DTC (Direct-to-Consumer:消費者に直接)は安全か?

2月22日号のNew England Journal of Medicine誌に「Direct-to Consumer Platforms for New Antiobesity Medications-Concerns and Potential Opportunities」というタイトルの論文が掲載されていた。「新しいやせ薬を直接消費者に届けるシステムの功罪を論じた論文だ。

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米国FDAは医薬品だけでなく、医療機器、そしてサプリメントや診断キットなどについても目を向けている。ゲノムを利用した病気のリスク診断を、直接消費者に対して始めようとした企業に待ったをかけたのもFDAだ。そこで、その企業は、米国人のオリジン(先祖がどこの国、あるいは、どこの地域出身か)の判定を商売として展開した。私の知人の日本人でもこの検査を受けた人がいる。ゲーム感覚だ。

その一方、米国FBIはこれらのゲノム情報を利用して、犯人のDNA型に類似した(血縁関係のありそうな)人を見つけて、そこから犯人を割り出したこともある。軍人は不幸が生じた際に本人を特定するためにDNA型を登録している。といっても、医療、とくにゲノム学や遺伝学、に知識がない企業が、医療機関を介さず、消費者に種々の病気のリスク情報などを提供するのはとっても危険だ。情報が漏出して、不安をあおるような輩が金儲けに悪用する事態は想定しておくべき話だ。ゲノム医療と称しつつ行われる悪質なビジネスの監視を怠ってはならない。

また、医薬品以外にも、日本には特定保健用食品や機能性表示食品制度などがあり、一般消費者が簡単に購入することが可能だ。消費者庁のウエブページでは両者ともに「健康の維持、増進に役立つ、または、適する旨が表示されています」との説明がある。しかし、特定保健用食品は「国の審査が必要だ」が、機能性表示食品は「事業者が効果がある」と自己責任で届ければいいものだ。

今回、話題となっている「紅麹」製品は機能性表示食品に分類されるものだ。もし、報道されているように青かびに由来すると考えられる成分が含まれているとした場合、誰かがプベルル酸か青かびを故意に加えたか、製造過程で青かびが混入するような不備があったのかとなる。もちろん、紅麹菌に突然変異が起こって想定外のものを作り出した可能性は否定できない。問題になっているプベルル酸は文献情報もほとんどなく、七員環構造の珍しい形(炭素分子が7個並んで輪になっている形:5角形や6角形の構造をしている化合物はよく見かけるが)をしているので、簡単に入手できるとは考えにくい。企業の責任での届け出だけで簡単にすむので、市場に出回っている機能性表示食品は約7000品目もあるそうだ。事業者の責任なので、基本的には何が起こっても企業の責任となる。果たして、これでいいのかという問題が浮き彫りになったのは当然だ。

テレビでも多くの製品が紹介されているが、それらの製造過程がどれだけ厳格に管理されているのかが問われている。それ以外にも、肌がプルンプルンになったり、まるで軟骨成分になるような宣伝がなされている。タンパク質を摂取しても、アミノ酸に分解されてから吸収されるはずなので、どう考えてもおかしい?

そして今回の報道でも明らかになったのがメディアのリテラシーの低さだ。たとえば、学会の調査で47人の被害が確認され、「そのうち40-69歳が約9割を占め、やや女性が多い傾向」と報道されていたが、この機能性食品を摂取していた人のうち、40-69歳の割合かがわかりませんし、女性の割合もわかりません。摂取していた人の年齢層の9割が40-69歳であり、女性の割合がやや多ければ、この「40-69歳」「やや女性が多い」は科学的には何の意味も成さない。まるで、この年齢以外の人には、あまり影響ないかのようなミスリードだ。亡くなっている方は高齢者なのに、よく考えて記事を書いて欲しいものだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年4月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。