日本人が内向きなのか?:リスクを取れない保守的な立ち位置

バイデン大統領の発言を契機にいろいろな意見が飛び出しているのが日本人の外国人と向きあう姿勢。日本政府は「『正確な理解に基づかない発言があったことは残念だ』と外交ルートで反論した」(日経)とあります。一方でその記事のコメント欄に同紙の本社コメンテーターが「残念ながらバイデン氏の発言は、日本通の米財界人の間で普通に言われていることです」と述べています。あるいは学者がバイデン氏の発言を大バッシングしている報道もあります。それぞれ立ち位置があり、意見は皆、違うわけでどこにメスを入れるか次第で答えは変わるのでしょう。

日本に関する発言が波紋を呼んだバイデン大統領 同大統領SNSより

ではアメリカやカナダは本当に移民を広い心で受け入れているのかといえば切り口によってはそんなことはありません。「移民は嫌だ」とハッキリ言う人も私の周りにいます。アメリカ生まれ、カナダ生まれを「純血」とするなら私のような「移民」はよそ者もよいところでメジャーなポジションにはつきにくく、見えない差別意識はなくはありません。唯一、自分の力を発揮できるのは自分の会社を成長させ、outstandingになるのが一番手っ取り早いのです。例えばエヌビディアの創業者社長、ジェンスン ファン氏は台湾系アメリカ人ですが、たぶん彼も企業に勤めるより自分で立ち上げるほうが栄光をつかむのは早いと考えたのでしょう。

では日本人は内向きか、といえばひとくくりにYES、NOで答えが出るものではありません。どちらかを言えば必ず反論が来るし、それは不毛の議論になるでしょう。ただ、私が32年もカナダに住む中でさまざまな経験もしたし色々な声も聴いています。いくつかご紹介しましょう。

知り合いのアメリカ人が23年の初め、不動産事業を日本でやると意気揚々と日本に向かいます。私は事前に「日本の不動産業界は外者を嫌がるから日本人とタッグマッチを組め」とアドバイスしました。彼は私の忠告を聞かずに悪戦苦闘、1年後に「物件が買えなかった」と。「日本人と組まなかったのか?」「No!」。日本は外国人に限らず、新参者に強い警戒心を持つのですが、特に外国人は言葉のギャップもあり、保守的業界ではかなりガードは固いと思います。

知り合いのカナダの日本人不動産屋。「ひろさん、聞いてよ。私は駐在員の住宅あっせんはもうやりたくないですよ。先日仲介した時も細かい質問攻めでメールの数を数えたら60本もあったよ。割に合わなすぎる!」

カナダでプレハブ住宅事業を目指す日本の業者が当地の事業家と組むかどうか検討中の交渉話。「(日本の業者は)日本のやり方、デザイン、ノウハウが優れているとの一方通行だけでカナダの法制、デザインセンス、市場調査など何もせずにやろうとしているので、ちょっとこの話、組めそうもないです」

最近当地で急に増えたのが「おまかせ寿司コース料理」。たぶん10軒程度のすし店が押しなべて「おひとり様200㌦のおまかせ寿司コース、メニューはほかになし。要予約」スタイルのビジネスを展開しています。私は断言します。カナダでこのスタイルは絶対に流行りません。「任せられないカナダ人のメンタリティ」を理解しない無知ぶりです。ようやくラーメンブームが終わり、ラーメン屋は淘汰の過程、そこに丸亀製麺バンクーバー店が世界2位の売り上げで大ブーム。私の予想は絶対にうどん屋をやる輩が出てくるだろうな、と。本当になぜ、みんなフォロー型のビジネスなんだろうと思います。

これらは枚挙にいとまがないのですが、何がおかしいと思いますか?私はあえてarchitectという言葉を使いましょう。この言葉の意味は建築設計士と共にもう一つ意味があります。ケンブリッジ辞書にはこうあります。a person responsible for achieving a particular plan or aim。そう、自分が何をどう目指すのか、明白なポリシーと信念をもち、揺らぎない姿勢でそこに向かっていく力です。これが私は日本人一般に欠落している気がするのです。

日本の不動産屋は「後でクレームされたくない」というリスク回避、駐在員は自分で勉強せずに全部他人任せ、自社製品は最高だと自惚れている日本の会社、誰かの二番煎じで成功のお裾分けを求める事業家…どれも芯が座っていないのです。あいつがそう出るなら、俺はこうやるというガッツがないのです。

これが内向きとどう関係するのか、といえば外向きなら自分でリスクと取りながら経験を積み、失敗を重ねても栄光の道を歩むでしょう。内向きだと失敗を恐れ、「どうにか自分の時には問題が起きなければよい」という別の意味の保守的な立ち位置になりやすいと考えています。

バイデン氏の発言を批判したい人は批判すればよろしい。私は本件について2週間ほど前のブログで説明したように比喩としては間違っているが、言わんとしていることもわかるので笑って忘れると述べました。

バイデン大統領の「日本は排他的」発言は妄想か、確信犯か?
多くの日本在住の方はゴールデンウィークを楽しんでいることでしょう。一方、この時ぞとばかり飛び回っているのが閣僚。欧米ではこの時期は会議やビジネスが捗るだけに外遊すれば重要人物とも会いやすく、1年で唯一のタイミングといってよいでしょう。夏休み...

ただし、バイデン氏が本心で述べたとすればそういうパーセプション(認知)が日本人に対する意識としてある点は理解し、反省すべきでしょう。ニュース番組で街角を行く外国人に「日本人は外国人嫌いだと思いますか?」という恥ずかしいというかあまりにもセンスのない報道にこそ、私はあきれ返ってしまったといいたいです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月19日の記事より転載させていただきました。