非連続な変革において非連続なのは事業ではなく事業主体だ

産業構造は一日にして変わるものではなく、仮に規制等の強制力をもって変革がなされる場合にも、一定の移行期間が設けられる。故に、古いものは直ちに消滅するのではなく、長い時間をかけて衰退に向かうわけだが、その間にも収益を生み続け、その収益が新しいものに投資されることによって、新しいものが成長していくのである。

最近では、ディスラプトという言葉が使われるようになり、一般には、創造的破壊、即ち、新しいものの創造は古いものの破壊を伴うという意味に解されているようだが、古いものが破壊されてしまったのでは大きな損失なのだから、破壊ではなく、不連続、あるいは非連続、即ち、古いものと新しいものの間に断絶を設けることと解されるべきである。

123RF

つまり、ディスラプトとは、自然な流れにそった連続的推移を乱すこと、あるいは中断することであって、創造の性質について適用すれば、古いものが技術的条件等の環境の変化に合わせて自然に連続的に進化発展していくことではなく、その自然な流れが中絶されたところに全く新しく非連続な展開が始まることを意味する。

古いものは、ディスラプトされて新しい流れから切り離された後、直ちに価値を失って消滅するわけではなく、収益を生みながら、長い時間をかけて衰退に向かうだけのことであって、ディスラプトによって古いものが破壊されると考えることは誤りである。しかし、誤解が生じるのにも無理はなく、真に新しいものを創造する企業は世の注目を集めても、そこに古いものはなく、古いものは場所を変えて存続していても、そこには誰も着目しないので、破壊されて消え去ったかのように見えるのである。

ディスラプトが非連続だとして、何が非連続かといえば、事業構造が非連続である以前に、事業主体が非連続でなければならない。これは、事業主体の連続性からはディスラプトによる真の創造は生じ得ない、即ち、古い事業を継続しながら、それを自ら否定し、それを超克して、新しい事業を創造することはできないという自明のことである。

つまり、連続的な進化においては、経験の積み重ねが小さな創造の継起を生むのだから、事業主体の連続性は不可欠であるのに対して、非連続な大きな創造のためには、事業主体の非連続性が不可欠なのであって、新しいものは新しい事業主体によって担われるほかないのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本 紀行