米議会6/24-29:最高裁の動きに注目/トランプ vs. バイデンREMATCH 2024

上院は2週間の休会に入ったため、上院議会のみです。夏の長期休会まであと少し。

先週の米議会を振り返り、今週の下院

先週は下院が休会だったので、上院のみ。

判事・政府高官の承認を除き、投票があったものは2件。

1)Fort Belknap Indian Community Water Rights Settlement Act of 2024

フォートベルナップインディアン居留地における水利権に関する法案は全会一致で可決した。ただしこれは下院ではまだ審議もしていない※1)

2)S.870 – A bill to authorize appropriations for the United States Fire Administration and firefighter assistance grant programs, to advance the benefits of nuclear energy, and for other purposes.

Fire Grants and Safety Act(S.870)に、原子力発電の導入を促進するためのAccelerating Deployment of Versatile, Advanced Nuclear for Clean Energy Act(通称:ADVANCE Act)が盛り込まれて可決した。

上院は賛成88票となり、反対はたった2票(サンダース上院議員・マーキー上院議員)となった。下院は既に可決しているので、バイデン大統領の署名待ち。署名するとは宣言していないがおそらく署名すると思われる。

ADVANCE Actを推進したカーパー上院議員(民主党)は、この法案が成立することで米国のクリーンエネルギーである原子力発電の導入が促進されるとしている。二酸化炭素を排出しない原子力発電は、気候変動に関する目標を達成するのに欠かせない役割を果たすとも説明している※2)

同じく法案を推進したキャピト上院議員(共和党)は、 アメリカの将来にとっての原子力の重要性を米議会が認識したことを示す超党派法案であり、原子力技術への技術革新と投資を促進すると述べている※3)

具体的には以下の内容が盛り込まれた※4)

  • 新しい原子力技術の認可プロセスをスピードアップする方法を検討するようNRC(原子力規制委員会)に指示。
  • 先進的原子炉の認可を受けようとする企業の規制コストを削減するとともに、次世代の原子炉技術の導入に成功した場合にインセンティブを付与。
  • NRCに対し、先進核燃料の認定・認可能力を強化するよう指示する。
  • 他国における先進的原子炉の開発を支援し、先進的原子炉の規制を策定する国際フォーラムでNRCが主導できる権限を付与。
  • 米国の原子炉技術の輸出を承認するプロセスを改善するよう米エネルギー省に指示。

そういえば、 2024年3月にTerraPowerはNRCに先進的原子炉の建設許可の認可申請をした。米エネルギー省の先進原子炉実証プロジェクト(ARDP)に選ばれたのも TerraPowerとX-energyだった※5)

どこまでスピードアップできるかは疑問が残るが、注目しておきたい。

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今週の下院は、2025年の年度予算をいくつか進める可能性があるようだ。ただ、総選挙前なので上院が動くことはないと思うので最終的に9月末につなぎ予算を可決して来年の議会で決めさせることになると思われる。

ただ、下院共和党の年度予算の内訳と採決はよくみておいたほうがいいと思っている。2024年総選挙で上下院は共和党が勝利する可能性が高いと私はみているので、今回だされた予算が来年また出される可能性が高いからだ。

今週も最高裁の動きに注目

米最高裁の法廷は10月第1月曜日にはじまり、6月下旬または7月上旬まで続く。今年のカレンダーを見る限りは、6月末までとなっている。6月下旬に重要な判決が集中する。まずは、先週の振返り。

1. 最高裁は特定の外国法人に出資した含み益への課税を合憲とする判断を示す(Moore v. United States)

まず、Moore v. United Statesについて。

ムーア夫妻は2005年にインド法人KisanKraftに4万ドルを投資し、株式の13%を取得。その後、配当金・分配金は受け取らず、同社に再投資していた。そして、2017年にトランプ政権および米議会はトランプ減税(Tax Cuts and Jobs Act)が成立。税制改革の一つである、外国法人に対して少なくとも10%の持ち分を有する米国人に、1回だけ適用される強制本国環流税(MRT)が成立。1986年以降の利益に遡ることが盛り込まれている。

