『ゴジラ-1.0』の成功が日本の希望であるこれだけの理由

2023年12月8日に発売された私の新作書籍『世界のニュースを日本人は何も知らない5』でも解説していますが、ここ最近の日本のコンテンツはハリウッドを凌ぐ元気があります。

 

『ゴジラ-1.0』が昨年末に公開され、日本だけではなくアメリカやヨーロッパでも大ヒットしています。海外で公開された実写の日本映画としては史上最高の成功であったと言えるでしょう。

私も年末に日本で、大変な期待を抱いて鑑賞させていただいたたわけですが、まず何が素晴らしかったかというと、原点に回帰してきちんと怖いゴジラが描かれていたこと、ゴジラの造形が素晴らしくファンが期待する怪獣らしいゴジラであったこと、大作へのリスペクトとオマージュが素晴らしくオリジナルのサウンドトラックが感涙するようなタイミングで使われていたこと、そして何よりも素晴らしかったのがこの映画が大変な低コストで制作されたということです。

驚くべきことに、ハリウッドに比べると大変少ない人数に予算でこの映画は制作されています。その経緯は以下の動画を見ていただければよくわかるのですが、制作会社である白組の調布のスタジオで生み出されています。

【訪問レポート】「ゴジラ-1.0」はどんな環境で作られたのか?山崎貴と白組・調布スタジオを巡る | 「ゴジラ-1.0」をもっと楽しむ!ゴジラ+1.0(プラスワン) 第1回
11月3日に全国で公開されるゴジラ70周年記念作品「ゴジラ-1.0(ゴジラマイナスワン)」。そのVFX(視覚効果)を手がけたのが、1974年に設立された映像制作会社・白組だ。同社は「シン・ゴジラ」をはじめとする「シン」シリーズのVFXや...

実にシンプルで小さなオフィスで、たった35人の日本人がVFXを生み出しているのです。アメリカの製作会社のように大きな食堂や豪華な受付があるわけではありません。

白組のスタジオでは製作スタッフが同じフロアに集まって一緒に顔を合わせて仕事をし、同時に監督・脚本・VFXを担当した山崎貴さんがスタッフと会話しながら成果物のチェックを行っているのです。

そしてスタジオの地下にはモーションコントロールカメラを使った撮影が可能なスペースや、ゴジラなどのモデルを制作する3Dプリンター、ミニチュアを置く場所などもあります。しかしアメリカやヨーロッパの製作会社に比べれば実にシンプルで小さなオフィスです。

しかし今回白組が生み出したゴジラのVFXはハリウッドのスーパーヒーロー作品にも全く劣らないどころか、ハリウッド凌ぐ大迫力です。これはここ最近の『マーベル』や『ディズニー』作品、『トランスフォーマー』シリーズなどを見てきた方ならよくお分かりになるのではないでしょうか。

ハリウッドは莫大な予算をかけてVFXを多用した作品を送り出していますが、最近の作品に関して感じるのはマンネリ化と似たような構図や効果ばかりです。

しかし多くの作業は恐ろしく分業化されていて、ちょっとした作業にもそれに特化した専門家がいて自分の担当以外の仕事はやらないという風になっています。

関係者は世界各国に散らばっているのでミーティングをやったり成果物のチェックをしたりするのも手間暇がかかります。多国籍な人々が主に英語でコミュニケーションを取りながら作業するので、日本の会社のように阿吽の呼吸で物事が進むというわけではありません。

このハリウッドの仕事のやり方は外資系企業で働いたことがある方であればよくわかるでしょう。仕事があまりにも細分化されていて世界各国にプロジェクトチームが散らばっているので、コミュニケーションをとるだけでも大変な時間とコストがかかり、なかなか話がまとまりません。当然コストもかかります。

そして作業を細分化して多くの人に割り振るので人件費も莫大です。それで成果物の品質が高いのかというと非常に疑問符がつくことも多いのです。私もそのような環境で仕事をしてきましたが、非常に効率が悪く、人は多様なようでそれほど画期的なアイディアが出るわけでもなく、担当者に柔軟な作業を依頼できるわけでもないので色々と苦労してきました。

しかもその細分化した作業にいちいち業績目標を振って評価をするわけですから、自分の仕事以外は一切やらなくなります。

ところが日本のマネージャーや技術者に仕事を頼むと非常に機転を利かせて自分の仕事以外も面倒見てくれますし、日本人同士はコミュニケーションも迅速です。やはり同じ文化で同じ言語を話し、阿吽の呼吸で意思が通じるというのは強みなのです。

私は今回の『ゴジラ-1.0』の仕事のやり方というのはハリウッドだけではなく他の業界にも大きな影響を及ぼすと考えています。

リモートワークや世界中にチームを分散させるやり方ではなく、チームメンバーを1箇所に集めて対面で対話をしながら仕事をする、豪華なオフィスではなくシンプルでコンパクトだが居心地が良いオフィスで働く、細かすぎる分業制を行わず柔軟に対応する、予算が少ないのなら知恵を駆使して成果物を作る、そして同質性の高い人々でスタッフを固める。

グローバル化、多様化、豪華なオフィス、分業制、厳しい業績評価、膨大な予算、そういった最近のトレンドと全く逆を行く『ゴジラ-1.0』は、日本の強みや未来を凝縮したような素晴らしさに溢れています。つまり日本企業は成功したいのであれば、『ゴジラ-1.0』のように弱みを強みに変えていけば良いわけです。要するにグローバル化の逆張りをせよということです。

日本が今後どうして行くべきかということを考えたい方は、ぜひ『ゴジラ-1.0』を見に行ってみてください。