試金石となる中野二丁目再開発権利床活用事業
中野区は中野駅南口、中野二丁目に新たにできた「ナカノサウステラ」に権利床、つまり部屋を所有している。
中野区はこのエリアにもともと駐輪場の敷地を所有していたため、権利床を持つこととなった。
図1に示すレジデンス棟2階の最南端のエリア、延床面積683.27㎡がその床である。
この部屋の活用について、3月の中野区議会総務委員会において「中野二丁目再開発権利床活用事業について」と題した報告案件があった。
貸付期間は令和6年3月1日から10年間で、貸付料は月額1,661,240円である。
民間企業にサウンディング(民間事業者の意見や新たな提案の把握等を行うこと)を行い、区民サービスを展開しながら、営利活動を認めるものとして、事業構築を行い、事業者募集、事業提案を受けた。
結果としては図2に示す基本方針となった。
配置レイアウトの茶線で囲まれたエリアがコワーキングスペース(事務所スペース、会議室、打ち合わせスペースなどを共有しながら独立した仕事を行う共働ワークスタイル)をメインの事業とし、青線で囲まれた会議室の貸し出しを区民サービスとして、展開する。また真ん中のギザギザの白抜きエリアは東西を結ぶ連絡通路(図1参照)だという。
中野区議会の総務委員会ではこの事業の内容について紛糾した。
主なポイントとしては以下の3点である。
1. 連絡通路が必要なのか?
図1の①~③は建物の東西を抜ける道を示しており、矢印方向に向いた様子を写真2~4に示す。
①のルートの方は基本的に図1オレンジ四角に囲む「千光前通り」に進む、②のルートの方は基本的に当ビルのレジデンス住民およびオレンジ四角に囲む「歩行者通路」に進む。③のルートの方はオレンジ四角に囲む階段、エレベーターを利用されると考えるが、そもそも2階のデッキに上がった直後に階段、エレベーターで降りるようなルートにする人はほぼいない。つまり③のルートは不要である。
2. 区民サービスとして成り立っているのか?
コワーキングスペースが区民サービスに成りえないとまではいわないが、区有施設で運営しなければならないものなのか疑問である。
会議室を設置することはサウンディングによる結果だというが、地元の町会には何も調査がなかったということで、区民が会議室を必要とする証拠が全くないまま、事業構築が行われていた。
3. 家賃相場とかけ離れている?
図3は3月25日現在のナカノサウステラの空き物件情報である。
このサイトによると空き物件は坪43,407円である。この相場で中野区の権利床を計算すると9,153,920円/月となる。契約期間は10年間であるので単純に120カ月をかけると10億9847万円となる。本契約は上述の通り1,661,240円/月で120カ月をかけると1億9934万円となる。両者を引くと8億9912万円となる。あくまで契約更新などを省き、単純な計算ではある。
10年間で約9億円の差があるわけだが、この差は区民サービスとしての委託料として考えるべき数字である。しかし委員会にいる誰もがその対価に相当するものなのか疑問となった。民間事業者が悪いとは考えておらず、事業者の言いなりになっているのではと思われる職員に憤りを覚えるわけである。
中野区は跡地、権利床の有効活用が不得手であり、これまでに多くの失敗を重ねてきた。上述の中野二丁目再開発権利床活用事業は一例であり、これまでの事業も資産価値に見合い、そして区民が求める事業構築ができているとは言い難い。区の資産管理能力は疑わしいものである。
中野区は来年度、中野四丁目新北口地区のまちづくりを進めるため、中野サンプラザを取り壊し、再整備が形として見えてくるわけだが、新・中野サンプラザの事業においても同様の懸念を示す。
区は中野区職員倫理条例第三条職員の職務の遂行に係る行動の原則に定める「効果及び効率並びに経済性を科学的に検証し、区民の利益を最大化することを目指して計画的に職務に当たること。」を改めて認識し、事業の遂行に努められたい。