原告であるムーア夫妻は、この課税のせいで約15,000ドルを支払わなければならなくなった。保守系団体の援助を得て、この税金の払い戻しを求めて連邦政府に訴訟を起こしていたのだ。

判決としては、7名の最高裁判事がこの課税は合憲であると判断した。

しかしながら、含み益への課税を合衆国憲法は合憲としているとまでの判断は示さなかった。むしろ、含み益への課税が合憲かどうかは、未解決の問題のままだと多数意見で主張している。

一方で、Vox※6)では一歩踏み込んだ記事を書いており、今回の意見書は、未実現利益への課税(通称:富裕税)はほぼ不可能だということを示唆しているとした。直接税は州の人口に応じて配分されると合衆国憲法修正第16条で定められているため、憲法に違反しない設計は困難を極めるとのことなのだ。また、カバノー判事は議会がそもそも未実現利益に対する課税権限を保有しているかに対しても疑問視する見解を述べている。

ウォーレン上院議員(民主党)をはじめとしたプログレッシブ議員は、かねてから富裕税(未実現利益に対する課税)を推進してきていた。仮に、民主党が近い将来オールブルーを実現できたとして、現在の最高裁判事の構成では違憲判決を出す可能性が高いということだろう。

2. 今週に発表されるかもしれない重要判決

最高裁のカレンダーによると、次の意見発表は26(水)に設定されている※7)。まだ未解決で重要な発表が残されている。バイデン大統領とトランプ氏のテレビ討論会が27日21時~(東部標準時間)に開催されるので、その前日に重要判決が出てくることになるだろう。

① トランプ氏の大統領免責について(Trump v. United States)
ワシントンD.C.巡回区控訴裁判所は、トランプ氏には免責がないとし、現職の大統領に適用される刑事免責は元大統領には適用されないという判決を下している。

それに対して、トランプ氏は、大統領には免責があると上告した。4月の口頭弁論では、 全面的な訴追免除に判事らは懐疑的な見方を示す一方で、結論が長期間先送りされる可能性を示唆していた※8)

② 政府権限の縮小につながる訴訟(Loper Bright Enterprises v. Raimondo; Relentless v. Dept. of Commerce)
1984年に政府機関の制定法の解釈が妥当である限り、裁判所は連邦省庁の解釈に従うべきだと最高裁が判決をだした。これにより、曖昧と受け取れる解釈であったとしても、裁判官は政府機関の解釈に従う傾向が強まってきた。

多くの最高裁ウォッチャーは、最高裁がシェブロン定理を明確に覆すのか、全面的に覆すというよりは、範囲を限定して覆すかどうかだ※9)

③ バイデン政権のSNS企業への接触について
LA州とMO州の州司法長官および5名のソーシャルメディアユーザーが、バイデン政権がSNS企業に対してコンテンツの管理を行うよう過剰に圧力をかけたとして訴訟された。

連邦当局はSNS企業に対して政府が潜在的に危険と見なした内容を削除するよう「強制」したとしており、憲法修正第1条の言論の自由が侵害されていると原告は主張している。削除を依頼した内容としては、COVID19に関するものや、大統領選挙の結果に関するものがある。

④ FL州・TX州法の SNSに関連する法律
FL州とTX州は、政治信条に基づいてユーザーの投稿が編集または削除された理由についてユーザーに個別に説明することを義務付ける包括的な法律を制定。

Tech業界団体のNetChoiceとComputer and Communications Industry Association(CCIA)は、この法律は民間企業の憲法修正第1条の権利を侵害しているとして異議を申し立てた。両団体は、民間企業がどのような言論を受け入れるかを政府が決めることは許されないと主張して訴訟をおこした。

