「2重国籍」は国の安全を脅かす問題だ

日本では2重国籍は法的に禁止されているから、日本国籍所有者しか基本的にはいないことになっている。日本のメディアで2016年から17年にかけ、野党の国会議員が台湾と日本の2重国籍を所有しているのではないか、という疑いがもたれ議論を呼んだことを思い出す。当時、野党「民進党」代表の蓮舫氏だ。同氏は自身の国籍を明確にせずに選挙に出馬し、参議院議員に選出されていたことが明らかになり、選挙法の違犯問題まで浮上した(「蓮舫さんの“日本語”は美しい」2017年7月29日参考)

1割の連邦議員は2重国籍のスイス連邦議会(スイス連邦議会公式サイトから)

私人は別として、国会議員が2重国籍所有者だということは考えられない。なぜならば、日本の政治家は与党であろうと、野党であろうと、日本の国益を最優先にして考えなければならないからだ。その政治家が別の国籍をも有しているということは国家の安保問題を脅かすことにもなる。一種の2重スパイとなる危険性があるからだ。グロバリゼーションや多様性という言葉がまかり通る世界だが、国籍はやはり一国の国籍しか所有できないのではないか。

当方が住むオーストリアでもトルコ人の2重国籍所有者が多い。だから、トルコ与党「公正発展党」(AKP)や野党関係者は欧州に出かけ、選挙運動をする。すなわち、外国で自国の選挙運動をするわけだ。それに対し、ドイツ、オランダ、スイス、オーストリアは国内でのトルコ人政治家の選挙運動を禁止してきた。なぜなら、欧州居住のトルコ人は与党支持派ばかりではない。クルド系や野党勢力を支援するトルコ人も多数いる。与・野党支持者が海外で激しい論争ばかりか、時には衝突も繰り返す危険性が高いからだ(EUには約700万人のトルコ系住民が住んでいる)。

問題は、欧州居住のトルコ人は居住する国の国籍を得る一方、トルコ国籍を維持しているケースが少なくないことだ。すなわち、2重国籍者だ。欧州では2重国籍を基本的に禁止しているが、誰がトルコ国籍を所有しているかチェックできないため取締りが難しい。そのため、オーストリアの場合、トルコの総選挙などで駐オーストリアのトルコ大使館で投票するトルコ人がいたなら、「そのトルコ人はトルコの選挙権を持っていることになるから、その場でオーストリア国籍をはく奪すればいい」という声はあるほとだ。オーストリアには約36万人のトルコ系住民が住んでいる。その中には、オーストリアとトルコの2重国籍を所有する者が少なくない(「欧州トルコ人の『二重国籍』問題」2017年3月14日参考)。

しかし、世界は広い。2重国籍を認めている国が結構ある。そのうえ、政治家の中にも2重国籍者がいるというのだから驚く。スイス公共放送(SRF)のスイス・インフォスイスのヴェブサイトには「スイスの連邦議員、約1割が2重国籍」という見出しの記事が掲載されていた。以下、スイスの2重国籍の状況を同放送から配信されてきたニュースレター(2024年2月1日)から少し紹介する。

スイス連邦議会では、議員の10人に1人がスイス国籍の他に外国籍を持つ。この割合は増加傾向にあるが、スイス国民に占める2重国籍者の割合に比べれば、まだ低い。SWI(swissinfo.ch)が最近実施した調査で、2023年秋の連邦議会選挙で選出された上下両議員246人のうち24人が2重国籍を持つことが分かった。その内訳は、国民議会(下院)が19人、全州議会(上院)が5人だ。

同国では2000年代初めには連邦議会に3人しかいなかった2重国籍者は年を追うごとに増えてきた。国民全体で見ても、2重国籍者は増加傾向にある。2010年にはスイス国内に居住する国民の14%だったが、2021年には19%強に増えているのだ。

2重国籍に反対する保守右派「国民党」は「外国人でもある連邦議員が、利益相反に陥り、スイスに不利益をもたらす可能性は排除できない。そこで議員就任時に、議員に外国籍の放棄を義務づける、あるいは連邦への忠誠宣言を求めるべきだ」という内容の意見書を連邦議会に提出した。ちなみに連邦議員は2022年以来、2重国籍申告を義務づけられている。

スイス連邦議会では、2重国籍者は左派に多い。社会民主党(SP/PS)が13人、緑の党(GPS/LesVerts)が3人だ。他方、右派では、急進民主党(FDP/PLR)に3人、2重国籍問題を非難する国民党にも3人いる。連邦議会では、最も多いのはイタリア国籍で13人。次いで、ドイツ、フランス、トルコがそれぞれ3人だ。

最後に、日本の安全問題にもかかわる北朝鮮人の2重国籍所有が増えていることを記しておきたい。2000年1月、イタリアが北朝鮮と国交を樹立したのを皮切りに、欧州連合(EU)加盟国は次々と北朝鮮と外交関係を樹立していった。同時に、欧州には欧州の国籍を有する北朝鮮人が多数生まれてきた。欧州で脱北者数が最も多い英国では、脱北者は政治難民として英国国籍を得る。北国籍はその段階で消滅するが、平壌当局が脱北者の国籍離脱申請に応じることはないから、脱北者は依然、北国籍者といえる。純粋な脱北者の場合は問題がないが、工作員の場合、彼らは欧州の旅券で欧州ばかりか、米国、日本などを自由に出入国できるのだ(「北朝鮮外交官夫人が2重国籍者の時」2016年11月8日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。