資産形成よりも資産取り崩しが重要である

かつて、昭和の経済成長期においては、産業界の資金需要が旺盛なのに比して、国民貯蓄の形成は十分ではなく、相対的に資金供給能力が不足していたので、産業政策として、資金確保を図るために、金融市場は高度に規制されていたのだが、資産形成の面では、金利が高かったので、それで特に不都合もなかったのである。

その後、経済の成熟に伴って事情は逆転し、現在では、産業界の資金需要に対して国民貯蓄は圧倒的に過剰になっていて、それが超低金利の超長期間にわたる定着に現れているわけである。故に、金融行政の重要な課題として、貯蓄構造の改革を国民の安定的な資産形成として結実させ、資産効果から生じる消費需要をもって経済の持続的な成長を実現させることが目指されるのである。

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金融庁のいう資産形成とは、本来の意味においては、公的年金給付を補完して、より豊かな老後生活を送るための原資の形成を意味し、主として、若年勤労層による積立て型の投資の超長期継続が想定されている。しかし、現実的な問題としては、現状の国民貯蓄は、既に年金生活に入っている高齢者層、および、その少し手前にいる高年齢層に偏在しているので、その形成済みの資産が消費に充当されるために計画的に取り崩されることは、資産形成と並んで、あるいは、それ以上に重要なのである。

そこで、合理的な資産取り崩し方法の検討が政策課題として浮上してくるわけだが、資産の価値が自動的に崩れていくもの、即ち、元本が時間をかけて償還されていくものが、年金生活者にとって、合理的な投資対象になることは明らかである。こうした資産は、いわば年金型なのである。年金型の投資対象であれば、資産は、意図的に取り崩すまでもなく、自動的に取り崩されるので、非常に便利である。

例えば、商業ビルへの投資とは、耐用年数の期間にわたって、初期投資額を均等に回収することであり、年金型である。いうまでもなく、実際には、修繕費等の発生があり、また賃料や管理費用の変動があるから、完全な均等回収とはならないが、不動産投資が構造的に年金型であることに変わりない。そして、不動産投資に限らず、発電所、船舶や航空機等の輸送用機器などを対象とした実物資産投資と呼ばれる領域では、投資対象に耐用年数がある以上は、必ず年金型の投資になる。

理論的には、商業ビルのほかにも、様々に年金型を作ることができる。高齢者の資産取り崩しに適合した年金型の資産をいかにして創出するか、これが投資運用業の重要な課題なのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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