今更だがウクライナとイスラエルを擁護すべき理由

ロシアによる突然のウクライナ侵略(以下、「ウロ戦争」)から早や2年3ヵ月が経とうとしている。イスラエルに対するハマスのテロ(以下、「イハ戦争」)からも既に7カ月余りが経過した。当初は、前者ではプーチンに対する非難の声が、後者ではイスラエルに対する同情論が、国際社会に巻き起こった。

が、時が経つに連れ、「ウロ戦争」では、日本でも反米保守層を中心にプーチンを擁護する主張が顕在化し、「イハ戦争」では、米国の有名大学でイスラエル非難の過激な抗議活動を放置した学長が辞任に追い込まれ、またバイデンがイスラエルへの武器供給停止を警告したことでも世論は対立している。

米国も日本もウクライナや中東からは遠く数千キロも離れているから、その戦火が両国に及ぶことはない。それゆえか、戦場の詳しい情況や死傷者の正確な数は勿論、それらが敵味方どちらの攻撃によって生じたのかも、双方が発信する多くのプロパガンダを含んだ、甚だ不正確な情報でしか知る術がない。

それにも関わらず、否、だからこそ、社会を分断する対立が生じているのである。とはいえそれぞれの戦争には、ほぼ間違いないと考えてよいと思われる事態が存在する。筆者はそれを拠り所に、ウクライナとイスラエルをそれぞれ擁護する立場である。以下にその拠り所を書く。

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先ず「ウロ戦争」でいえば、それはプーチンによるウクライナへの攻撃が、22年2月24日に「特別軍事作戦」と称する全面的な軍事侵攻によって、突然一方的に始められたことであり、そしてウクライナの国土だけがもっぱらその戦場になっていて、ロシアの国土は全く無傷のままであることだ。

ゼレンスキーは24年2月25日、ウクライナの死傷者を戦死31千人とし、戦傷数は公表しなかった。米当局は23年8月、戦死70千人、戦傷120千人と発表した。民間人についてゼレンスキーは、ロシア占領下のウクライナ地域で市民数万人が死亡したが正確な数は不明だとした(2月26日の「BBC」)。

少し古い話だが「ロイター」は昨年8月19日、ウロ両軍の合計死傷者が50万人以上に上ると報じていた。内訳は、ロシア側の死傷者は30万人で、うち死者は最大で12万人、負傷者は17万~18万人であり、ウクライナ側の死者は約7万人、負傷者は10~12万と推計されるとしていた。

斯様に戦闘員の正確な死傷者数は判らない。が、民間人の死傷者なら確かなことがある。それは戦場になっていないロシアの民間人に犠牲者がいない一方、戦場になっているウクライナでは、「ロシア占領下の地域の数万」以外でも、ミサイルやドローンによる無差別攻撃の犠牲者が少なからずいることだ。

他国の領土への一方的な侵攻と非対称な戦場での無差別攻撃による無辜の市民の犠牲者、これらの事実はソ連擁護が間違いであることを物語る。プーチンのいうNATO東方不拡大の密約やウクライナでのロシア系住民迫害などが事実としても(筆者の立場は、前者は存在するが後者は不明)、それらがプーチンがしていることの免罪符にはなり得ない。

次に「イハ戦争」。23年10月7日早朝、ハマスがテルアビブを含むイスラエル各地に向けてロケット弾3千発(イスラエル発表。ハマス発表は5千発)を発射し、同時にガザ地区に隣接するイスラエル南部各地に戦闘員2900人を侵入させて、多数のイスラエル人に被害を及ぼすというテロを行った。

このテロによるイスラエル側の死者は1300人、負傷者は数千人に上り、幼児の殺害や女性に対するレイプも行われた。また2百数十人が拉致されて、今も約130人が人質となったままになっている。これら被害者には滞在中の外国人70余人が含まれており、その関係者による公の証言も多数存在する

イスラエル軍も同日に反撃を開始し、テロの実行者がハマスの軍事部門カッサーム部隊であったことから、翌8日にはハマスに対して宣戦布告した。それから数日間、ハマスはガザ地区からのロケット弾発射を続ける一方、イスラエル軍も戦闘機、ドローン、砲兵部隊を用いてガザ地区を空爆・砲撃した。

