保連(健康保険組合連合会)が全国の組合に拠出金の拒否を呼びかけ、健保組合のの97%がこれを支持して延滞し、日経連と連合もそれを支持した。厚労省は審査請求を却下したが善処を約束し、2002年に健康保健法の改正で70歳以上の窓口負担を1割とした。
今も上の図のように健保組合の保険料の5割が老人医療に拠出され、健保組合の8割が赤字で、解散が相次いでいる。今回の支援金に対して健保組合が立ち上がり、少子化対策に流用する1兆円の追加負担は払わないという運動を展開してはどうだろうか。一つの組合でも、厚労省に審査請求を出せばいい。野党も一緒に闘えば、サラリーマンの支持を集めることができるだろう。