もし、最高裁がTX州とFL州の広範な法律を全面的に支持するならば、何もしないこと、つまりコンテンツモデレーションをまったくしないことが起こることになる。

Trump vs. Biden rematch 2024、シナリオは変更なし

以下の記事を3月18日に書いたのだが、今のところシナリオは変更していないしトランプ氏が2016年に獲得した選挙人数を上回る可能性はますます高くなっているといえる。

Trump vs. Biden rematch 2024:トランプ氏は2016年に獲得した選挙人を上回る可能性あり – 指数を動かす米議会

民主党はすでにFL州・GA州・AZ州ではバイデン大統領は勝てないと認めている状況なんですよね。で、バイデン大統領(というか民主党)は、PA州・MI州・WI州をなんとしても獲得しようと必死なわけです。ただ、問題がこの3つ全州獲得しないとバイデン大統領は負けるわけです。

WI州・MI州ではバイデン大統領がわずかにリードといった世論調査※10)は出てくるけど、PA州が一向に出てこない。そうなるとこのような選挙人獲得の結果になるのではないでしょうか。

で、「NE州を忘れるな、バイデン大統領が勝つ可能性はある」とコメント頂いたのですが、3月の記事で私もその可能性は指摘しています。

仮にブルーウォール3州をバイデン大統領が獲得できた上で、NE州で1名を獲得できたら、たった1名差でバイデン大統領が勝利する可能性はある。確かに、2016年・2018年はNE州5名がすべて共和党が獲得したが、2008年、2020年は1名が民主党が獲得していた。

とはいえ、現在上下院議員が全員共和党議員で、NE州選出の連邦議員はBrad Ashford氏(2015-2017)以降、誰もでてきていない。NE州州議会でも2016→2020→2022年という推移で民主党の議席数は15→17→17で勢いがあるとは言いがたい。なので、NE州で1名獲得というのは難しいというのが私の見解です。

連邦議会選挙については、上下院ともに共和党勝利で予測は変わっていません。2024年は上院で再選挙となる議席数が少ないというラッキーな側面がありますし、選挙区区割りの法廷闘争が一区切りついたのもあります。

選挙区割りを巡る法廷闘争は一区切り。連邦議会選挙は上下院で共和党がわずかにリード、オールレッドの可能性も。 – 指数を動かす米議会

予備選をみていると、フリーダムコーカス議長のボブ・グッド下院議員が対抗馬に負けそうになり、再集計となったり色々とドラマは起きています。

グッド下院議員は、デサンティスFL州知事を大統領選で強く支持していたし、マッカーシー元下院議長の解任投票に賛同した人物です。トランプ氏とマッカーシー元下院議長に支援された John McGuire氏が勝ってしまうかもしれませんね。党内の勢力争いは色々と起きています※11)

トランプ氏も自分を早くから支持しなかった議員は落選させたいようですね。このあたりも非常に面白い動きです。

【参考文献】

※1)Senate passes Fort Belknap water compact settlement that includes Milk River Project rehab funds
※2)ON THE SENATE FLOOR, SENATOR CARPER ADVOCATES FOR THE PASSAGE OF THE FIRE GRANTS AND SAFETY ACT
※3)CAPITO’S BIPARTISAN ADVANCE ACT SET TO BECOME LAW AS PART OF LARGER BILL
※4)US Senate passes legislation to speed nuclear deployment
※5)First TerraPower advanced reactor on schedule but fuel a concern
※6)The Supreme Court’s new tax decision is great news for billionaires
Court upholds Trump-era corporate tax on foreign earnings
※7)Supreme court
※8)Supreme Court sounds conflicted over Trump criminal immunity
※9)What would Congress do without Chevron deference?
※10)https://www.realclearpolling.com/polls/president/general/2024/michigan/trump-vs-biden
※11)Bob Good raises election integrity suspicions as he trails challenger


編集部より:この記事は長谷川麗香氏のブログ「指数を動かす米議会」2024年6月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「指数を動かす米議会」をご覧ください。