テロ(テロリズム)とは、「一定の政治目的のために、暗殺や暴行、粛清などの直接的な恐怖手段に訴える主義。暴力主義。また、その行為」を指す。よってハマスの行為は紛れもないテロだ。ネタニヤフ首相はこのテロリストに宣戦布告し、ハマスの殲滅と人質全員の奪還を誓って、地上軍をガザに進めた。

それ以降の戦況は縷々報道されている通りだが、戦場となっているガザでの死者について4月20日の「朝日新聞」は34千人(負傷者は77千人)を超えるとし、死亡した女性の内6千人が母親で、それにより19千人の子供が孤児になったと報じている

死者34千人は「ガザ保健省」の、また死亡女性6千人は「国連女性機関」の発表と記事にある。が、同紙は「ガザ保健省」がハマスの傘下にあることや、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)がハマスなどの武装集団から450人超の「軍事工作員」を雇用していたことには一言も触れていない。

3月半ば国連児童基金はガザ保健省の数字を引いてガザで13,450人の子供が殺害されたと発表した。が、国連人道問題調整事務所は5月8日の報告書で、4月末時点の子供の死者を7,797人に、女性の死傷者を9,500人超から5,000人未満に修正した。国連の報道官は「JNS」紙に「紛争の過程で数値は何度も調整される。紛争が終われば正確な数字が得られるだろう」と述べた(5月12日の「JNS」)。

米国の保守メディア「Newsmax」は3月10日、「ガザの死亡者数は捏造である」とのペンシルバニア大学ウォートンスクールの統計学教授エイブラハム・ワイナーによる「タブレット」誌への寄稿の中身を報じている。同教授は概略こう述べている。

ガザ保健省の数字をグラフ化すると、1日の死傷者数の平均が270人±15%程度で、驚くほど変動が少ない。平均の2倍の日もあれば半分の日もあるはずだ。彼らは自然発生的な数の挙動を理解していないのだろう。残念ながら、この結論を検証する管理データは入手できないが、この数字は疑わしい。

女性と子供が殺されたとハマスが主張しているのも信用できない。イスラエルの攻撃の波と犠牲者数は連動して動くはずだが、データはそれを示していない。ハマスは全体の約70%を女性と子供に恣意的に割り当て、それを日によってランダムに分けて、予め決められた総数に従って男性の数を補充した。これで観測されたすべてのデータが説明できる。

民間人の死傷者数は極端に誇張されている可能性が高い。イスラエルは12千人のハマス戦闘員を殺害した推定している。これが正確なら非戦闘員の死傷者の比率は驚くほど低い。民間人を盾にした市街戦の基準からすれば、不必要な人命の損失を防ぐための驚くべき努力が成功している。

こうした統計学者の考察にも関わらずバイデンは5月8日、「ガザでは爆弾やその他の人口密集地襲撃の結果として民間人が殺害されている」とし、「イスラエル軍がラファへの侵攻を開始した場合、イスラエルへの爆弾や砲弾などの攻撃兵器の供給を停止する」と警告した

が、ブリンケン国務長官は10日、「イスラエルが米国の武器使用条件に違反したと結論付けてはいない」と述べ、20人以上の民主党下院議員も同日、「武器の供給停止は、我々の敵であるハマス、ヒズボラ、フーシ派などイランが支援する勢力を勇気づけるだけだ」「ハマスは『完全に排除』されねばならない」とする書簡をサリバン国家安全保障担当補佐官に提出した

共和党では、バイデンより一歳年長のマコネル上院院内総務が9日、「イスラエルは最高の基準を守り、民間人への被害を最小限に抑えるよう慎重に配慮している」とし、「イスラエルを地上から消すと誓ったハマスにとって、民間人の死傷者は悲劇ではなく商売の道具だ」とバイデンを強く批判した

戦時国際法(国際人道法)は、民用物(家屋、集合住宅、企業、礼拝所、病院、学校、文化財など)への直接攻撃を禁じている。が、それには「軍事目的としての使用や軍事目標になっていない限り」との但し書きがあり、通常民用物とされる施設に軍隊が配備されている場合の攻撃は禁止されていない

つまり、ミサイルやドローンを使ってウクライナの国土を無差別攻撃するロシアも、また病院や学校などの地下に基地を設けて民間人や人質を盾に使うハマスも、明らかに戦時国際法に違反している。犠牲になったガザの民間人には気の毒なことだが、恨むべきはイスラエルではなくハマスである。

以上が、筆者がウクライナとイスラエルを擁護する理由である。